目に見えない価値をどのように提供するか
まず、本フォーラムのメディアパートナーであり、ORIGINAL Inc.代表取締役兼タイムアウト東京の代表である伏谷博之が、「観光新時代」に必要な課題として「1.観光客と地域住民の相互利益を創出する」「2.観光の目的とスタイルの多様化に対応する」「3.地域の歴史、文化、生活風習に根ざしたユニークバリューを発見する」を提起し、それぞれの具体例を挙げた。
「1」については、アムステルダムの旧市街地を紹介。ここは年間1900万人が訪れる観光地だったが、コロナ禍で閑散としていた。同市の市長が視察した際に、町の中心街にもかかわらず地元住民のための施設が全くないことに気付き、条例を改定して、地元民のための施設や商店を増やす施策を行ったという。
「2」については、「メタ観光」という概念について説明した。東京都の神田にある甘味処の竹むらは『揚げまんじゅう』で有名だが、それを第1レイヤーとすると、池波正太郎のエッセーで紹介された事実が第2レイヤー、特撮テレビ番組『仮面ライダー響鬼』のロケ地で使われているのが第3レイヤーとなる。そのように、一つのスポットやエリアに積み重なるさまざまな潜在的価値を可視化していく重要性を説いた。
「3」は、アルゼンチンの演劇映像作家やドイツの女性歴史学者などの活動を例に、アートと観光の融合について語った。
この3つの提言を受け、口火を切ったのはTOKI代表取締役の稲増佑子だ。
稲増はハイエンド層の訪日顧客に向けた文化体験や旅行、イベントの企画、ガイドや人材育成、自治体向けの観光コンテンツ制作などさまざまな事業を行っている。コロナ禍で会社は大打撃を受けたが、改めて自社の提供価値を深掘りした。それが「体験にもっとインスピレーションを」だ。
「弊社はバイカルチャーのメンバーが多く、日本に限らずさまざまな国の文化を体験し、それが人生の豊かさにつながったと口々に言います。そこで、我々としてもより一層の『文化的な社会』を目指し、新しいインスピレーションやイノベーションにつながるような豊かな体験を、リアル+デジタルの分野で提供しようと考えました」
稲増は現在自社で取り組んでいる体験の具体例を挙げ、旅のキュレーションのポイントについて下記のように提言した。
「体験者がストーリーを膨らませてくれるように、文化提供者に対するコンサルティングを丁寧に行うことが大事です。海外のお客さまは自国文化と比べて『日本を見よう、体験しよう』と考えています。そのため、その土地にしかないものを提供できたとしても、ストーリーテリングといいますか、お客さまの文化や言語に合わせて伝えられないといけない。
こちら側が『これは面白いです』と提示しても、相手にとって何が面白いのか分からなければ、面白さの30%しか伝わらないのです。『文化的な言語化』を意識することが本当に重要です」