Photo: KIsa Toyoshima
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オリンピック・パラリンピックを機に見直されるPHRの可能性

健康管理アプリ『健康日記』のヘルステック研究所、阿部達也インタビュー

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インタビュー、テキスト:間庭典子

※本記事は、『UNLOCK THE REAL JAPAN』に2021年3月29日付けで掲載された『Dear Diary』を翻訳、加筆修正を行い転載。

東京オリンピック・パラリンピックしかり、今後、大規模なイベント開催で、COVID-19の感染対策のための健康管理が重要なのは明らかだ。各会場で選手やパフォーマー、運営スタッフ、観客など関わる全ての人の健康情報を把握することがキーとなるだろう。そこで有効なのが健康・医療などのデータを記録したパーソナルヘルスレコード(PHR=Personal Health Record)のオンライン化だ。体温や体調の変移などPHRをチェックすることで、入場時の混雑は緩和され、より効率的な感染防止対策が見込める。

2017年に設立されたヘルステック研究所は京都大学と連携し、「個人の意思」によるPHRの利活用を推進している。2020年3月には『健康日記』という日々の健康を観察するPHRアプリを無料で配布した。「体重や血圧などを入力し、スマートフォンのヘルスケア機能などと連動することで歩数なども自動的に取り込むことができます。通院や運動記録などを自身の健康に関する日記機能や、診察券画像の保存などの機能も追加され、2020年末には6万ダウンロードを突破しました」と、ヘルステック研究所の代表取締役である阿部達也は語る。アプリの開発には和歌山県立医科大学の山本景一教授をはじめ、研究者や医療従事者も携わった。『健康日記』というシンプルなネーミング同様、スマートフォンを使い慣れない世代でも操作しやすいシンプルなアプリだ。

ヘルステック研究所代表取締役の阿部達也/© 2021 HealthTech.Lab Inc

 

「チーム」のヘルスケアマネジメントが簡潔に

この『健康日記』アプリは、睡眠効率やその日の歩数などの日々の健康データの記録とともに、新型コロナウイルスの特設ページも設けている。体温や症状、薬の服用の有無などの経緯を把握でき、和歌山県をはじめとする各地の保健所でも導入されるようになった。「当初、保健所は濃厚接触者への電話での聞き取り調査をしていたのですが、マンパワーが追い付かず、現場は困難を極めていました。この『健康日記』でPHRを共有することで、紙で管理するより健康観察がスムーズになったと思います」と阿部は振り返る。ほかにもあった優れたシステムは、現場に余裕がなく導入できなかった。トラブルの原因が各保健所のシステムが外部からの情報をサーバーがシャットダウンしてしまうが、メールとして添付すれば送れることに気付き、データ登録のシステムを切り替えたという。

2020月8月にリリースした個々の『健康日記』をつなぐクラウドシステム『らくらく健康観察』は、2022年3月まで無償で提供する予定だ。『健康日記』に登録した個々のデータは学校、企業、自治体などにワンクリックで送信され、『らくらく健康観察』上でメンバーの健康状態を管理者が一括してチェックできます。蓄積したデータを振り返り、分析することも可能です」。学校のクラスでも、企業内の部署でも、競技団体でも、世の中のあらゆる「チーム」の『健康日記』のヘルスケアマネージメントが簡潔になった。

また「データ形式が統一されているため、感染経路の特定など、国レベルでの解析が可能となります」と阿部。地震や台風、津波などの自然災害により、一時的な非難が必要になった際にも『らくらく健康観察』は感染拡大防止に有効だ。接触を最小限にして、避難した人々の健康状態をオンラインで確認できる。現在では700以上の自治体、企業、学校などの「チーム」が活用しているという。

『らくらく健康観察』画面/© 2021 HealthTech.Lab Inc


もともとは京都大学に在籍する学生2万人、職員8000人の健康診断のデータをペーパーレスにし、オンライン化することからスタートした。「学生番号を入力すればスマートフォンでも簡単に検査結果を閲覧できるので、今まで面倒で検査結果を取りに来なかった学生も結果を確認するようになり、健康への関心が高まります。若いうちから自分の健康状態の推移を把握することで、その後の生涯での生活習慣病などを未然に防ぐという効果も期待できるでしょう。

また、総合的な医療データは京都大学にとってもさまざまなエビデンスを検証するための貴重な資料ともなり得えます」。研究結果が確証されることで、より具体的なアドバイス、効果的な対策が可能になる。個々のデータが研究に生かされ、実証実験の成果を個々の健康向上に還元するという試みだ。

一人も取りこぼしを出したくない

バスケットボールの実業団選手だった阿部は、現在、プロバスケットボールリーグの大阪エヴェッサのGMとしてチームを支えている。パラリンピック種目でもあるブラインドサッカー協会のアドバイザーにも就任した。「ブラインドサッカーは全盲の選手以外にも、晴眼者や弱視者が担当するゴールキーパーや掛け声で場所を誘導するガイドなど、さまざまな立場の人に役目があり、協力し合う競技です」。フィールドに立つ全員が主役だ。いろんな立場の人の知見を取り入れることで、ゴールを目指す姿勢は今のプロジェクトにも共通する。「混ざり合う社会の縮図がブラインドサッカーです」と阿部は語る。

photo: Kisa Toyoshima


「一人も取りこぼしを出したくない」と阿部は言う。感染症は、一人でも見過ごすとそこから広がる。PHRの共有にはさまざまなリスクもはらんでいるが、利活用することで全体を守ると同時に一人の取りこぼしを出すことなく、個々を守れる。「COVID-19がまん延する今の状況は決して好ましいことではないですが、起きてしまったことです。今、このタイミングで一度立ち止まることは、自身の健康と向き合うきっかけになるでしょう」と阿部は前向きに現状と向き合う。

「生涯にわたる健康情報プラットホーム」の構築

今後、ヘルステック研究所が目指すのは「生涯にわたる健康情報プラットホーム」の構築だ。「今まで母子手帳から始まり、各健康診断、各医院でのカルテなど、生涯の健康・医療に関するデータは分断されていました。けれど生涯のデータを時系列で簡単に管理、閲覧できるポータビリティーが可能になれば、転職や引っ越しなどで環境が変わっても、健康状況をより客観的に、継続的に把握できます。医療従事者とのコミュニケーションもより円滑になり、効率的な診断、治療が可能になります。」と阿部は未来への抱負を語る。

PHRを生涯通じて味方にすれば、わずかな情報も取りこぼすことなく、より健康な人生が歩めるだろう。

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新型コロナウイルスの最新情報を知る

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世界中の国々がパンデミックから抜け出すための明確なルートを確立するために、ワクチンに賭けている。しかしどの国の政府も今、旅行、演劇、コンサート、仕事など、経済活動の各分野を全ての人に開放するのか、それとも、ワクチン接種した人だけを対象にするのか、という大きな問題に直面している。

初期の研究では、主要なワクチンのうち少なくとも2種類は、ウイルスの感染を防ぎ、重症化を軽減する効果があることが示されている。それゆえ、企業、職場、国境が再び「開く」場合に、新たな感染リスクを抑制するための一つの方法として、「健康パス」または 「ワクチンパスポート」と呼ばれるようなワクチン接種証明を求めることが検討され、一部で導入されているのだ。

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世界中でのワクチン接種が進んでいるなか、同時に世界各国では、自国経済をどう再開させるかの検討が行われている。すでにいくつかの国では、レストランやジム、大規模なイベント会場を訪れる際などに、ワクチン接種済みであることを証明できる 「ワクチンパスポート」を導入しているが、欧州連合(EU)も、ワクチン接種した人が域内を自由に移動できるようにする独自の「デジタルグリーンパス」の導入に取り組んでいることが分かった。

欧州委員会の委員長であるウルスラ・フォン・デア・ライエンは2021年3月1日、 「 (このパスは)ヨーロッパの人々の生活を促進するはずだ。人々が仕事や観光のためにEU域内や海外を安全に移動できるようにすることが導入の目的」と語り、EU版ワクチンパスポートの導入を表明。

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この数カ月間、我々はようやく元気になれる大きな理由を手にしたといえるだろう。イギリスやアメリカをはじめとする世界各国で、高齢者やエッセンシャルワーカー、基礎疾患のある人たちへのワクチン接種がようやく開始。完全ではないかもしれないが、もうすぐ普通の状態に戻れる可能性が出てきたのだ。

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いつかまた、海外旅行に行きたいと思っているだろうか。その準備をそろそろ始めてもいい頃かもしれない。オーストラリアのフラッグキャリア、カンタス航空の社長であるアラン・ジョイスは、海外旅行は新型コロナウイルスの予防接種を受けた人だけが行けるようになるだろうと認めており、「ワクチンパスポート」が新しい常識になる日も近いと示唆しているからだ。

ジョイスは、2021年3月21日に行われたBBCとのインタビューで、海外旅行時にワクチン接種証明の提出を「各国政府が要求するようになる」と述べ、ワクチン接種が世界的に通用する「入国条件」になることについて、政府レベルの話し合いが進行中であることを把握していると付け加えた。

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