Tokyo meets the world: Djibouti
Photo: Kisa Toyoshima Ambassador of Djibouti to Japan Ahmed Araïta Ali
Photo: Kisa Toyoshima

駐日ジブチ共和国大使に聞く、世界で唯一自衛隊を受け入れている理由

13年間の任期の中で感じた東京の印象とジブチと日本の特別な関係

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コーディネート:Hiroko Ohiwa

多くの駐日大使は4年または5年の任期を務め、東京での生活に慣れ親しんだ頃には次の任地に向かうという状況だが、アホメド・アライタ・アリ大使は違う。2008年5月からこの地に駐在しているジブチ共和国大使は、その長い任期の間に自国への関心が飛躍的に高まったことを実感している。

2011年は、自衛隊がジブチに初の海外基地を開設した年であり、「3.11」の災害で壊滅的な被害を受けた福島県南相馬市をジブチが支援し始めた年でもある。日本とジブチの今のような友好関係はそこから発展したのだと、アライタ・アリは言う。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回は8月下旬に自身の任期を終えジブチに帰国するアライタ・アリに話を聞いた。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントで、SDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、東京での生活を振り返り、アフリカに対する固定観念を無くすための努力や日本とジブチが共に、より持続可能な社会を作るにはどうしたらよいかを語った。ほかにも、おすすめのレストランやオリンピックへの期待に触れ、「すしざんまい」の木村社長との仲まで話してくれた。

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日本の文化や伝統にはずっと惹かれていた

ー東京に駐在するようになってから、日本に対する印象はどのように変化しましたか。

(大使職は)私にとって非常に良い経験でした。来日前は、本やテレビなどのメディアを通じて日本を知っていましたが、日本人にとってアフリカは遠くに見えるように、私にとって日本はとても遠くに感じられました。

しかし、日本の文化や伝統にはずっと引かれていたので、日本に派遣されることが決まった時はとてもうれしかったですね。私はもともと教師で、生徒たちに日本について教えたことはありましたが、私自身は日本のことをよく知りませんでした。

初めて成田空港に到着して、ビルや高速道路が林立する街を通り抜けた時、とても整然としているけれど、誰もいないように見えました。ビルしか目に入らなかったからです。

話は変わりますが、成田に着いた時、日本大使が私を迎えに来て一緒に車に乗ったのですが、彼は運転手に「まっすぐ」と言いました。「マッスグ」は私の祖母の名前なので、私は「ああ、日本人は私の祖母のことまで知っているんだな」と思っていたのです(笑)。その後、彼は「みぎ」と言ったのですが、この言葉は私の言語でも同じなんです。面白い偶然でした。

東京で生活していると、着物とナノテクノロジーのように、伝統と未来が共存していることに気がつきます。伝統を忘れ、何もかもを他国から取り入れてしまう国もありますが、日本は違うのです。

ジブチは自衛隊を受け入れている唯一の国

ージブチと日本との関係について教えてください。

ジブチは小さな国ですが、非常に戦略的な位置にあります。アフリカへの玄関口であり、エチオピアなどの近隣諸国は、ジブチを海へのアクセスポイントとして利用できます。私たちは、シンガポールのようなフリーゾーンであり、国際レベルでは平和的な交流を促進しています。

私が日本に来た時、何人かの人に「ジブチとは何ですか」と聞かれました。しばらくすると、「ジブチとはどこですか」に変わりました。今では「ジブチはいいですね」と言われます。これは、ほかのアフリカ諸国と一緒に横浜や日比谷公園などでフェスティバルやそのほかのイベントを開催するなど、人と人とのつながりを重視した外交のおかげです。

また、日本とは連帯感やホスピタリティーなどの価値観を共有しており、福島県南相馬市の復興支援などを通じてそれを示すことができました。ジブチは平和な国としても知られており、自衛隊を含む外国軍を受け入れていますが、それは戦争ではなく平和のためです。

自衛隊は教育、道路建設、住民支援などを行い、ジブチに貢献しています。同国は自衛隊を受け入れている唯一の国ですが、1995年に日本が出資をして設立された「コレージュ・ド・フクザワ」という中学校もあります。

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アフリカに対するステレオタイプな価値観を変えたい

ー日本は、特に開発に関して、国際的にもっと重要な役割を果たすべきだと思いますか。

日本はすでにアフリカ開発会議(TICAD)をはじめとする開発分野で重要な役割を果たしていると思います。2013年に設立されたアフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)などのスキームを通じて、技術協力、雇用の創出、教育の改善を推進しています。ジブチに戻ったら、日本語と英語を教える語学学校を開き、ジブチ人学生への奨学金を増やすのが私の目標です。

一方で、日本の教育機関との仕事を通じて、日本だけでなく世界中で、アフリカに対するステレオタイプな価値観を変えなければならないことに気付きました。人々は、アフリカに対して戦争などのネガティブな面しか見ていません。

そこで、25年ほど前に「外交官が見た日本の写真展」というプロジェクトを始められた高円宮妃久子さまと共同である取り組みを始めました。私が高円宮妃殿下に提案したのは、日本の外交官の目を通して、ジブチをはじめとするアフリカや世界を見せることでした。

また、私は日本での経験と、ソフトパワーの使い方など、アフリカが日本から学べることについての本も出版しました。帰国後も、日本とジブチの関係を強化していきたいと思っています。

東京は人生の最高の学校

ー東京での生活はいかがでしたか、またあなたにとって東京はどのような存在ですか。

東京は、私にとって人生の最高の学校です。人も街も、それを構成するものも、本当に素晴らしいです。東京は小さな村の集まりのようで、頻繁に会わずとも隣人同士の連帯感があります。

安全性についても言及しなければなりません。私は、誰かがトイレに忘れていったお金の入った財布を見つけたことがあります。同行していた財務参事官と一緒に警察に行きました。財布を提出すると、警察官は「3カ月以内に誰も取りに来なければ、お金は全てあなたのものです」と言いました。「また、誰かが取りに来たとしても10%はあなたのものです」。これは正直者へのインセンティブだと思います。

このときは、落とされた方が財布を取りに来られました。でも、それは他国では見られないことで、特別なことなのです。携帯電話を忘れてしまい、1時間後に慌てて戻ってきても、まだそこにあるのです。

東京には離れると恋しいものがたくさんありますが、永遠に訪れることができないわけではないと思っています。今や世界は村ですから、いつでも戻ってくることができます。

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建国記念日にはすしざんまい社長によるマグロの解体ショーを開催

ー都内でお気に入りの場所はありますか。

私は中目黒に住んでいて、毎朝、早い時間に川の周りを歩いています。隣人との付き合いも深く豊かです。それに、目黒川や恵比寿ガーデンプレイスは東京の中でも桜の名所の一つですしね。中目黒は私の居場所です。

ー東京にジブチ料理を出すレストランはありますか。

先ほど申し上げたように、ジブチはアフリカの角の玄関口です。そういう意味では、中目黒からほど近い場所にエチオピア料理のレストラン、クイーンシーバがあります。オーナーのサロモンさんは、1970年代からここに住んでいます。彼のレストランはこぢんまりとしていますが、とてもおいしく、コロナ禍前には毎週金曜日の夜にライブ演奏が行われていました。私たちの地域の料理を味わいたい人には最適な場所です。     

また、ジブチ人は魚が大好きで、建国記念日には友人である、すしざんまいの社長である木村清さんに来てもらって、マグロの解体ショーをよく開催しています。私は日本でマグロを食べるようになり、好物になってしまいました。

オリンピック開催は大きなプラスに

ー東京オリンピックも開催中ですね。コロナ禍に開催されることについてどう思われますか。

東京オリンピックには4人のジブチ選手が出場しますが、私は彼らに期待しています。このような状況で大会を開催することは日本の文化や方法のおかげで、日本でしかできないことでしょう。

全ての危険を排除できるわけではありませんが、可能な限りリスクを避けながら開催しています。選手たちは何年もかけてこの大会に向けて努力してきましたし、なかにはこの大会がオリンピックに参加できる最後の機会になる人もいるのです。

わがままを言えば「中止にしよう」となるかもしれませんが、スポーツが世界の共通言語であることを考えれば、オリンピックを開催することは大きなプラスになると思いますし、私はいいことだと思っています。

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職業教育の向上に力を注ぐことが重要

ー最後に、日本ではSDGsが注目されるなど、持続可能な開発への関心が高まっています。ジブチはどのようにサステナビリティに取り組んでいますか。

ジブチは2035年に向けて、地熱、水力、太陽光発電の利用など、持続可能性に関連した多くの目標を掲げています。私たちに必要なのはノウハウです。日本とジブチは、このような取り組みに加えて、健康や教育の分野でも協力できると思っています。ネルソン・マンデラは「教育は世界を変えるために使える最強の武器だ」と言いました。

私は日本とジブチ、そしてほかの国々が相互に協力し、教育、特に職業教育の向上に力を注ぐことが重要だと考えています。これは、人々が援助を待つのではなく、自分の人生を自ら切り開いていくことを助けるものであり、持続可能性の目標を達成するためには不可欠なことなのです。

アホメド・アライタ・アリ(Ahmed Araita Ali)

駐日ジブチ共和国大使館

1997年から国家教育省参事官兼国際連合開発計画(UNDP)技術顧問。 2000年に開発社会基金プロジェクト局長に就任。 2004年にアフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)およびアフリカン・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)担当特命全権大使に任命。 2008年から現職。

高橋政司(たかはし・まさし)

ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント

1989年、外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局にて経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。 2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。 2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、ユネスコ(国連教育科学文化機関)業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」などさまざまな遺産の登録に携わる。

もっと「Tokyo meets the world」シリーズを読む……

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駐日イタリア大使、ジョルジョ・スタラーチェ。2017年から東京に駐在しているスタラーチェは、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司と、クリーンエネルギー、サステナビリティ、東京の優れたイタリアンレストランなどについて語り合った。

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  • Things to do

美しい風景や歴史的な都市、おいしい地中海料理、世界トップレベルのサッカー選手、ニコラ・テスラから「ヨーロッパのイーロン・マスク」とも呼ばれる有名な発明家のマテ・リマックまで、クロアチアは多彩な魅力を持った国だ。アドリア海に面した小国であるクロアチアは、さまざまな面で優れた力を発揮しているが、特に観光に関しては人口の4倍以上の年間訪問者数を誇っている。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回は、クロアチア大使のドラジェン・フラスティッチに、京都をはじめとする日本の都市が直面している「オーバーツーリズム」問題への対処法など、さまざまな話題について聞いた。

  • Things to do

駐日大使へのインタビューシリーズ「Tokyo meets the world」第3回は、インド。2019年1月から大使に就任したサンジェイ・クマール・ヴァルマに、国際情勢から東京での生活まで幅広く話を聞いた。大使は、両国間のビジネスや技術などの交流を深めるため尽力しながら、博物館巡りや皇居の庭園を散策する時間も大切にしている。

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