コロナ禍によって、住み方や働き方など生活スタイルは大きく変容した。旅のスタイルもこれからガラリと変わるだろう。
行楽シーズンや週末に家族や友人と有名な観光地を訪れ、食事をして温泉に入り、翌日はお決まりの寺社仏閣に出かけて写真を撮り、土産を買って帰る。というこれまでの旅の定型から、「長期間のワーケーション」や「唯一無二の体験や経験を探す旅」、または「地域住民と触れ合い、第2の故郷のように関わる旅」へ徐々にシフトしつつある。
問題は、その変化に対し、現状の観光(セクター)では十分に応えきれないことだ。変化に対応するために重要なことは何か? 星は「ホスピタリティーの本来の定義に立ち返ること」だと指摘する。
「日本では、ホスピタリティー=おもてなし、つまり『上げ膳据え膳の極み』みたいなものと捉えられていますが、本来のホスピタリティーというものは、相互性のあるもの。ゲストと迎え入れる側の双方がお互いを理解し、深い人生体験を共有して幸せになることなのです」
すでにその定義を理解し、感度の高いロイヤルカスタマーを多く抱える宿泊施設がいくつかあると星は言う。例えば、長野県南部の伊那谷エリアにある1日1組限定の1棟貸し古民家宿、nagareだ。500日間の世界一周の旅を終えた夫婦が、築100年の古民家をできるだけ原型に戻す形でリノベーションした宿である。
地域の職人やアーティストが手がけた家具や装飾品と、海外でオーナー夫婦が手に入れた調度品が程よくミックスされた空間は、抜群に居心地が良い。食事は、地産のものをゲストが最終的に調理するスタイルとなっている。
星は「押し付けがましくない適度なサービス、懐かしさと快適さが同居した空間で、地域というものに自分が受け入れられている感覚に包まれる」と同宿を絶賛する。
さらにもう一つの例として、福島県土湯温泉のゆもり温泉ホステル (YUMORI ONSEN HOSTEL)を挙げる。ここは、廃業した温泉ホテルを全面リノベーションし、貸し切り温泉付きゲストハウスに生まれ変わった宿泊施設だ。
食材を持ち込むだけで料理が楽しめるシェアキッチン、宿泊者以外も利用できるコミュニティースペースやカフェがあり、「地域住民と宿泊者の交流が、とても自然かつ活発に行われている。シカの皮でスリッパを作るワークショップなど、ほかにはない体験も魅力的です」。