新文芸坐
Photo: Keisuke Tanigawa(左)マルハンL&A営業部営業部長兼新文芸坐支配人の高原安未、(右)新文芸坐マネジャーの花俟良王(Photo: Keisuke Tanigawa)
Photo: Keisuke Tanigawa

リニューアルを果たす新文芸坐が示す、映画館でしか体験できないこと

新文芸坐支配人とマネジャーへインタビュー(後編)

寄稿:: Yuuki Mochizuki
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タイムアウト東京 > 映画 >リニューアルを果たす新文芸坐が示す、映画館でしか体験できないこと

池袋に構える名画座の新文芸坐が2022年4月15日(金)にリニューアルオープンする。その記念として『4Kで甦る 黒澤明』と題し、黒澤明監督の『七人の侍』『隠し砦の三悪人』『用心棒』などが4月15~23日(17日は除く)に上映される。

リニューアルオープンに合わせて黒澤作品を選んだ理由、さらにはサブスク全盛時代での名画座の在り方など、新文芸坐を経営するマルハンL&A営業部営業部長兼新文芸坐支配人の高原安未と、新文芸坐マネジャーの花俟良王(はなまつ・りょお)に幅広く話を聞いた。

前編はこちら

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池袋の新文芸坐が4月15日にリニューアルオープン、初回上映は「4Kで甦る黒澤明」

黒澤作品はビートルズのようなもの

―『4Kで甦る 黒澤明』の狙いは?

花俟:「こけら落しは黒澤作品しかない」と考えていました。というのも、弊社は2000年から新文芸坐の経営を担っているのですが、そのオープン記念として上映した作品が35mmフィルムでの『七人の侍』でした。今回は新文芸坐の歴史と進化を見せるために、『七人の侍』を4Kで上映することを決めました。

そういった歴史もありますが、私は「黒澤作品は映画の教科書みたいな作品」と考えているので、どうしてもリニューアルオープンでは黒澤作品にしたかったのです。

―なぜ黒澤作品にこだわったのですか?

花俟:人間の内面や言葉を重視した作品では、どうしてもその国の文化や宗教、習慣に影響してしまい、評価が分かれやすくなります。しかし、黒澤作品はとにかくルックがとても秀逸です。ビジュアルの構図や撮影技術など、ルックにフォーカスしており、世界中の誰が観ても黒澤作品はインパクトがあるでしょう。

―ある意味、誰でも楽しめる作品?

花俟:そう思います。黒澤作品は音楽でいうとビートルズです。誰でも入りやすい。そこからパンクロックやサイケ、テクノなどに枝分かれしてもいい。前回(前編)、名画座文化を残すための変化についてお話しましたが、そのためにはいかにライト層に興味を持ってもらえるかが重要です。

ですので、「まずは黒澤作品を通して、ほかの映画にも興味を持ってほしい」という思いを込めて選びました。ビートルズは無難な選択ではあるものの、何回でも聴けますよね。黒澤作品も何回観ても素晴らしい。ぜひその圧倒的なルックを堪能してほしいです。

高原:4Kバージョンの映画は数多くありますが、4Kで観られる映画館は少ない。旧作であればなおさらです。黒澤作品と聞くとハードルの高さを感じますが、リマスターされた素材とが一新された設備により映像が鮮明になり、セリフが聞き取りやすくなりました。とても楽しみやすい環境ですので、黒澤作品の面白さを新文芸坐で満喫してほしいです。

「駄作」と呼ばれた作品をあえて上映

―黒澤作品以外でも注目してほしい作品はありますか?

花俟:黒澤作品は日中通して上映するのですが、レイトショーでは『地獄の黙示録 ファイナルカット』『太陽がいっぱい 4Kリストア版』といった名作を上映します。

その中には、その年最低だった映画に送られる「ゴールデンラズベリー賞(通称ラジー賞)」を独占した『ショーガール』もこっそり入れています。当時は駄作といわれていたのですが、今観たらそんなことはない。名作と一緒に「今こそ観てほしい」と思える映画も選んでいます。

―隠れた名作にスポットライトを当てるのも、名画座の魅力ですね。

花俟:名画座では2本立ての場合、基本的に2本の作風を寄せる傾向があり、それが「その名画座の個性」と呼ばれます。例えば、私の勝手なイメージですが、早稲田松竹さんであれば、若者を捉える作家志向の強い作品、飯田橋ギンレイホールさんであれば、落ち着いて観られる大人な作品の組み合わせ(=個性)になります。

しかし、新文芸坐は組合せにとらわれたくない。4月27日、29日には『マリグナント 狂暴な悪夢』と『レイジング・ファイア』を2本立てで上映します。『マリグナント 狂暴な悪夢』はアメリカ映画なので、一般的に考えれば2本目もアメリカ映画となりそうですが、『レイジング・ファイア』は香港映画。両作は天井を突き抜けるようなエネルギッシュな映画なんです!今回、「素晴らしい映画を型にはまることなく発信する」という意思表明と「映画の裾野を拡げたい」という思いを込めて選択しました。

―作品を選ぶ際に意識している点はありますか?

花俟:当然「これは映画館で観てほしい」という作品を選ぶのですが、中でもアクション映画は映画館で堪能してほしいですね。激しい銃撃戦や壮大なアクションシーンは映画館でこそ、その価値を発揮します。

ドキュメンタリー作品であっても、映画館ならではの醍醐味(だいごみ)が得られるものも多くあります。例えば、2022年2月に日本でも上映された『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』というドキュメンタリーでは、洞窟内の地下水路を潜水するシーンは窒息するほどの緊張感でした。本当に何度も息苦しくなる展開の連続で、こんな体験は家では味わえません。

また、サブスクで配信されないインディー作品など、「映画館で観てほしい」と思える作品を見つけて上映したいですね。そもそも大勢で一つの画面を見つめるということは特殊な体験だと思います。

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映画館と家で観る映画は違う

―「サブスク」というワードが出ましたが、現在はサブスクリプションによる動画配信サービス全盛の時代です。自宅で映画観賞する人も増えましたが、サブスクが盛り上がっている現状についてどのように考えていますか?

高原:サブスクを通して、映画に興味を持ち、「大きいスクリーンでも観てみたいな」と考えて映画館に足を運ぶ人もいるため、私は「サブスク=敵」とは思っていません。そもそも、家で観るのと映画館で観る映画は別物です。

例えば、私が家で『ドライブ・マイ・カー』を観てもダラダラしそうですが、映画館であれば集中して観ることができ、作品の魅力を十二分に感じられます。なにより、心身ともに人との距離感が広がった昨今、「同じ作品を同じ場所で共有する」ことはなかなか得難い経験です。今の時代こそ、映画館は必要不可欠な居場所なのではないでしょうか。

花俟:当然、サブスクが映画館に与えるダメージは少なくありません。ただ、テレビが普及した時も、レンタルビデオ店が全国展開された時も、「映画館は終わった」と言われました。ですが映画館はまだ残っています。家と映画館で観る映画がいかに別物であるのかの証左です。

ちなみに、4月16日に『ジョン・ウィック』1~3をオールナイトで一挙上映します。サブスクで観られる『ジョン・ウィック』をどれだけの人が観に来てくれるのか楽しみです。何度もサブスクで観た人でも、ここで観ることで新しい面白さに気付けると思います。

映画館を心の安らぎにしている人も

―コロナ禍では芸術の必要性が問われ、さらには不要不急の号令の下、客足が遠のき苦境に立たされる映画館も多かったです。今の時代、映画館が担うべき役割についてお聞かせください。

高原:エンターテインメントは人間の心を豊かにしてくれます。中でも映画館におけるそういった役割は大きいと思いますよ。芸術の必要性についてコロナ禍で議論されましたが、「やっぱり芸術は必要だ」「映画館で観る映画は素晴らしい」と思ってもらえるよう発信していきたいです。

花俟:そもそも、「不要不急」の基準が私にはよく分かりません。東日本大震災の時にも「映画館なんかやめちまえ」「そんなの休め」と言われましたが、(逆に)「映画館に来ると安心できる」「映画館にいる間は不安を感じない」とおっしゃるお客さまもたくさんいて、とても励みになりました。

もちろん、映画館は衣食住に直結するわけではありません。ですが心を潤し、人生に楽しみを与えるインフラなのだと思っています。

―最後に、リニューアルオープンに向けた思いをお願いします。

高原:まずは、大変長らくお待たせいたしました。また、お待ちいただきありがとうございます。まだまだ成長段階の部分もありますが、お客さまと一緒に成長できる映画館を目指しております。ぜひ一度足を運んでいただけるとうれしいです。

花俟:言わずと知れた名作だけでなく、あまり知名度はないけれど面白い作品もどんどん上映していきます。徐々にではありますが、「新文芸坐に行けば面白い映画が観られる」と信頼を寄せてもらえるよう努めていきます。

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  • 池袋

※2022年4月15日リニューアルオープン

池袋駅東口にある、比較的規模が大きい名画座。日本映画からハリウッド映画まで幅広いジャンルの作品を上映しており、通常は2本立て上映が行われているが、毎週土曜にはオールナイト上映も行っている。

リニューアルで館内の音響や映写設備を一新。4Kレーザーと35ミリフィルムの両方が楽しめる映画館に生まれ変わる。

このほか、「国際アート・カルチャー都市」をうたう豊島区や池袋駅周辺の立地を生かした「劇場都市としまエンタメシアターin新文芸坐」を始動。新文芸坐を会場に、ゲストトークイベントやアニソンライブなどを開催する。

東京でもっと映画を楽しみたいなら……

  • 映画

ホームシアターが当たり前になった昨今。映画館はというと、自宅では味わえないより特別な体験を提供すべく日々進化している。IMAXや4DXなど上映システムの発展が目覚ましい一方で、鑑賞スタイルも選択肢が増えている。

ここに紹介する映画館では、革張りのリクライニングシート程度は当たり前で、鑑賞前後の時間を専用ラウンジでシャンパンを飲みながら過ごせるプランや、家族みんなで寝っ転がれるフラットシート、カップルシートだけの劇場など、ほかにはない映画体験が味わえる。記念日や家族サービスに、はたまたデートの誘い文句に最適な、都内および東京近郊の映画館を紹介しよう。

  • 映画

東京の映画館には、おいしい料理が味わえるレストランが併設されたものも多い。ここでは、日替わりシェフの味が楽しめる店や、阿佐ヶ谷のフレンチレストランなど、映画を見るかどうかに関わらず訪れたい店を紹介する。

鑑賞後にゆっくり食事をしながら余韻に浸るのもよし、上映前に軽く食事を済ますのもいいだろう。

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海外では週末の夜に親しい友人や家族とともに「ムービーナイト」をして過ごすのが定番だが、日本にもその文化は浸透している。近年部屋に大画面のプロジェクタースクリーンが付いたホテルや、上映設備に力を入れた宿泊施設が増えてきている。

ここでは、プライベートグランピング施設や豪華な別荘、昭和レトロな映画館をリノベーションしたゲストハウスなど、非日常空間で映画館さながらの鑑賞を味わえるスポットを紹介。濃密な時間を過ごすのにはぴったりの、忘れられない体験となるだろう。

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2022年も素晴らしい作品が公開される。往年のキャストが大集合する『ジュラシックワールド』シリーズの最終章や、夏には人気シリーズ『トイ・ストーリー』に登場するバズ・ライトイヤーの物語を描く新作、公開が延期されてきたジェームズ・キャメロンの『アバター2』など、今から待ち遠しい大作が続々と控えている。

本記事では、日本公開未定も含めたタイムアウトロンドンが選ぶ2022年の注目映画を紹介する。

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コロナ禍にありながら、アニメの大ヒット作品からゴールデングローブ賞ノミネート作品まで、いくつもの話題作が生まれた2021年は、日本映画界にとって特別な年だったことは間違いない。では、2022年はどうだろうか?

新海誠の新作アニメや2020年東京オリンピックの公式ドキュメンタリー、怪獣コメディーなど、来年の公開が発表されている作品だけ見ても、その勢いは衰えることはなさそうだ。2022年に注目したい日本映画を紹介する。

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