NEXTOURISM、観光新時代を展望する
NEXTOURISM、観光新時代を展望する
NEXTOURISM、観光新時代を展望する

NEXTOURISM、観光新時代を展望する

日本地域国際化推進機構の設立記念シンポジウムをレポート

広告
テキスト:高木望

2021年1月に観光を通じて地域の国際化を推進し、地域の 文化と経済を活性化することを目指して設立された一般社団法人 日本地域国際化推進機構(以下、機構)がその設立記念となるオンラインシンポジウムを2021年4月26日に開催した。  

機構では「NEXTOURISM(観光新時代)」と標榜し、次世代の観光をけん引していく取り組みを行っていくという。彼らの目線からは、観光立国である日本の未来がどのように見えているのだろうか。シンポジウムは2部構成で、第1部では、「観光立国ニホンの未来」をテーマに、コロナ禍によってダメージを受けた観光市場の回復について語られた。第2部は、「観光新時代ってどんな時代?」と題し、観光のニューパラダイムについてディスカッションが行われた。

コロナ禍で人々の価値観がシフトしていくことによって、観光や旅のスタイル、その意味がどのように変わっていくのかなど、登壇した6名の機構の理事によるトークセッションをレポートする。なお、全編を通してナビゲーターは堀口ミイナが務めた。

ポストコロナ時代のインバウンド、2022年の再開を目指す

第1部では、新型コロナウイルスのまん延によって大きなダメージを受けた観光市場がこれからどのような形で回復できるのか、その際にデジタル技術はどのような役割を担うのかについて、登壇者のトークが繰り広げられた。

新型コロナによる、人々の移動が制限された2020年。訪日外国人観光客数は激減し、夏に予定していた『東京オリンピック・パラリンピック』が延期になるなど、観光業が大きな痛手を被った年だった。

その中で観光庁が発表したのは、国民の国内移動を促し経済を積極的に回していく施策「Go To キャンペーン」。当時観光庁長官としてキャンペーンをけん引した、三井住友銀行顧問で玉川大学 観光学部 客員教授の田端浩は、プロジェクトに取り組んだ背景と、今後のインバウンド再開のめどについて語った。

「もともと『GoTo』は、日本人が旅し、地域での消費を促すことで地域経済を回していくために設けられた施策でした。しかしその裏側には、来たるべきインバウンドの再開を見据えた準備、という目的もあります。全世界の観光業がストップしているウィズコロナの時代は、より各地域の観光コンテンツを磨き上げるチャンスだとも思っています。 観光庁では世界観光機関(UNWTO)や国際航空運送協会(IATA)などの機関にヒアリングを重ねているのですが、彼らの見立てでは2022年からインバウンドが再開できるのでは、という意見が比較的多いです。アフターコロナに向け、医療機関や飲食、イベント関係者など多くの人と協力し、観光コンテンツを磨き備えることこそ、今我々がやるべきことだと思っています」(田端)

観光DXで目指す都市の在り方とは?

その上で日本地域国際化推進機構が取り組もうとしているのは、観光を基軸としたスマートシティを生み出す「観光DX(デジタルトランスフォーメーション)」を普及させること。観光による持続可能な街づくりのあり方を、デジタルの側面から模索する。機構に参加するNEC執行役員 クロスインダストリーユニット ユニット長の受川裕は、コロナ禍を通して「スマートシティ」「DX」という言葉を耳にするようになった背景について語る。

「技術革新をはじめ、少子高齢化による労働力の補完などの目的が見えたことから、スマートシティやDXなど、デジタルで効率化を図る仕組みが急速に進歩しました。ただ、実は現在起きているブームは第2次なんです。2000年初頭には産業や交通、防災といった各領域でスマートシティの考え方が取り上げられる第1次スマートシティブームが起きていました。今起きている第2次では『データ利活用』がキーワード。例えば、現在和歌山の白浜海岸では顔認証で入場できるシステムなどが採用されていますが、顔認証に基づいたデータ活用が観光地で行われることで、買い物のキャッシュレス化や災害時の情報共有など、広域での観光のあり方が変化します」(受川)

機構では、観光DXの実証実験を伊勢市で行なう準備をしている。キャッシュレスなどの非接触決済の導入、交通アクセスの利便性向上、情報発信の強化、ポストコロナを見据えた多言語対応などが検討されている。

ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタントの高橋政司は伊勢市を実証実験の対象地域に選んだ経緯について「伊勢市が抱える観光地としての課題」に触れた。

「伊勢市は内宮と外宮、そのほかの地域で、観光による経済効果の格差があります。伊勢市にはコロナ前、年間900万人を超える観光客が訪れていました。今はコロナで半分近く減っていますが、コロナという制約下でも外から訪れる人の数は少なくはない。 その人たちが内宮にとどまらず、伊勢市全体を回遊する形で広がっていくような受入基盤を作ることで、経済格差は減らせるはずなのです。また、伊勢市がデータ戦略的な環境を生み出すことで、災害時の救助活動などの効率化にもつながる。災害に強い街づくりのロールモデルが生まれれば、日本全体に防災のためのデータ基盤を展開できるようになると思います」(高橋)

広告

観光新時代へのパラダイムシフト

コロナ禍がきっかけとなって人々の価値観がシフトする中で、観光や旅のスタイル、その意味がどのように変わっていくのか。第2部では、地域コミュニティーと観光の新たな関係構築、観光で育むレジリエンスなど、新時代の観光について登壇者が対話した。

グッドイートカンパニー 取締役 兼CSOとして、日本政府観光局デジタル戦略アドバイザーを務める牧野友衛は、コロナ禍に起こっている変化について「もともとは兆しがあったが、コロナによって流れが加速しただけ」だと捉える。その上で、近年は観光の多様性が生まれていると言う。

「観光客の視点は『インスタ映え』や『アニメ聖地巡礼』のように、個人的な趣味や興味関心に基づき多様化していました。またアフターコロナではそういった視点の多様性だけではなく、パターンの多様性も見受けられるようになると思います。

今は人混みを避け、アウトドアやリゾートへ長期滞在したい気持ちが人々の間で強まっている状況。リモートワークが急速に推進されたことで、ワーケーションのように長期滞在型の旅行も増え、宿泊施設も長期滞在型のプランへ踏み込まざるを得なくなりました。

そうなると1泊2日でできるだけ予定を詰め込むような従来の旅行ではなく、ホテル周辺を散歩してみるなど『そこに滞在する』という行為そのものを楽しむような過ごし方も登場します。モノ消費ではなく、コト消費の体験も重視する流れになっているのかもしれません」(牧野)

また、アソビジョン代表取締役で立命館大学の客員教授である國友尚は、コロナを通した価値観の変化について、次のように語った。

「自分自身の『これがいい』という価値を重視する旅のあり方に変わっていくのでは、と思います。その上で、いかに旅先のコトを自分ごとできるかが大きなポイント。例えば、お盆やお正月の実家に戻るのも旅の一つですが、実家には自身が体験してきた実家の濃い文化と歴史が詰まっています。そういった濃い体験や文化が詰まっている空間で過ごし味わう時間こそ、これからの旅に求められているのかもしれません。

だからこそ、今後の観光業のテーマは記憶なのかなと。身近な人の体験をSNSなどへの投稿で知り、それらをもとに自身の無意識に眠っていた記憶を紐解き、旅先を訪れる……。といったように、ヒトの記憶は自分ごとのきっかけになると思います。その上で、観光地の住民の文化的記憶などに触れるポイントがあれば、自分との共通性を見出し、自分 ならでは独創 的な体験 を生み出すきっかけにもなるのではと思います」(國友)

観光DXで受入環境を整える

観光DXの技術と、パーソナルで多様な観光のあり方への変化が重なることで、今後の観光の受入環境はどのように変化するのか。機構の代表理事であり、ORIGINAL Inc. 代表取締役、タイムアウト東京代表である伏谷博之は次のように予測する。

「コロナ禍で密を回避するようになった結果、観光地は人気スポットへより多くの人を集めようとするあり方から、各々の旅の目的に合致した魅力を伝え、分散させていく方向へ転換していきます。多様なニーズに対応したレコメンデーションが必要になってくる中、例えば、顔認証で観光地へチェックインすることで、混雑を回避するルートやスポットなどの様々な情報が適時、提供されるような形が模索できるといいですね。 人々の価値観の変化に寄り添った受入環境を作り、豊かな滞在体験を実現することで、多様性ある地域の魅力を伝えるだけではなく、地域に住む人も利益や価値を享受できる世界が生まれるはずです。観光DXを通じて、まちづくりにデジタルな都市OSを導入することで、観光を基軸にしたスマートシティプラットフォームが成立すると思います。 また、今後はVRやARを通じて全く新しい体験ができるようなビジターセンターも作っていけるでしょう。情報発信を通じて狙うのは、観光客はもちろんですが、現地の人にもその地域の価値を知ってもらうこと。それによって地域に暮らす人たちにアイデンティティが培われ、外の人に地域の魅力を伝えたくなるようなきっかけを、テクノロジーを通じて生み出していきたいです」(伏谷)

県をまたぐ移動が制限される中でも、各地方の観光都市ではオンラインなどを活用して観光客とのつながりを保とうとしている。アフターコロナに突入した時に懸念されるのは、デジタルリテラシーの有無が、観光から生まれる経済の格差を生み出してしまうことなのかもしれない。

人の流れを血流に例えると、観光の多様化への対応を目指す、彼らの観光DXプラットフォームは、地域の隅々まで血流を行き渡るようにする毛細血管の役割となり得る可能性もあるだろう。

観光を通じた持続可能な地域の実現に向けて今後の機構の取組みに注目したい。

登壇者プロフィール

伏谷博之
代表理事:ORIGINAL Inc. 代表取締役/タイムアウト東京代表

受川裕
理事:NEC執行役員 クロスインダストリーユニット ユニット長

田端 浩
理事:三井住友銀行顧問玉川大学 観光学部 客員教授

牧野友衛
理事:株式会社グッドイートカンパニー 取締役 兼 CSO / 日本政府観光局 デジタル戦略アドバイザー / メタ観光推進機構 代表理事

國友尚
理事:アソビジョン株式会社代表取締役 / 立命館大学 客員教授

高橋政司
理事:ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント

堀口ミイナ
ナビゲーター

ポストコロナを読み解くなら……

  • Things to do

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。ここではアーカイブを紹介していく。

おすすめ
    関連情報
    関連情報
    広告