ミヤタ廉
Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

日本映画界から生まれた新需要「LGBTQ+インクルーシブディレクター」とは

ゲイが胸を張って勧める映画「エゴイスト」の核を担ったミヤタ廉へインタビュー

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主演・鈴木亮平、共演・宮沢氷魚による独りよがりな愛の献身映画「エゴイスト」が、2023年2月10日(金)から全国公開される。注目してほしいのは、クレジットに「LGBTQ+インクルーシブディレクター(inclusive director)」という見慣れぬ役職が入っている点だ。同職は、映画などの作品に脚本の段階から参加し、性的マイノリティーに関するセリフや所作、キャスティングなどを監修する職業である。

実はこの肩書を日本で名乗るのは、同作にキャスティングされたミヤタ廉が初めて。アメリカにはさまざまなエンターテインメント作品に対して、性的マイノリティーに関する表現の監修やアワードなどを発信している「GLAAD」を筆頭に、同種の役割を担う組織が存在する。

日本でも、LGBTQ+コミュニティーに関するトピックやコンテンツは増えており、社会の認知・理解度も深まっている。こうした時代背景の中で、多様なコンテンツをよりリアルで、魅力的なものにしていくためのプロフェッショナルが求められるのは自然な成り行きだろう。

エゴイストは、ゲイであることを公表していた高山真の自伝的小説を映画化したものである。同作において多様なゲイに関する表現を監修したことで、日本初のLGBTQ+インクルーシブディレクターとなったミヤタに、同作での役割と一体どんな魔法をかけたのか話を聞いた。

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ー同職になった経緯を教えてください。

初めは鈴木亮平さんのヘアメイク担当としてスタッフに加わりました。僕自身もゲイで、原作を読んでぜひ関わりたいと思って参加したということもあってか、亮平さんや松永(大司)監督からリサーチ用の取材セッティングの依頼があったり、ゲイキャスティングに協力したりとヘアメイク以外で求められることが結構多かったんです。

それで、ずっとこういう感じで進んでいくんだろうなと思い、ヘアメイクはデザインのみを担当して、このLGBTQ+インクルーシブディレクターという役割を担うことになりました。

鈴木亮平が役職名をアドバイス

役職名は今後のことも踏まえながらゆっくり考えました。キャスティング、セッティングといった立場だけではなく、作品企画などにも携われなるなど、多面的に活動できる方がいいだろうと亮平さんがアドバイスしてくれました。

海外事例の情報に詳しい有識者の方にも人を介して相談させていただき、アメリカで使われているこの役職名になりました。

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ー監修するに当たって特に意識したことは何ですか?

「ゲイの代表」になってはいけないということですね。当たり前ですがゲイといっても十人十色。全員違うので、僕が思うことがゲイとしての全てではありません。なので、アナログ的な表現を避け、斉藤浩輔(鈴木)だからこそのキャラクター、地元を離れて、東京でファッション紙の編集者という仕事に就き、自分の居場所を作ったというような生い立ち、経験などに基づいて、演出の強弱や所作をどう表すかという点を重視しました。

逆に龍太役の宮沢氷魚くんについては、ビジュアルでキャラクターを引っ張り出したいと思ったのでヘアメイクデザインをかなり細かく作り込みました。内面からくる見え方は普段まとっているもので十分に表現できると思い、ほとんどアドバイスをしませんでした。

ー参考にした作品などはありますか?

「ミルク」(2008年/ガス・ヴァン・サント)です。序盤にすれ違う目線の配り方だけでゲイだと分かるシーンがあるのですが、亮平さんにそれを伝え、一度観てもらいました。当事者同士だとたまに目線の交わし方などで、なんとなくだけど、いろいろ感じ取れる場面があったりするんですね。そのなんとなくの目線の配り方などを参考にしてもらいました。

ほかにもドラァグクイーンのマーガレットさんのインタビューページをコピーして渡したり、とにかくクランクアップのその日まで、常に亮平さんはさまざまな資料を見ていましたね。

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居酒屋でゲイの仲間同士が歓談する自然さ

ー脚本段階で手を入れた印象的なシーンはありますか?

やっぱりゲイキャストが登場するシーンは印象に残ってます。居酒屋、ケーキ屋、ゲイバーとシチュエーションの違いに合わせ、浩輔の振る舞い方も微妙に変えてます。

特にゲイバーではなく、居酒屋でお酒を飲みながらゲイの仲間同士、歓談するシーンをあまり観たことがないなぁと思っていたので、ゲイバーにいく前に居酒屋で飲んでる設定とかどうですか?と松永監督に提案し、なんなら、いつも僕が行ってる居酒屋にも連れてったりして(笑)。原作では小さな描写なので、当初の脚本には描かれていないものでした。

また、ゲイキャストたちの中で亮平さんだけが浮かないようにするのにも神経をとがらせました。ゲイ当事者が観た時、それだけでどこか冷めてしまいますから。

浩輔という人物像を考えた時に、どんな癖を持ち合わせているだろう?と考えて、動きや設定を亮平さんに提案してみたり、いつものメンバーなのか?初めましてのメンバーもいる会なのか?そんな細かい点も話し合ったりして、浩輔としてそこにいる心境が表情や動きに出るように注意を払って見ていました。

ーゲイキャストにはドリアン・ロロブリジーダさんがいますが、多くのゲイキャストは芝居は初めてだと伺いました。どのようにキャスティングしたのでしょうか?

まずドリアンがパッと浮かび、お声がけさせてもらいました。その後、ドリアンに友だちを紹介していただいたり。しかし、全員を紹介で集めてしまうとドリアンが新鮮な気持ちで撮影に臨めないのではないかと思い、僕が飲み屋で「すげ〜マッチョ!」と印象に残った彼をスカウトしたり、「すごく出たいのだけどカミングアウトしてないので、僕は出演できないけど素敵な友達ならいます」と紹介してもらったりしました。

面接を兼ね、監督と話す場が設けられ、結果、面接した全員が出演することになりました。

僕らのゲイムービーなんだと胸を張ってほしい

ー新宿二丁目などにいるLGBTQ+コミュニティーの人たちにも作品を見てもらったと聞きましたが、反響はいかがですか?

一番初めに札幌で全く忖度(そんたく)なしに試写会を行ったのですが、説明が少ない作品なので、どういう感想を持たれるか見当がつかずとても不安でした。ですが、こちらが思う以上に感じ取ってくれて、さまざまな感想や考察を話してくれました。

今では本当に色々なところで話題にしてくれたり、全国でたくさんのお店がポスターを設置して応援してくれたり、本当にありがたいことだと思っています。

ー観た人にどういう風に受け取ってほしいですか?

当時、橋口亮輔監督の「渚のシンドバット」(1995年)やウォン・カーウァイの「ブエノスアイレス」(1997年)を観て、ゲイである自分が誇らしい気分になったのを思い出しました。セクシュアリティーに関係なく、この作品を観て、自分らしくあることが誇らしいと思ってもらえたらうれしいなと思っています。

公開:2月10日(金) 全国公開

配給:東京テアトル

主演は鈴木亮平、共演はNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」などに出演した宮沢氷魚。監督は「トイレのピエタ」「ハナレイ・ベイ」などの松永大司が務める。

原作は、高山真の同名小説。ファッション誌編集者の浩輔(鈴木亮平)と、シングルマザーの母(阿川佐和子)を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)の2人は惹かれ合い、恋人になる。満ち足りた時間を重ねていくも、ある日、浩輔の元にかかってくる一本の電話によって、状況は一転する。

大きな見どころは、ゲイカップルによる濃厚なベッドシーンと、白昼夢のような多幸感あふれる日常だろう。「この世界を永遠に眺めていたい」と思えるような強い充足感を覚えてしまう。それゆえに物語後半で見せつけられる、強い執着ともとれる常軌を逸した「献身」にも説得力を感じるだろう。それらの行為に呼応するように、浩輔が絞り出す「僕は愛が何なのかよく分からないです」という弱々しいつぶやきが一層胸に刺さる。 独善的な献身の先にある愛の海の深さに心が震える傑作だ。

注目の映画・映画館をチェックする……

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2023年の映画界はどうなるだろう? 今年もまたトム・クルーズの年となりそうだ。7月公開予定の「ミッション:インポッシブル5」が世をにぎわし、映画館をたくさんの人で埋めることだろう。大作では、ドゥニ・ヴィルヌーヴによるアラキスへの帰還を描いた「デューン」のパート2や、「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」も楽しみだ。

そして、アート・ドラマ映画に関しても魅力的な作品が公開される。監督サラ・ポーリによる力強いフェミニストドラマ「ウーマン・トーキング 私たちの選択」や、実際の事件をもとにした「コカイン・ベア」などだ。

ここでは、日本公開未定も含むタイムアウトロンドンが選んだ「2023年の注目映画を紹介する。

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この記事に何か問題があったとしても驚かないでほしい。「問題」といっても、記事の為に、何十時間もかけて作品を見たことや、リサーチが大変だったとか、そういうことではない……。実は本当に大変だったのは、リストを20に絞ることだ。

言わずもがな、我々の中でも議論はあった。最終的には、シンプルな前提に辿りついた。それは、その俳優に「真のセクシーさ」がある、もしくはあったかどうかだ。本当にエロティックなシーンがある作品から選んだので、自動的に綾瀬はるかと、キムタクは登場しないことが決まった。結果、「生」のセックスアピールで、スクリーンを常に熱くする俳優たちが残った。

ちなみに、順番は関係ない。タイムアウト流に並べただけだ。しかし、選んでいたら熱くなってきた。誰か、近くに頭を冷やす場所を知らないだろうか。

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「ロマンチックコメディ」が嫌いな人はいないだろう。もちろん映画ファンの中には、このジャンルを鼻にかける人も大勢いる。しかし、そんな映画通は、週末の午後、ケーブルテレビでナンシー・マイヤーズやノーラ・エフロンを見かけると、本当は家の中でブラインドを閉めて携帯電話の電源を切っているに違いない。

気取ることをやめてしまえば、「ロマコメ」の魅力を理解するのは難しくない。恋愛をしたことのある人、恋愛をしたいと思ったことのある人なら、恋が人に与える奇妙な影響について知っているはずだ。恋愛は千差万別で、ロマンス映画もまた然りである。

ここでは、タイムアウトが選んだ「史上最高のロマコメ70選」から1990年代以降の作品に絞り、30選で紹介。甘ったるい作品を好きじゃないふりをしている人でも、きっと気に入る作品が見つかるはず。

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ホームシアターが当たり前になった昨今。映画館はというと、自宅では味わえないより特別な体験を提供すべく日々進化している。IMAXや4DXなど上映システムの発展が目覚ましい一方で、鑑賞スタイルも選択肢が増えている。

ここに紹介する映画館では、革張りのリクライニングシート程度は当たり前で、鑑賞前後の時間を専用ラウンジでシャンパンを飲みながら過ごせるプランや、家族みんなで寝っ転がれるフラットシート、カップルシートだけの劇場など、ほかにはない映画体験が味わえる。記念日や家族サービスに、はたまたデートの誘い文句に最適な、都内および東京近郊の映画館を紹介しよう。

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