アメリカの同性婚
画像提供:キャシー・ドラスキーキャシー(左)とヴィッキー、サンフランシスコの市役所にて
画像提供:キャシー・ドラスキー

日本の有権者にもできる、アメリカの同性婚と政治について知っておくべきこと

アメリカ活動家カップルと日本の弁護士にインタビュー

寄稿:: Yuki Keiser
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タイムアウト東京 > LGBTQ+  > カイザー雪の「Pride of the world #2」

2024年11月から、東京都世田谷区と中野区の住民票に同性カップルも続柄が事実婚の異性カップルと同様に記せると公表され、話題を呼んだ。

日本・アメリカ・スイスの3拠点で生活し、通訳や執筆などの仕事をしているカイザー雪が、6回にわたって世界のリアルなLGBTQ+事情を伝える「Pride of the world」シリーズ(第一回はこちら)。第2回は、そうした流れを汲み、今回、2019年から国内で結婚の平等(いわゆる同性婚)を応援する公益社団法人「マリッジ・フォー・オール・ジャパン」(以下MFAJ)の理事を務める弁護士の上杉崇子と、サンフランシスコでLGBTQ+の家族の移民問題に取り組んできたレズビアンカップル、キャシー・ドラスキーとヴィッキー・フォレストにインタビューを行った。

それぞれに、日本とアメリカの現状や同性婚とパートナーシップ制度の違い、直面してきた困難、サンフランシスコの魅力などについて話を聞いた。

Pride flags
Photograph: Shutterstock

結婚の義務と権利が一つも得られていない

2015年に東京の渋谷区と世田谷区で同性パートナーシップが結べるようになってから、現在では国内の人口カバー率でみると85パーセント以上もの地区が実施している。当事者にとっても大きなターニングポイントとなったが、MFAJの団体をはじめ、多くが同性婚を渇望しているのも事実。ではどうして同性パートナーシップ制度では不十分なのだろうか? 

「導入は画期的なことで、日本もこの10年間で大きく変わったのですが、端的にいうと、同制度では結婚に伴う法的な義務と権利が一つも得られていないんですね。結婚制度を改正する権限は国だけが持っているので、国が動かない限り、自治体だけでは限界があるんです。たとえば遺産相続の権利、子どもの親権、カップルの扶養義務、国際カップルの外国人の在留ビザなどは、法的保護がなく、極めて不十分です。とても深刻な問題なんです」と、上杉は語る。

アメリカの同性婚
画像提供:キャシー・ドラスキー「平等は幸せにさせてくれる」

世論調査では、過半数が同性婚に賛成

そんななか、同性カップルが結婚できないことは憲法違反だと、2019年に札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の五か所の裁判所に歴史的な訴訟が起こされた。「大阪以外の裁判所で、同性カップルについて結婚を認めず、結婚に代わる措置を一切用意していない現行法を違憲ないし違憲状態とする判決が出たんです。訴訟を通じて性的マイノリティーについての報道も格段に増えました。 その意味で、世論を喚起させる面でも有意義なアクションだと思います。

最近の調査によると、日本に住む人の過半数以上が同性婚に賛成しています。そういった社会や時代の変化を見れば、本当は今すぐにでも同性婚の法制化が実現されるべきです。ただ日本の場合、いわゆる「伝統的な家族観」をとても重視している一部の政治家が政権に強い影響力をを持ち、その人たちが同性婚に断固反対している。それも一つの要因となり、国会での議論がなかなか進展しないのだと思います。

選択的夫婦別姓制度も同様ですね。とはいえ、国民世論がものすごく高まれば、政治家も無視できなくなるはずです。また、世論の動きを裁判所も注目しています。ですから、世論の盛り上がりは本当に重要なのです」。

アメリカの同性婚
画像提供:キャシー・ドラスキー2013年、同性婚を禁止していたDOMA法が廃止されたとき、多くの人が祝福の声をあげた

アメリカがぶつかった最大の壁

アメリカも同性パートナーシップ制度*から始まり、その後一部の州で同性カップルが結婚できるようになったが、2013年までは国から認められていなかった。2015年に米国最高裁判所の判決で、ようやくアメリカ全州で権利が保障されるなど、その長い道のりには多くの障壁があったのだ。

「アメリカがぶつかった最大の壁は、1996年にクリントン元大統領が署名したDOMA法。結婚を男女間に限定して、同性婚を禁止するためだけに作られた法律なんです。当時はどんなに州が同性婚を受け入れても、結局国レベルでは有効ではなかったんです。現在の日本同様に、結婚の権利がほぼ得られていなかったんですね。それで本当に多くの国際同性カップルや家族が離れ離れになっていたんです」と、ヴィッキーは語る。

*アメリカでの名称は、「ドメスティック・パートナーシップ」。

アメリカの同性婚
画像提供:キャシー・ドラスキー2008年5月にカリフォルニアで同性婚が可能になったものの、その半年後には無効に

同性婚が可能になっても数カ月後には無効に

そんな、アメリカ人のキャシーとオーストラリア人のヴィッキーも、国際同性カップルだ。ヴィッキーは労働ビザで2001年に渡米して、二人は同年に出会い交際を開始。「2004年にヴィッキーのビザが延長できないかもしれないときがあったんです。ちょうどその年、サンフランシスコで同性カップルが結婚できるようになったので移民局は認めてくれないけど、少しでも自分たちを守るためにも『結婚しておこうか!』ってなったんです。でもその数か月後にはカリフォルニア州最高裁が全て無効にするよう命じました」と、キャシーは振り返る。

そのため訴訟が行われ、2008年5月に同最高裁が同性カップルが結婚できないのは違憲と判決が下されたものの、11月にはカリフォルニアの住民投票で同性婚がまた禁止に。そういった前進後退の繰り返しが、一部のアメリカ人の確固たる反対の気持ちをうかがわせる。二人はその後2011年にカナダで結婚し、2013年にDOMA法が廃止され、ようやく国から権利が守られるようになった。

アメリカの同性婚
画像提供:キャシー・ドラスキー国際同性カップルなどの移民問題をサポートしていた団体Out For Immigration

政治家が犠牲にしていたマイノリティーが膨大な票だと気づいたとき

20年以上、根強い反対派と支持者の間で繰り広げられた争いのなか、どのように同性婚の実現に至ったのだろうか。「たとえば私たちが関わっていた団体Out For Immigrationもそうですが、数々の草の根運動も貢献したのだと思います。移民専門の弁護士と組んで法についてのセミナーを開催したりなど、あらゆる方面で支援や情報提供に力を注いでいました。

そもそもクリントンがDOMA法に署名したのは、大統領選の勝利に不可欠な保守層の票を得るためだったんです。同様に多くの政治家がLGBTQ+の人たちを選挙のために犠牲にしていたのですが、ある日、その層の数が実は多くて、さらにそのグループを支持する家族や友人たちが数百万人にも及ぶと気づいてから、流れが変わり始めたんです。

さらにアメリカ人は自分の経験をシェアするのが好きだから、置かれている境遇などをテレビ番組で訴えたりして、知ってもらうことで、徐々に世論の共感も得られたんですね。そうやって、少しずつ同性婚は平等の問題だと理解してもらえたんです」(キャシー)

連邦最高裁が初めて権利の取り消しを認める

2022年にアメリカ連邦議会の下院が同性婚を保護する「結婚尊重法案」を可決し、バイデン大統領の署名で成立した。長い紆余曲折があったが、ついにアメリカの同性婚は確実なものになったのだろうか。

キャシーは次のように語る。「確かに最近まではそのように確信していましたが、2022年に連邦最高裁判所が『人工妊娠中絶は女性の権利』とする1973年の判断を覆したとき、絶望感に打ちひしがれました。これまで、連邦最高裁は一度認めた権利を取り消したことはないんです。ですから、元大統領であるトランプの下で保守派が過半数になった現在の連邦最高裁では、同性婚も含めどんな権利であっても脅かされる危険があると痛感しました」

アメリカの同性婚
画像提供:キャシー・ドラスキーヴィッキー(左)とキャシー

自分らしさと個性を尊重する街サンフランシスコ

そのため、来月の米大統領選を控えて、アメリカではいま緊迫感が全土に漂っているのだとか。そんななか、サンフランシスコは変わらずLGBTQ+にとって最も住みやすい街なのだとキャシーはいう。

「ここに36年間住んでいますけど、個人的に差別を受けたことはないですし、自分らしさと個性を尊重する街で、どこでも自然にカミングアウトできます! 世界最大級のゲイエリア・カストロ地区もにぎやかで活気にあふれています。街の中心部にはグルメなレストランやおしゃれなバーが密集していますよ。例えば、カフェレストランZuniや、私たちの初デートスポットのピアノバーMartuni’sがおすすめです。ちょうど再来年、二人の交際25周年になるので、そこで祝いたいですね!」

サンフランシスコのように、街単位で柔軟な姿勢で制度改革を実行したり住民の意識が変わったりするなど、新たなスタンダードと見なす場所が増えているように思われる。しかし、アメリカはいま大統領選で大きな岐路に立っている。選挙結果がどのような変化をもたらすのかを多くの人が固唾をのんで見守っている。

日本でも、202410月1日に総理大臣が石破茂に変わり、9日には衆議院が解散、27日(日)には総選挙の投開票が行われる。アメリカ同様に、国内の政治も大きな転換期を迎えているようだ。マイノリティーだと思われていた人々が政治と結びついたことで、アメリカでは大きな権利が認められた。私たちもそこから学べることがあるかもしれない。

Writer & Translator

カイザー雪(Yuki Keiser)

スイス・ジュネーブ大学文学部卒業後、奨学金プログラムで東京大学大学院に2年間留学。現在は日本・アメリカ・スイスの3拠点で生活し、通訳、執筆、語学教師(日本語・フランス語・ラテン語)をしている。

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「パリオリンピック」と「パリパラリンピック」が終了して、まだ余韻に浸るパリジェンヌも少なくない。開会式のドラァグクイーンなどが登場するシーンが物議を醸したが、競技がスタートしてからは全員が一心同体となって選手たちを熱く応援し、イベントは高評価で幕を閉じた。

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2024年4月、犬専用のおしゃれなセレクトショップ「ペギオン」が中目黒にオープンした。DJでファッションブランド「POOLDE」のデザイナーでありディレクターのPELIと、ファッションブランド「G.V.G.V.」などを展開する「K3」の元WEBセールスマネジャーAYAKOが5年前に立ち上げたブランドだ。

モード界で活躍している二人は2013年に交際を始め、2024年1月に10年目にしてパートナーシップを結んだ。ビジネスもプライベートもともにしている、おしどり「婦婦」である。

そして、二人は大の犬好きとしても知られる。「犬が側にいるだけで幸せ。強くなれる唯一無二の存在」と語る彼女たちは、「ペガサス」と元保護犬の「オリオン」を中心に生活を送っている。犬を愛してやまないがゆえにスタートした店への思いやこだわり、カップルで会社を経営することに当たって大切にしていること、同性婚などについて聞いてみた。

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2021年現在、フランスやアメリカ、イギリス、ドイツ、台湾をはじめ、世界の数々の国で同性婚が法制化されているなか、日本では3月17日に札幌地方裁判所が「同性婚を認めないのは違憲」という歴史的な判断を下し、大きな注目を集めた。

同性婚が導入された時期や経緯、きっかけは国によって違うが、興味深いことにアメリカの同性婚の法制化も裁判から始まっている。ニューヨーク在住のEdith Windsorが、カナダ、トロントで結婚していた妻が亡くなった際、国に3,000万円以上の遺産相続税を請求されたことが発端だ。この場合、結婚している異性愛者であれば相続税がかからないことから、2010年にWindsormは訴訟に踏み切った。「結婚を男性と女性の間のみ」と定めた1996年のDOMA法が、彼女たちの結婚を国が認めない理由だったのだ。

当時、同性婚が可能なアメリカの州で結婚していても、同性カップルは遺産の税金軽減や国際結婚によってのビザなどの特権が得られなかった。その後2013年6月に、最高裁がDOMA法を違憲として17年ぶりに廃止し、2015年にはアメリカ全州に同性婚が導入された。個人の訴訟が、アメリカ全土のLGBTQ+の権利獲得に貢献し、そのおかげで多くの同性カップルがようやく家族になれたのだ。

そういった面で日本も現在、当時のアメリカに少し似ているのかもしれない。2015年から渋谷区や世田谷区などいくつかの地域で同性パートナーシップ宣誓制度が導入されているものの、国レベルでの権利獲得はまだないのが現状。しかし、同制度のおかげで、LGBTQ+の権利への意識が徐々に高まってきているのも事実だ。

今回、同判決を受けて、国内外のLGBTQ+事情に精通している市川穣嗣(Georgie Ichikawa)にインタビューを行った。市川はイベント『ミスターゲイジャパン』の創始者の一人で、2020年から彼が行っている同性婚賛同の署名活動も話題を集めた。LGBTQ+が直面する問題や同性婚の意義、同性パートナーシップ宣誓制度との違いなどについて話を聞いた。

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1900年初頭から、アメリカを中心に女性たちは賃金格差の解消、職場環境の改善、選挙権などを求めて闘ってきた。そして1975年、国連によって3月8日が「国際女性デー」として制定された。

女性の権利を守り、ジェンダー平等を実現する国際女性デーは、全ての女性のための日であることを忘れてはならない。そこには、*1シスヘテロ女性だけでなく、もちろんレズビアン女性、バイセクシュアル女性、トランスジェンダー女性なども存在する。

世界から見ても、あらゆるLGBTQ+店舗が密集した特殊な街、新宿二丁目。「LGBTQ+タウン」として知られているが、レズビアンに開かれたバーは少ない。伏見憲明の著書「新宿二丁目」によると、二丁目にあるバーは約450軒。その中の381軒がゲイバーと想定され、*2レズビアンバー(通称:ビアンバー)は30軒ほどだ。

少数派の中でも少数派であるレズビアンの歴史は、当事者が語ることも他者から記録されることも少ない。届かぬ「L」の声とは何か。そして、「L」の居場所はどのように作られているのか――。

今回は、新宿二丁目にあるレズビアンを中心としたバー「GOLD FINGER」のオガワチガ、「鉄板女酒場 どろぶね」の長村さと子、「おむすびBAR 八『はち』」のアバゆうが集まり、オーナーから見た新宿二丁目、さらには女性たちの居場所について語り合った。

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