怒りや痛みを表現したパフォーマンスも
ー『月夜のからくりハウス』でしか体験できないことはありますか?
何と言っても、これだけの多様な特性を持ったパフォーマーが一堂に会する舞台は世界でここだけでしょう。世間では「障がい」と呼ばれるものを私たちは「特性」と呼びます。本人にとって苦しいハンディだけれど、それがアドバンテージになる場合もあるんです。だから、私はパフォーマンスの武器として、どう美しく魅せられるかを考えているんです。公演をご覧になった人から「映画の『グレイテスト・ショーマン』みたい」とよく言われるんですが、私たちはあの映画よりも前からやっていたんですよ。
義足であることを有効に生かしてダンスをする大前光市さんは、「ほかの舞台では義足というだけで目立つけど、ここだと埋もれてしまいそう」なんて言っていました。『月夜のからくりハウス』では、みんなが「キャラ立ち」するために必死なんです(笑)。
—どんな特性を生かしたパフォーマンスが観られるのでしょうか?
それはもう本当にさまざまです。例えば、車いすダンサーのかんばらけんたさんには、怒りや痛みを表現してもらっています。障がいのあるパフォーマーは「夢や希望を表現してほしい」と依頼されがちなので、かんばらさんも「初めてのオーダーだ」と驚いていました。彼の慟哭(どうこく)が表れたダンス、グッときますよ。
また、パフォーマー同士のコラボレーションも見どころの一つです。全盲のシンガーソングライター、佐藤ひらりさんと義足ダンサーの大前光市さん、YANO BROTHERSとだうんしょーず(ダウン症のダンスチーム)。ろう俳優の大橋ひろえさんとワハハ本舗の大窪みこえさん、声優の三ツ矢雄二さん、日本一小さい俳優であるマメ山田さんのコントも書きました。
衣装も早変わりの連続で、スタイリストやヘアメイクさんはてんてこ舞い。ハラハラヒヤヒヤするけど、「1+1=2以上」の効果が生まれるから止められません。「見たことないものお魅せします」が私たちの合言葉ですから。
—公演を通して表現したいテーマは何ですか?
それはもうシンプルに、多様性です。多様な人がいることの面白さ、居心地の良さ。私たちはこれを「まぜこぜ」と表現しています。
制作をしていく過程で、まずスタッフの意識が変わります。最初はパフォーマーに遠慮があるんですね。義足をジロジロ見たらいけないんじゃないか、スポットを当ててはいけないんじゃないか、自閉症パフォーマーに普通に話しかけちゃいけないんじゃないか、と。それが日を重ねるうちに、「なんだ、自分とは違う部分もあるけど、同じ人間じゃん」と理解する。遠慮ではなく配慮ができるようになる。あるスタッフは、「知識や理解が追いついていなくても、一緒にいれば分かってくることがあるんですね」と話していました。
さらにうれしかったのが、「僕、日常でも意識が変わったんですよ!」という発言。これまでは、街中で障がいのある人に出会ったとき、見ないようにする方が失礼にならないだろうと思っていたそうなんです。でも、今は「何か困っていないかな、声をかけようかな、いや、この人は声をかけなくても大丈夫そうだな」と一歩進んで考えられるようになったんですって。家族や友人にも同じ話をしてくれれば、そうした意識や感覚がどんどん広がっていきますよね。一人が変わることの影響力って大きいんですよ。
—観客にどんな気持ちを持ち帰ってほしいですか?
純粋に「かっこ良かった」「面白かった」と思ってもらいたいですね。でも、「自分と向き合えた」という感想も多いんですよ。
例えば、私が「そこのちっちゃいの! こっち来て!」と、こびと俳優に悪態をつく場面があります。初めて公演を観る人はドキッとして、「笑っていいのかな」と一瞬戸惑うそうなんです。なぜ笑うことをためらってしまうのかと考える中で、「これまで自分は彼らをかわいそうな弱者だと捉えていたのかもしれない、でも、それはすごく失礼なことなんじゃないか」と思い至る。自分を見つめる機会になるんですね。
私たちは笑ってほしくて演じているんだから、笑ってくれないとスベったことになっちゃうんですよ。「障がいのある人を笑うなんていかがなものか」という視線が、彼らの仕事を奪うんです。この公演では放送自粛(じしゅく)用語を連発するけれど、パフォーマーは自分の身体に誇りを持っているし、私たちも愛と敬意を込めて演出しています。だから、迷ったら思い切り拍手喝采で笑ってください。
公演を観て、パフォーマーたちと友達になりたいな、話をしてみたいな、と思ってもらえたら最高ですね!