Ambassador of the Republic of Serbia to Japan ALEKSANDRA KOVAČ
Photo: Kisa Toyoshima | Ambassador of the Republic of Serbia to Japan Aleksandra Kovač
Photo: Kisa Toyoshima | Ambassador of the Republic of Serbia to Japan Aleksandra Kovač

セルビア共和国大使に聞く、日本の男女平等への推進と高輪が持つ街の魅力

同国の女性参画はいかに成し遂げられたかやセルビアワイン、伝統料理まで幅広く紹介

Ili Saarinen
広告

セルビア共和国のアレクサンドラ・コヴァチュ(Aleksandra Kovač)駐日大使は元弓道家であり、現在4度目の日本滞在を楽しんでいる。大阪に2度留学し、若手外交官として東京で働いていた経験も持つコヴァチュは、2021年から現職に就いており、日本の文化や東京での生活にも精通する。

今回のインタビューでは、コロナ禍を含めた長い年月の中で、東京の何が変わり、何が変わらずに在り続けているのかといった俯瞰(ふかん)的な示唆から、首都圏でクッキーやワインなどセルビアの味を見つける方法まで、さまざまなことを語った。

また、デジタル化におけるセルビアの功績や、2025年の大阪関西万博の計画にも触れ、日本が必要としている男女平等の取り組みをどのように加速させることができるかも提案してくれた。

関連記事
Tokyo meets the world

日本が持つ優れた再開発プロジェクト

ー現在の日本の印象と、大使就任後の見方の変化について教えてください。

私にとって、大使になるということは、10年ぶりに日本に帰ってくるということでした。着任したコロナ禍は困難な時期でしたが、他方で、雑踏や騒音、汚染に悩まされていない街の姿という、かつてとは全く異なる日本を発見することでもありました。

(コロナ禍に)日本に滞在したことで、より親密で、穏やかで、ノイズの少ない日本を見ることができました。何度も訪れたことのある京都をはじめ、さまざまな場所を旅したのですが、現在多くの観光地で目にするようになったオーバーツーリズムとは全く異なる景色でした。

もう一つ興味深かったのは、この国の変化です。私が最後に日本を離れたのは2011年8月、東日本大震災の後です。再び日本を訪れた頃は、魚市場が築地から豊洲へと移転するなど、東京の再開発を目の当たりにしました。それは、日本がエンジニアリングやインフラプロジェクトにおいて、非常に効率的に成功している明確な一例です。

福島を訪れた時は、その復興ぶりを目にし、さらにその印象を強めました。日本が何か起こった後にどのように復興し、将来のためにどのように建設していくかというプロセスにはとても感銘を受けました。これは日本の長所の一つだと感じています。

「昔ながら」を保存しながら広がる多様性

ー東京での生活はいかがですか? また、東京でお気に入りの場所はありますか?

そうですね、高輪は私にとっての「ご近所」です。(以前は)セルビア大使館が御殿山にあったので、ずっと高輪に住んでいました。

セルビアに戻った時、大使館が(現在の高輪に)移転するという話は聞いたのですが、今、近所を歩いてみても、中古の家具店や小さなパン屋など、見覚えのある小さなお店がたくさん残っています。日本、特に東京はとてもダイナミックで常に変化しているにもかかわらず、私の住んでいる街が今でも活気にあふれ、昔のまま保存されていることにとても驚きました。

もちろん、前回東京に住んでいた頃はもっと若かったので、渋谷・原宿・中目黒などにもよく出かけましたよ。今、私には9歳の娘がいますが、それらの街は今も活気に満ちているだけでなく、多様性があり、若者を引きつけていますよね。

渋谷は再開発が進み、様変わりしてしまいましたが、それでも気軽に遊びに行ける場所だと思います。娘はよくスポーツをするのですが、例えばスケートボードができる場所を都内で見つけるのは難しい。けれど渋谷なら、宮下公園にスケートボード場があります。新しい街にも人々が集まり、スポーツのようなアクティビティーを楽しむ場所を取り入れているのがいいですね。

また、夫がベジタリアンなので、レストランを探して街を探索することもよくあります。時にはなかなか見つからないこともあるのですが、この10年で日本がどのように変わったかを実感できる面でもあります。飲食だけでなく、デザインなどの面でも多様な選択肢が増えました。

高輪の住まいから一番近くにあるレストランはビーガンなんです。近所を歩いているだけで、そういう店が見つかることもあります。人々のさまざまなライフスタイルに対する意識が高まっていることに気づきますが、これは世界的な傾向であり、セルビアにも当てはまることです。以前より、多様な人が日本を楽しめるようになったと思います。

広告

長い歴史を持つセルビアのワイン造りに注目

ー東京でセルビアの味を楽しむにはどうすればいいですか?

残念ながら、東京にはセルビア料理のレストランがありません。

しかし、私たち大使館がセルビア料理やセルビアの味を広める努力をしていて、私のアシスタントは自身のYouTubeチャンネルでセルビア料理の作り方を教えています。また、企業と提携して、セルビア南部の伝統料理である「ムチュカリッツァ」(豚肉のパプリカ煮)といったセルビア料理のレトルトをプロデュースしました。

千葉県我孫子にある「デセール フィギエ(Dessert Figuier)」という小さなケーキ屋さんでは、私たちのレシピでセルビアのビスケットを焼いています。

輸入品では、「アイバル」(パプリカから作られる調味料)があります。これはスパイシーなものとマイルドなものがあり、とても人気があります。そのまま食べてもいいですし、パンやご飯に乗せてもおいしいです。冷凍ラズベリーやサワーチェリーなどのベリー類も輸入していますよ。

セルビアワインも日本で楽しむことができます。2022年の日本・セルビア友好140周年を記念した取り組みで、セルビアの有名なワイナリーからワインを輸入し、岡部紫龍さんという日本人アーティストの作品を使った記念ラベルを作るという特別なプロジェクトを実施しました。

セルビアのワインを広めることは、私たちにとって重要なことです。というのも、ヨーロッパ、南アフリカ、オーストラリア、カリフォルニアなどのワインは誰もが知っていますが、セルビアにもワイン造りの長い歴史があり、気候や風土に恵まれた生産地として高く評価されているからです。

セルビアのブドウ品種の中には、1000年の歴史を持つものもあります。しかし、ユーゴスラビア時代に、世界に向けワインのプロモーションを中断していた時期があったため、遅れを取り戻さなければなりません。セルビアのワインは東京のスーパーマーケットでは売られていないですが、オンラインでは購入できます。

セルビアが世界に誇る公共サービスのデジタル化

ー都市生活の未来をどのようにお考えですか? コロナ後の都市を活性化させるために、セルビアで行っている取り組みについて教えてください。

パンデミックの最初の頃、私たちの首都もロックダウンを行いました。この政策は好評だったとはいません。なぜかというと、セルビアの生活では人と人とのつながりが非常に重要視されており、孤立や孤独を防止するためにも大切であるという事実と関係があります。

当時から、公共サービスを含め、人と人とのつながりを促進するデジタル技術の重要性は理解していました。そのため、「文化のデジタル化」という前例のないプロジェクトを立ち上げ、コミュニティーを結びつけ、社会に有益な影響を与える新しい方法を考え出したのです。

デジタル技術を公共サービスに活用することは、私たちにとって大きな誇りです。世界銀行の2023年ランキングでは、デジタルガバナンスで世界第11位、ヨーロッパでは第4位という順位でした。これは、生活の質やインフラの改善にも活用できるもので、デジタル化のポジティブな側面の一例です。

広告

ー日本で開催される次の大きなイベントは、2025年の「大阪関西万博」です。セルビアの万博への参加計画について教えてください。

セルビアは公式パビリオンを出展する予定です。これは日本におけるセルビアの紹介と両国関係にとって良い機会だと考えています。私たちのパビリオンは万博の中で特に大きなものというわけではありませんが、「浮遊する森」を表現し、国際社会の継続的な取り組みに沿った持続可能性を促進します。万博での「セルビア・デー」は、2025年9月15日(日)です。

万博でセルビアを紹介する上で重要なことの一つは、2027年にベオグラードで「Play for Humanity: すべての人のためのスポーツと音楽」という認定博が開催されることです。開催権を獲得して以来、私たちは2025年万博のパビリオンのコンセプトデザインを再調整しました。パビリオンが私たちのイベントにもつながることを願っています。

2027年の博覧会に向けて、セルビアは人工知能の世界的パートナーシップに向けたイベントなど、多くのイベントを開催することで国際的なイメージ向上を図っています。このため、インフラに多くの投資を行い、都市を再考し、優れたイニシアチブを推進しています。

クォータ制によって男女平等が推進

ー最後に、日本ではSDGsが注目されるなど、持続可能性への関心が高まっています。この分野でのセルビアの取り組みはどのようなものがあり、日本がそこから学べることはありますか?

私は、日本におけるSDGsの枠組みの中で男女平等の推進に深く関わっています。政治であれ経済であれ、あらゆるレベルの意思決定プロセスへの女性の参画を向上させることを目的とした活動を支援していますし、私自身もビジネスの世界で活躍する女性を指導しています。

つい数週間前には、私たちは大学生と集まり、日本における男女平等についてオープンなディスカッションを行ったり、ビジネスで成功している女性たちから話を聞いたりして実情を知り、さらに何ができるのかを学びました。

セルビアは多くのことを成し遂げており、男女平等に関する国際ランキングでは上位を獲得しています。先日発足した新政権では、閣僚の約3分の1が女性で、エネルギー、経済、鉱業、EU統合、科学、イノベーションなど、国に重要な影響を与える分野を担当しています。前の女性首相は3期目でしたが、国会議長に選出されました。セルビア銀行と憲法裁判所の総裁は多くの女性が務めています。

セルビアではクォータ制が法制化され、状況の改善に貢献しました。議会選挙、地方選挙を問わず、全ての選挙において候補者の少なくとも40%は女性でなければならず、現在の議会は38%が女性です。この数字は選挙のたびに変わりますが、一つ確かなことは、セルビア社会では女性がリーダーとして認められるだけの強い発言力を持つ傾向にあるということです。

日本は法的枠組みを非常に重視しており、国民も生活の質を向上させるためにその枠組みがどのように設定されているかを理解しています。なので、クォータ制のような制度は、男女平等の改善を実現するために実施している多くの行動や取り組みのプロセスを加速させることができるのではないでしょうか。

アレクサンドラ・コヴァチュ(ALEKSANDRA KOVAČ)

駐日セルビア共和国大使

ベオグラード大学言語学部で日本語と日本文学を学んで卒業し、2001年には大阪の「国際交流基金関西国際センター」で研修、2002年に外務省入省後も2004年から2005年にかけて同センターで日本語を研究。2006年から2011年までセルビア大使館三等書記官(領事・文化担当)として勤務。2011年に『セルビアと日本 両国関係史概観』を共著で著した。その後、外務省国家事務局参事官、外交アカデミーのディレクター、ユネスコ常設代表団次席、ユネスコ協力国家委員会事務局長などを歴任し、2021年7月に現職に着任した。       

もっとTokyo meets the worldを読む……

  • Things to do

美しい風景や歴史的な都市、おいしい地中海料理、世界トップレベルのサッカー選手、ニコラ・テスラから「ヨーロッパのイーロン・マスク」とも呼ばれる有名な発明家のマテ・リマックまで、クロアチアは多彩な魅力を持った国だ。アドリア海に面した小国であるクロアチアは、さまざまな面で優れた力を発揮しているが、特に観光に関しては人口の4倍以上の年間訪問者数を誇っている。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回は、クロアチア大使のドラジェン・フラスティッチに、京都をはじめとする日本の都市が直面している「オーバーツーリズム」問題への対処法など、さまざまな話題について聞いた。

また、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談では、地震への備えやマグロの養殖、東京で本格的なクロアチア料理が食べられる場所などについても、じっくりと語ってくれた。

  • Things to do

日本とオランダは旧友と言っても過言ではない。1600年に貿易船「リーフデ号」が九州に漂着して以来、親密な関係を築いてきた。4世紀たった今でも、100以上のオランダ語が日本語の一部として残っており、東京駅の東側に位置するビジネス街である「八重洲」という名前の由来は、オランダ人冒険家のヤン・ヨーステン・ファン・ローデンスタインだ。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている『Tokyo meets the world』シリーズ。今回は東京タワーのたもとにある首都圏で最も美しい大使館の一つで、1928年に建てられたコロニアル様式の邸宅に住んでいる、オランダのペーター・ファン・デル・フリート大使に話を聞いた。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、グリーンエネルギー、環境に優しい投資、自転車インフラなどについて、おすすめの美術館や風車探しのアドバイス、東京での生活の感想などを交えて語ってくれた。

広告
  • Things to do

東京から世界中のイノベーティブな視点を幅広く取り上げるため、東京在住の駐日大使にインタビューしていく『Tokyo meets the World』シリーズ、第2弾はベルギー王国。

ベルギーといえば、多くの日本人にはチョコレートやワッフル、ビールなどが身近だろう。しかし、この西ヨーロッパの王国が、世界的な人気キャラクター、スマーフの生まれ故郷であるとともに、世界第4位の洋上風力エネルギー生産国であり、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を推進する先駆者でもあることも知ってほしい。

2019年に就任したロクサンヌ・ドゥ・ビルデルリング駐日大使にインタビューを依頼したところ、快く応じてくれた。ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントで、SDGs関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司と対談を実施。SDGsや環境に優しい世界経済に対するベルギーの貢献について詳細に語った。

  • Things to do

コロナ禍の終わりを見据え、世界中で規制が撤廃されてきた今、コロナ終息後の東京の新しい方向性を示す斬新なアイデアやインスピレーションが求められている。 タイムアウト東京は「Tokyo meets the world」シリーズを通して、東京在住の駐日大使へのインタビューを続け、都市生活に関する幅広い異なる視点を紹介。とりわけ環境に優しく、幸せで安全な未来へと導くための持続可能な取り組みについては大きく取り上げてきた。

今回の「Tokyo meets the world」では、2022年3月に就任したばかりのポルトガルのヴィットル・セレーノ大使に話を聞いた。ポルトガルは、カステラやサッカーのク リスティアーノ・ロナウドで知られる、南欧の国であり、2025年に大阪にやってくる「タイムアウトマーケット」の発祥の地でもある。環境に配慮した先進的で競争 力のある経済国家であり、日本との間にある古くからの絆を誇りに思っていることをアピールするため、南欧諸国の大使の中でも最年少の一人、セレーノ大使は精力的に活動している。

プライベートでは、愛車の「ドゥカティ」にまたがり東京の街を走るのが好きだという。そんなセレーノ大使に、日本とポルトガルの関係、海洋を守るために両国が協力できること、おすすめのポルトガル料理店などについて聞いた。

おすすめ
    関連情報
    関連情報
    広告