乙女塾 西原さつき
Photo: Keisuke Tanigawa
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世界のトランスジェンダー女性が驚く「乙女塾」の女性化レッスン

1000人にメイクや女声を指導する「乙女塾」主宰の西原さつきにインタビュー

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女性的なメイクや話し方など女性化レッスンを行う乙女塾は、10〜70代の幅広い年代が教えを請いにやって来る。国内にとどまらず、中国やシンガポールやアメリカ、ドイツなど、世界中から問い合わせがあるという。

主宰者は、自身もトランスジェンダー女性であり、乙女塾でボイスレッスンを担当する西原さつきだ。ドラマや映画に登場するトランスジェンダー役の演技指導からモデル業まで幅広く活躍する西原は、今、この乙女塾に力を入れている。

2016年の開校以来、延べ1000人が乙女塾のレッスンを受けたという。さまざまな年代、文化圏のトランス女性と向き合ってきた西原に、トランスジェンダーの生き方について聞いた。

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近年の乙女塾と西原さんの仕事について教えてください。

まず、私はコロナ禍になってから、モデル業など今までやっていた仕事が半分くらいに減ったんですね。いろいろと見つめ返す時間ができて、自分が関わっている仕事について考えてみた時、乙女塾がすごく必要とされていると感じました。コロナ禍でも問い合わせは減らず、むしろ生徒の人数はちょっとずつ増えていたんです。

最近、特に20代前半の生徒が増えていて、すごくびっくりしています。乙女塾を頼らなくてもインターネット上には、YouTubeやSNSなど、女性化するためのノウハウってたくさんあるじゃないですか。だから、若い世代には乙女塾はあまり必要ないと思っていたんですよ。でも、思いのほか需要があるんだと分かりました。

ーコロナ禍が始まってから生徒さんが増えたんですね。

最初は謎だったんですよね。大学生の生徒には「週3で通いたい」と言ってくれる子もいます。理由を考えてみると、結局のところ乙女塾が求められている役割は、「居場所」なのかな、と。

コロナ禍ではいろんな集まりが中止になりましたよね。乙女塾は現在、マンツーマンレッスンを行っているのですが、対面で自分を認めてくれる場所がとても大事だと思ったんです。この場所をよりどころにしている若い世代が多い気がしています。

「こんなレッスン見たことない」、カタコトの日本語で届く問い合わせ

ー海外からの問い合わせは、どのような方が多いのですか?

真剣に性別移行を考えている方が多いですね。中国の方でしたけど、祖国で認められていないから、日本に移住して性別移行して暮らしたいという方がいました。国に帰ったら性別移行はできないし、しても家族に縁を切られてしまうと言います。中には死を覚悟している人もいました。

日本は性別移行しやすい土壌があると、良い印象を持っている人が多いようです。戸籍を変えられるし、病院も充実している。それこそ新宿二丁目とかもあったりして、母国に比べたら寛容と感じているのかもしれません。みんな一様にホッとした顔をしています。

問い合わせる人の国籍は実にさまざまです。シンガポールやマカオ、香港のほか、台湾、ドイツやアメリカの方もいます。どこの国から来た人も、みんな口をそろえて言ってくれるのが「女性化のレッスンスクールを初めて見た」「ほかで見たことがない」ということです。国がLGBTQ+に寛容でも、女性として生活するための実用的なレッスンがあるかどうかは別なんでしょうね。

乙女塾では日本語で教えているので、実際に受けに来られるのは、カタコトでも日本語ができる方です。時々、英語でメールをくれる方もいます。まだ英語版の乙女塾のウェブサイトを作っていないのに、見つけ出してくれるんですよね。

こういった経験から、やはり乙女塾はみんなに求められている場所だと感じ、もっと力を注いだ方がよいと考えました。私はボイスレッスンの先生をやっていたので、ちゃんとした授業を生徒さんに届けたいと思って声優学校に通ったんです。生徒さんが望む女声を出せる方法を学ぶことで、より良い教え方を模索することができました。

ー女声を出すために重要なポイントは何ですか?

女性らしさや男性らしさは、声の高さだけではなく、話し方にも違いがあるんです。男性はフラットな話し方で、語尾が下がりやすい。一方、女性は抑揚があって、柔らかい語尾で話す傾向があります。無意識に身に付けた表現力に男女差があるんですね。

また、高い声を出すといっても一筋縄ではいきません。一瞬だけ高音を出せる人は結構いますが、ずっとその高さで話し続けるのは大変で、3分と持たない人だっているでしょう。ずっと高い声でいるためには、発声練習をして表情筋や喉周り、腹筋などの筋肉を鍛える必要があるんです。

乙女塾では音程チェッカーを導入し、生徒さんが今どれくらいの声の高さを出せているか、数字や音階で確認できるようにしています。これによって、より分かりやすいレッスンになっていると思います。

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「子どもを産んで母になりたい」と一番苦しんだ20代

ーなるほど。しかし、数字で音の高さが可視化されると、女性じゃないという事実を突きつけられるようにも思いますが……。

そういった感想は、友達からもよく聞きます。私は男性に生まれたことをコンプレックスに感じていた時期があって、できるだけ生まれながらの女性のようになりたいと思ってきました。

私が思い悩んでいたのは見た目よりも、自分が理想とする女性としての生き方ができないこと、具体的には「男性と結婚して子どもを産んでお母さんになれない」ことでした。乙女塾を立ち上げる1年前、29歳の頃は本当に悩んで一番つらかったのを覚えています。

ただ、そんな自分を否定することなく、今の生き方でいいんだと背中を押してもらえたことがありました。それは、2018年にNHKで放送されたドラマ『女子的生活』です。

そのドラマで、私は主人公でトランスジェンダー女性役に演技指導をする立場で、作品づくりに参加しました。主人公のキャラクターはある程度自立心があって「男にこびない女性」です。すると、ドラマを見た当事者たちからは良い反響や共感がたくさん届いて……。主人公の生きざまが受け入れられたことで、なんだか私の生き方も肯定されたような気持ちになれたんですよ。

その後、乙女塾でさまざまなトランス女性の方と出会えたのも、自分を肯定するきっかけになったと思います。

年代によって大きく違う性別の捉え方

レッスンに来てくださる方は10〜70代と本当に幅広い年代の方たちで、望む女性の姿は実にさまざまです。

10代や20代の若い世代は、性別を変えることにいろんな意味でライトです。親御さんもそれを応援していて、一緒にレッスンに参加することもあります。「すみません、性別変えたいんですけど」って、普通のテンションで来るんですよ。

一方、40代以上の人は「やってはいけないものだ」と、厳しい表情でいらっしゃる方が多いですね。悩んでこられた時間が長いというのもあり、若年層と比べるとヘビーな雰囲気です。これは世代の差を大きく感じます。

ーレッスンを通して、価値観が変わったことはありますか。

すごく変わったと思います。いろんな価値観を持つトランス女性に出会い、人によって望む女性像も価値観も全然違うんだなと驚かされました。

乙女塾の指導内容も変わってきています。性別違和に悩んでいないシスジェンダー女性や、男性的になりたい、男性として生活したいというトランスジェンダー男性へのレッスンも請け負っています。それだけでなく、男性になりたいわけでも、女性になりたいわけでもないというノンバイナリーの生徒さんもいます。

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今日よりも、明日はもっと輝く自分へ

ーノンバイナリーなど、男性か女性かの二者択一とは異なる性の在り方も広く知られるようになってきました。

私の人生にとっても、それは大きな意味があったと思います。以前は、男性か女性かのどちらかにならないといけないと思っていました。生まれながらの女性にはなれないけれど、かといって普通の男性として生きることもできない……。

数年前までは、そのどっちでもない、はざまの人は認められない空気でした。しかし、「どっちかじゃなくてもいいじゃん」という世の中になってきたことは、すごくありがたいと感じています。明らかに私自身の自己肯定感が上がった気がしますね。

乙女塾は今、「明日にかける魔法」というキャッチコピーを掲げています。女性らしさや男性らしさは、人それぞれです。分かりやすく男性を女性化するレッスンと表現することもありますが、乙女塾が目指すのは「昨日、今日よりも明日の自分が輝くため」のお手伝いの場です。生まれた時の性別は変えられなくても、明日はもっと輝くための後押しをしていきたいですね。

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トランスジェンダー、MtF(Male to Female)、女装、自信が持てない女性など、性にまつわる悩みを抱えている人に、女の子らしくなるためのレッスンを提案する学びの場。自分に合ったメイクを、買い物から同行して教えてくれるなど、きめ細かな指導をしてくれる。

レッスンは全部で5種類。中でも、俳優にトランスジェンダー女性の演技指導などを行っている西原さつきのボイスレッスンに注目だ。日本国内だけでなくシンガポールや中国、ドイツやアメリカなど世界各国からの問い合わせも多いという。

レッスンでは、女性らしい発声方法をレクチャー。そのほか、自分らしいメイクを考えてくれるメイクレッスンや、地方に遠征して1日レッスンしてくれるプランも試してほしい。

1カ月1レッスンでおよそ1万円ほどだが、2回目以降は割安で通える。気になる人は無料の説明会に参加してみよう。

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