アンディ・ウォーホル・キョウト
Photo courtesy: ⒸANDY WARHOL KYOTOおおうちおさむ(左)、チェン・ボーリン(右)
Photo courtesy: ⒸANDY WARHOL KYOTO

アンディ・ウォーホルが京都でインスパイアされたものとは? 大回顧展特別対談

同展デザイナーおおうちおさむとアジア圏アンバサダー、チェン・ボーリンが魅力に迫る

寄稿:: Kanako Hayakawa
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タイムアウト東京 > カルチャー > アンディ・ウォーホルが京都でインスパイアされたものとは? 大回顧展特別対談

ポップ・アートの旗手として知られ、アメリカの大量消費社会の光と影を描いたアーティスト、アンディ・ウォーホル。その初期から晩年に至る作品を包括的に展示する大回顧展「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」が、2023年2月12日(日)まで京都市京セラ美術館で開催されている。

巡回は行わず、京都だけで開催される同展は、門外不出の「三つのマリリン」、大型作品「最後の晩餐」など、日本初公開となる100点以上の作品を含む約200点を展示。1956年の世界旅行中で初来日したウォーホル。その際に訪れた京都を描いた貴重なスケッチなどを通して、若き日のウォーホルに思いを馳せることができる。

アジア圏アンバサダーを務めるのは、アートにも造詣が深いアジアで人気の国際俳優、チェン・ボーリン。そして、「アンディ・ウォーホル・キョウト」のロゴ、ポスター、図録、フライヤーなどのデザインを手がけたのは、自らも芸術祭などをプロデュースするアートディレクター兼グラフィックデザイナーのおおうちおさむだ。

時代や国境を越え、あらゆるアーティストやクリエーターに多大な影響を与え続けているアンディ・ウォーホル。彼の作品に美しい刺激をもたらした京都で、チェン・ボーリンとおおうちおさむの対談を行なった。

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「ウォーホル×京都」という斬新な組み合わせ

ーお2人はアンディ・ウォーホルのどんな作品が好きですか?

チェン・ボーリン(以下 ボーリン):僕は初期の「ゴールド・ブック」シリーズや、特に「金色のマリリン・モンロー」が好きですね。一般的にアンディ・ウォーホルといえば、トマト缶に代表されるポップアート作品の印象が強いですが、今回の「アンディ・ウォーホル・キョウト」は、そうではない作品も楽しめるのが魅力だと思います。

おおうち おさむ(以下:おおうち):彼はもともとドローイングが上手で、いわゆる絵描きとしての一面も持った人なんですよね。鳥や猫の絵なんかも可愛くて、大学生の頃の僕はそっちのウォーホルばかりが好きでした(笑)。だから、チェンさんの好きな作品がゴールド・ブックのシリーズなのがとてもうれしいし、ウォーホルの魅力を深く理解していらっしゃるなと感じます。

ーおおうちさんは「アンディ・ウォーホル・キョウト」のロゴなどのデザインをされていますが、制作にあたってどんな思いを込められたのでしょうか?

おおうち:今の若い人たちが感じている、ウォーホルに対する固定観念を崩してくれる展覧会になるといいなと思っていました。ウォーホルは誰もが知るアーティストですし、図録やデザインもやり尽くされています。でも今回は京都でしか開催されない特別な展覧会であり、だからこそ、京都でしかやれない価値みたいなものをまず作りたかったのです。

例えば今、三十三間堂に展示してあるポスターは、有名なウォーホルの牛の壁紙と千手観音の写真を合わせています。そもそもウォーホルは初めて来京した際、三十三間堂に居並ぶ観音像を見て、マリリン・モンローなどで有名なリピート柄を思いついたともいわれているそうなんです。

ボーリン:へぇ~。彼は京都の仏像にインスパイアされてたんですか!

おおうち:そうそう。そういうことを伝えたくて、今回はウォーホル作品と京都という街のマッチングをずっと考えてたんです。「アンディ・ウォーホル・キョウト」のロゴに使用しているのは、三角をつないだ京都の伝統的なうろこ柄なのですが、もともと魔よけの意味を持つうろこ柄をベースに、アンディ・ウォーホルのAとWのロゴを作りました。

ボーリン:うろこ柄のロゴにはそんな意味が込められていたのですね。初めて知りました。

ーチェンさんは「アンディ・ウォーホル・キョウト」のアンバサダーに任命された時、どんな感想を持たれましたか?

ボーリン:(僕は)以前ニューヨークに滞在していたことがあるのですが、そこで開催されたウォーホルの展覧会も見ていて、常に身近な存在だと感じていました。僕自身アートが好きなのはもちろんですが、ウォーホルのコレクションを所有しているアート好きの知人がいたり、今から4~5年前に北京で開催されたウォーホルの展覧会の主催者が友人だったりと、何かと縁がある気がします。

特に今回は、「ウォーホル×京都」という斬新な組み合わせで開催される唯一無二の大回顧展であり、そのアジア圏に向けたアンバサダーを務めるという貴重な機会を頂けてとても光栄です。

ウォーホル自身が作品そのものだった

ーお2人が考えるウォーホルの魅力というと?

おおうち:基本的に僕は、アートは美術館で奉られるようなものではないと思っているんです。例えば、ウォーホルが描いたマリリン・モンローは、すでに情報としてものすごく価値が膨れ上がっているモチーフです。そこから情報を全て削除して、純粋にビジュアルとして見た時、人間なんてみんな一緒だねと、ウォーホルはちょっと斜に構えながら表現してる感じがするんです。言語化しない風刺……そういう、ひとつレベルの高い風刺を表現しているところにとても共感します。

そういうものを伝えたくて、僕は自分でも芸術祭を立ち上げています。今、松本でやってる芸術祭も、著名なアーティストの作品と普通のおばさまたちが作る手芸などを並列に並べて、同じものとして向き合ってもらうというトライアルをしてみたいと思っています。

ーおおうちさんが総合プロデュースをされている「マツモト建築芸術祭(MATSUMOTO Architecture + Art Festival)」ですね。

おおうち:はい。とはいえ、ウォーホルの作品はめちゃくちゃ素敵でかわいいんです。そこは外しちゃダメなんですよね。どんな理由やコンセプトであれ、できた作品は素敵じゃないとダメだと思うし、ウォーホルはそこもイケている、という点で大好きなんです。

ーチェンさんはいかがですか?

ボーリン:僕は俳優であって、アート畑の人間ではないので、ウォーホルのことは一人の人間として捉えている感じなんです。彼が存命だった頃は「あなたの作品はパクリだ」とか、「なぜこんなくだらないものに名前を付けるんだ」とか、ずっと批判され続けていましたよね。その時のインタビュー映像が残っていますが、彼はどの質問に対しても、イエスかノーでしか答えない。「あなたはパクリですか? 」「イエス」、みたいな(笑)。

<自分のスマホを取り出し、動画を見せて>こんな風に彼が答えるのは、自分のやっていることが間違ってるとは思っていないからなのでしょうね。ほかのアーティストが時代の流れに沿った作品を作っても、彼は誰の意見にも左右されず、自分がやりたいことだけをやっていた。そもそも彼の行動や創作、人格など、全てが「アンディ・ウォーホル」という作品そのものだった気がするんです。

例えば、彼がハンバーガーをひたすら食べているだけの動画がありますよね。それって、今の若い世代がTikTokとかでやってることと同じなんですよね。あの時代にそれをやってたなんて、ハンパないセンスだと思います。

そして、「アンディ・ウォーホル・キョウト」でも展示されている彼のポートレート写真! もしかすると自撮りの文化もウォーホルから始まったのかもしれない。

おおうち:実はその通りで、彼が自撮り文化の先駆けなんですよね。当時は技術的にも、自撮り自体のハードルが高かったんです。結局ウォーホルは自分のことを、アーティストだとは思ってなかったような印象を受けますよね。

ボーリン:彼は映画も撮っていましたが、非常に繊細な人物ですよね。僕自身、俳優の仕事は自分を表現するというアートのひとつと捉えているんです。

去年、台湾で映画を撮ったのですが、その作品の音楽も僕自身が手がけました。とくに芸術的なことをしたいということではなくて、もしその時に油絵が必要なら油絵に挑戦したかもしれないし、彫刻が必要なら何か彫るかも、みたいな感覚なんです。

おおうち:まさにウォーホルに近い感覚ですよね。たぶん彼も、必然としていろいろな表現をやっていただけなんじゃないかな? 自分で選択をすればどうにでも変われるという自由度があったからこそ、あの年齢になってもいろいろな分野で大成できたのかなと思います。

ボーリン:つい最近、イギリスの俳優、トム・ハーディが、演じた役の影響で始めたブラジリアン柔術の英国大会で金メダルを獲得したというニュースを見ました。要するにウォーホルも、いろんなタイミングやきっかけによって、自ずと結果が出ただけなのかもしれないですね。

もしかしたら僕も今後、映画だけの表現では足りないと感じたり、もっと自分の深い部分を見せたいと思ったりしたら、ウォーホルのように絵筆を手にするかもしれない(笑)。

おおうち:その時は「チェン・ボーリン展」を僕がデザインさせていただきたいと思います(一同笑)。

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新たな作品はインスパイアの連続から生まれる

ー「ポップ・アーティスト」としてのウォーホルにはどんな印象をお持ちですか?

おおうち:彼は「ポップアートの帝王」といわれていますが、単に呼びやすいからという気がしなくもないんです(笑)。さっきチェンさんが動画を見せてくれた、「パクリなのか?」という質問に対する「イエス」という回答も、何をもってパクリというのか自体、すごく曖昧ですよね。

彼の場合、誰かがひそかに隠し持っていたものをこっそりパクるわけじゃなくて、キャンベルスープとか、誰もが知っているものを転用している。「パクリ」という曖昧な概念を曖昧なままフィロソフィーにするというか、曖昧であることがアートのポジションだと表現したのが、ウォーホルだと思うんです。

ボーリン:確かに、インスパイアという概念までパクリになってしまうなら、ウッディ・アレンの映画も、フェデリコ・フェリーニとチャップリンのミックスと言えるし、クエンティン・タランティーノの作品も黒澤明と香港映画のミックスであり、いわばパクリになってしまいますよね。

むしろ、新たな作品というのはインスパイアの連続から生まれていくのだと思います、まさにウォーホルの作品のように。

ーチェンさんは今回の「アンディ・ウォーホル・キョウト」を実際にご覧になって、どんな作品が印象的でしたか?

ボーリン:入口の近くに展示してあった、京都の舞妓さんや清水寺を描いたドローイングが印象に残っています。そして、彼自身が京都で購入したという着物が展示されているのを見て、彼も京都に来ていたんだなと改めて実感しました。作品だけでなく、彼自身が京都旅行の中で何をどう感じたのかも見えてくる気がして、刺激的な体験でした。

おおうち:僕も図録やデザインを通してそういうところを伝えたかったので、そう感じてもらえてとてもうれしいです!

受け継がれていく「アンディ・ウォーホル」という物語

ー最後に、今回の大回顧展が京都で開催されることについて、お2人はどんなご感想をお持ちですか?

おおうち:そもそもアンディ・ウォーホルの作品って、古くもなく新しくもないと思うんです。そこが、千年規模の建築がある一方で、時代の変化でいろんなものがミックスされた今の京都という街に非常に合っているなと感じています。

彼は1956年の初来日の際も京都の街を周遊していますが、日本の中で唯一、彼の作品のインスピレーションになった街が京都なんです。今回の大回顧展で、そこに帰結できたことが素晴らしいと思っています。図録もそのコンセプトで作っていて、アンディと一緒に京都を巡るような構成になっています。

ボーリン:素晴らしい試みですね。今回の「アンディ・ウォーホル・キョウト」を見て僕が感じたのは、アンディ・ウォーホルという物語はまだ終わっていない、ということ。彼がウォーホルという名を通して作り上げた意志(すでに彼は亡くなっていますが)、2022年の今、今回の大回顧展を通して、彼の作品がおおうちさんというクリエーターとコラボレーションをしているように感じました。

さらに将来、今回おおうちさんが書いたウォーホルという物語の続きを、新たに現れたアーティストやクリエーターが書いていく、そんなストーリーが思い浮かびました。そうやってアートは受け継がれていくものであり、そこから次の世代がインスピレーションを受けて、さらに成長していくものなのだと思います。

今回おおうちさんが考案されたうろこ柄のロゴも、次にどこかで開催される別のウォーホル展で、ほかのアーティストがそれにインスパイアされたものを作っているかもしれないですね(笑)。

おおうち:僕が言いたかったことをチェンさんが的確に言語化してくださり、感激で涙が出そうです(笑)。チェンさんのおっしゃる通り、次世代につないでいくためにも、僕らの世代がウォーホルの意志をどう受け継ぎ、どう表現していくかが大事だと思っています。

対談者プロフィール

おおうちおさむ

アートディレクター/グラフィックデザイナー

1971年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン卒、東京在住。(故)田中一光に師事し琳派と京都の美を修道し、無印良品、資生堂、ISSEY MIYAKE、サルヴァトーレ・フェラガモ生誕100周年プロジェクトなどのポスター・グラフィック・空間デザインなどを手がける。2003年に有限会社ナノナノグラフィックスを設立。グラフィックからスペースデザインまで幅広い活動を行う。

京都では、「KYOTOGRAPHIE」の展示空間デザイナーとして携わり、2015年細見美術館「フジフイルム・フォトコレクション 私の1枚-日本の写真史を飾った巨匠101人-」、2017年美術館「えき」KYOTO「彫刻家 樂 雅臣展」などで会場デザイン・グラフィックデザインを担当。2022年1月には、長野県松本市で開催された「マツモト建築芸術祭」の総合プロデューサーを務めた。

「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」では、ポスター、図録、フライヤーを始めとしたグラフィック全般をデザインしている。

チェン・ボーリン(陳 柏霖/Chen Bo-lin)

俳優

1983年生まれ。台湾・台北市出身。台湾とフランス合作映画「藍色夏恋」(2002年)で映画デビュー。「シュガー&スパイス 風味絶佳」(2006年)や「暗いところで待ち合わせ」(2006年)など日本映画にも出演するなど、日本での活躍も多い。テレビ朝日「いきなり!黄金伝説。」の企画でCDを発売、日本たばこ産業の烏龍茶の広告にも出演したことがある。使用言語は主に北京語と台湾語。また、英語と日本語も少し話せる。

「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」では、アジア圏アンバサダーを務める。

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緻密で繊細な原画を楽しんだり、制作の裏側をのぞいたり、空想の世界を自由に楽しもう。濃密なアニメ展示を体感してみては。

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