マリー・キルシェン
画像提供:マリー・キルシェンマリー・キルシェン
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私たちがパリジェンヌ気質に見習うべきこと、フランスのリアルなLGBTQ+事情

同国のレズビアンマガジン編集長、マリー・キルシェンにインタビュー

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「パリオリンピック」と「パリパラリンピック」が終了して、まだ余韻に浸るパリジェンヌも少なくない。開会式のドラァグクイーンなどが登場するシーンが物議を醸したが、競技がスタートしてからは全員が一心同体となって選手たちを熱く応援し、イベントは高評価で幕を閉じた。

画像提供:マリー・キルシェン
画像提供:マリー・キルシェン

そこで今回、パリ在住の編集者であるマリー・キルシェン(Marie Kirschen)に話を聞いてみた。レズビアンをオープンにしているキルシェンは、さまざまな媒体の編集長やエディターを務めたほか、レズビアンマガジン『Well Well Well』を創刊、フェミニズムの著籍『Herstory』を執筆している。そして現在、レズビアンをテーマにした著書『Gouine(グイン(※)』を7人の共同著者と準備中だ。

そんな、フランスのLGBTQ+カルチャーに精通しているキルシェンに、自身の周りでのオリンピックの反響や、パリならではのおすすめスポット、フランスのLGBTQ+事情、お気に入りのクィアなミュージシャンなどについて語ってもらった。

※「グイン」とは、フランス語でレズビアンを指す差別用語。エンパワーメントとしてあえて当事者が使っている言葉。

大規模抗議デモが開催、同性婚には根強い反対も

1999年に、同性カップルも対応にしたパートナーシップ制度「パクス(PACS)」が導入され、2013年からは同性カップルが結婚できるなど、LGBTQ+フレンドリーに見えるフランス。実際はどうなのだろうか?

「確かに、同性カップルも結婚できるのでフレンドリーですが、その一方でホモフォビアや反発も少なくありません。例えば同性婚導入時、数10万人規模の抗議デモが何度も行われて、フランスには保守的なカトリック教徒が根強く反対していることも事実です。
それに、同性婚が法制化されてからも、2021年までは生殖補助医療は異性カップルに限定されていたんですね。結婚していても女性のカップルだけはフランスで同医療を受けられなかったので、つい3年前までは平等の権利を得ていなかったと思われます」

また最近では、特にトランスの人がヘイトの矛先になっているそうだ。

「極右や保守派の人が急にトランス問題を意識し始めて、メディアなどで攻撃するようになったんです。ですので、トランスの人がより安全に生きやすいようにすることが今後の課題ですね」

La Seine Olympique
La Seine Olympique © Paris 2024 - Florian Hulleu

開会式は独創的で前衛的、パリらしいモダンな演出

そういった背景もあって、オリンピックの開会式がキリスト教を冒涜(ぼうとく)したとして、一部で議論を引き起こしたのだ。LGBTQ+の人が登場するワンシーンが、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』を揶揄(やゆ)していると保守派や極右に捉えられ、波紋が広がった。

「実は、キリスト教ではなく、ギリシア神話のワインの神・ディオニュソスの大宴会を再現していたんですよね。一部で批判はありましたが、開会式は独創的で前衛的、パリらしいクラシック、かつモダンな演出という感想が大多数で、大好評でした。まあ、議論も含めて、ある意味フランスらしい式だったのかもしれないですね!」とキルシェンは笑う。

パリは愛の街! だからこそゲイフレンドリー

また、LGBTQ+の境遇は、都会と田舎でまた異なってくる。「通常、大きい町であればあるほどLGBTQにオープンという傾向があるので、パリは性的マイノリティーにとって住みやすいと感じています。もちろん、当事者にとって危険がまったくないとは言い切れませんが、わりと安全ではないでしょうか」

2001年から2014年までパリ市長を務めた男性がゲイだったことや、現市長のアンヌ・イダルゴ(Anne Hidalgo)が社会主義者ということもあり、パリ市の役所は以前からLGBTQ+フレンドリーだという。反ホモフォビアキャンペーンにも力を入れていて、LGBTQ+コミュニテーを支援する団体も豊富だそうだ。

「それに、なんといってもパリは『愛の街』ですから! さまざまな愛の形を支持していて、市役所も差別は容認しない方針です」

マリー・キルシェン
緑も多く、神秘的な「ペール・ラシェーズ墓地」(画像提供:マリー・キルシェン)

パリの醍醐味はやっぱり散策

そんな愛を謳歌(おうか)するパリのおすすめのデートスポットや、パリならではの街の堪能の仕方について教えてもらった。

「公園や古い建造物がロマンティックで風情ある街並みですので、散策や美術館がパリの醍醐味(だいごみ)ですね。例えば私のパートナーとの初デートは、ちょっと不思議に感じるかもしれませんが、『ペール・ラシェーズ墓地』(Cimetière du Père-Lachaise)です(笑)。そこは緑も多く神秘的で美しい他、作家や哲学者、アーティストなどの著名人のお墓がたくさんあるので、フランスの文化や歴史好きには欠かせない場所です。

パリにある公園はどこもすてきですが、例えば『アルベール カーン庭園(Albert Kahn Garden)』や『クレ ヴェルト(Coulée verte)』は比較的混んでいないので、穴場かもしれません。

また、パリジェンヌの王道デートコースと言えば、やはりセーヌの川岸。『ノートルダム大聖堂』辺りをそぞろ歩いたり、老舗店『ベルティヨン(Berthillon)』でアイスを食べたりするのも快適です。あと忘れてはならないのが、『ロマンティック美術館(Musée de la Vie Romantique)』。チャーミングなカフェやお庭もあるので、デートにも最適です」

さらに、街が一望できる『ギャラリー ラファイエット(Galeries Lafayette)』や『プランタン(Printemps)』の屋上も、街が一望できて捨てがたいという。散歩の途中に絶景を満喫しながら一息つけ、さらに無料ということもうれしい。

マリー・キルシェン
建築やレトロな看板が魅力的なパサージュ デ パノラマ/Photo: www.instagram.com/mariekirschen/

雨の日は、昔ながらの『パリの味』があふれるアーケード商店街もおすすめです。「例えば『パサージュ デ パノラマ(Passage des Panoramas)』や『パサージュ ジュフロワ(Passage Jouffroy)』『パサージュ デュ グラン セール(Passage du Grand-Cerf)』『ギャルリー ヴィヴィエンヌ(Galerie Vivienne)』など。老舗店が多く、建築やレトロな看板を眺めるだけでも楽しいですね」

フランスで注目のLGBTQ+ミュージシャン

最後に、LGBTQ+をオープンにしているミュージシャンについて語ってくれた。

「ここ数年、レズビアンを公表している多彩なアーティストがメインストリームの音楽シーンに新星のように現れました。例えば特に人気なのが、PommesuzaneAloïse SauvageHoshiなど。ゲイ男性では、Eddy De Pretto。彼は男らしさなどについて粋な歌詞を書いていて、ポピュラーです」

今回は、キルシェンがにフランスのLGBTQ+事情や、「愛の街・パリ」の魅力をたっぷり紹介してくれた。パリへ行く機会がある人は、ぜひ彼女がおすすめするスポットに足を運んでみてほしい。

Writer & Translator

カイザー雪(Yuki Keiser)

スイス・ジュネーブ大学文学部卒業後、奨学金プログラムで東京大学大学院に2年間留学。現在は日本・アメリカ・スイスの3拠点で生活し、通訳、執筆、語学教師(日本語・フランス語・ラテン語)をしている。

もっとLGBTQ+カルチャーに触れたいなら……

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2024年4月、犬専用のおしゃれなセレクトショップ「ペギオン」が中目黒にオープンした。DJでファッションブランド「POOLDE」のデザイナーでありディレクターのPELIと、ファッションブランド「G.V.G.V.」などを展開する「K3」の元WEBセールスマネジャーAYAKOが5年前に立ち上げたブランドだ。

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2021年現在、フランスやアメリカ、イギリス、ドイツ、台湾をはじめ、世界の数々の国で同性婚が法制化されているなか、日本では3月17日に札幌地方裁判所が「同性婚を認めないのは違憲」という歴史的な判断を下し、大きな注目を集めた。

同性婚が導入された時期や経緯、きっかけは国によって違うが、興味深いことにアメリカの同性婚の法制化も裁判から始まっている。ニューヨーク在住のEdith Windsorが、カナダ、トロントで結婚していた妻が亡くなった際、国に3,000万円以上の遺産相続税を請求されたことが発端だ。この場合、結婚している異性愛者であれば相続税がかからないことから、2010年にWindsormは訴訟に踏み切った。「結婚を男性と女性の間のみ」と定めた1996年のDOMA法が、彼女たちの結婚を国が認めない理由だったのだ。

当時、同性婚が可能なアメリカの州で結婚していても、同性カップルは遺産の税金軽減や国際結婚によってのビザなどの特権が得られなかった。その後2013年6月に、最高裁がDOMA法を違憲として17年ぶりに廃止し、2015年にはアメリカ全州に同性婚が導入された。個人の訴訟が、アメリカ全土のLGBTQ+の権利獲得に貢献し、そのおかげで多くの同性カップルがようやく家族になれたのだ。

そういった面で日本も現在、当時のアメリカに少し似ているのかもしれない。2015年から渋谷区や世田谷区などいくつかの地域で同性パートナーシップ宣誓制度が導入されているものの、国レベルでの権利獲得はまだないのが現状。しかし、同制度のおかげで、LGBTQ+の権利への意識が徐々に高まってきているのも事実だ。

今回、同判決を受けて、国内外のLGBTQ+事情に精通している市川穣嗣(Georgie Ichikawa)にインタビューを行った。市川はイベント『ミスターゲイジャパン』の創始者の一人で、2020年から彼が行っている同性婚賛同の署名活動も話題を集めた。LGBTQ+が直面する問題や同性婚の意義、同性パートナーシップ宣誓制度との違いなどについて話を聞いた。

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1900年初頭から、アメリカを中心に女性たちは賃金格差の解消、職場環境の改善、選挙権などを求めて闘ってきた。そして1975年、国連によって3月8日が「国際女性デー」として制定された。

女性の権利を守り、ジェンダー平等を実現する国際女性デーは、全ての女性のための日であることを忘れてはならない。そこには、*1シスヘテロ女性だけでなく、もちろんレズビアン女性、バイセクシュアル女性、トランスジェンダー女性なども存在する。

世界から見ても、あらゆるLGBTQ+店舗が密集した特殊な街、新宿二丁目。「LGBTQ+タウン」として知られているが、レズビアンに開かれたバーは少ない。伏見憲明の著書「新宿二丁目」によると、二丁目にあるバーは約450軒。その中の381軒がゲイバーと想定され、*2レズビアンバー(通称:ビアンバー)は30軒ほどだ。

少数派の中でも少数派であるレズビアンの歴史は、当事者が語ることも他者から記録されることも少ない。届かぬ「L」の声とは何か。そして、「L」の居場所はどのように作られているのか――。

今回は、新宿二丁目にあるレズビアンを中心としたバー「GOLD FINGER」のオガワチガ、「鉄板女酒場 どろぶね」の長村さと子、「おむすびBAR 八『はち』」のアバゆうが集まり、オーナーから見た新宿二丁目、さらには女性たちの居場所について語り合った。

*1 シスヘテロとは、「シスジェンダー」(生まれた時に割り当てられた性別と自認する性が一致する人)と「ヘテロセクシュアル」(異性愛者)を合わせた言葉。
*2 レズビアンバーと一口に言ってもそれぞれの定義は異なる。レズビアン、バイセクシュアル女性、トランスジェンダー女性など、あらゆるセクシュアルマイノリティー女性に開かれたバーを包括して「レズビアンバー」と呼ぶ場合がある。

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