森美術館『未来と芸術』展とのつながり
長らく務めた森美術館を2019年に退任した南條が、同館の館長として関わった最後の展覧会が、開催時に『タイムアウト東京』でもインタビューを行った『未来と芸術』展だった。新しいテクノロジーを用いた作品を一挙に集めることで未来のビジョンを提示した同展もまた、そういう意味では地球の未来のあるべき姿を提唱する「2030アジェンダ」とも響き合うものがありそうだ。
「たしかに今回の芸術祭と『未来と芸術』展には通底するものがあります。あの展覧会をやってみて感じたのは、問題が山積みだということ。特にバイオテクノロジーや人工知能(AI)は突出した勢いで進歩を続けているが、それらの扱い方についてルールやモラル、法律が追いついていない。『未来と芸術展』はテクノロジー礼賛に見える可能性もあったが、まったくその逆の危機感のようなものも含んでいました。ポジティブな発想のもと目標を掲げているSDGsは、その裏返しです。これまでに地方芸術祭でSDGsをテーマにしているものはありませんよね。それならば『SDGs推進に向けた世界のモデル都市』である北九州市が名乗りを上げようという感じです」
和田永 《BARCODE-BOARDING》 2021
もともとSDGsは、途上国の開発目標を定めた「MDGs(ミレニアム開発目標)」をその起源の一つに持つ。そこに「持続可能な開発」というコンセプトが埋め込まれる形で生まれたSDGsは、そのため格差解消をはじめとする「経済」の問題と、「社会」や「環境」にまつわる諸問題とが不可分だという考えが前提になっている。これらの問題に対して包括的に取り組まなくてはならないという基本姿勢は、本芸術祭にどのような影響を及ぼしているのか。
「追求していくと矛盾してくるんですよね。この目標とあの目標とを両方とも進めると必ずクラッシュする。そのバランスをどこで取るのかというのが政治の使命。だから芸術祭でそれを表現して解決することはまずできないだろう、と。ただし、少なくともいくつかの重要な課題をここでは示したいと考えました。
例えば、奥中章人さんは「大気」に注目しています。淀川テクニックや和田永さんは廃材を使って作品を制作している。団塚栄喜さんの作品では、人の形になるように植えていますが、おなかの部分は胃薬として使われる草になっているなど、地元の薬草を使用しています。これはSDGsのゴール3、健康の問題に対応しています。そういうように、まずはSDGsを知ってもらうことが大事。国連によって設定されたもので、地球上の人類全員の課題ですからね」