月夜のからくりハウス
Photo: Get in touch
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「障がいを特性として魅せる」演劇を再演、代表の東ちづるが込めた思い

『月夜のからくりハウス』でしか体験できないこと

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テキスト:飛田恵美子

アートや音楽、映像、舞台などを通じて、誰もが自分らしく生きられる「まぜこぜの社会」を目指す団体、Get in touchの代表を務める俳優の東ちづる。2021年夏には『東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会』の公式文化プログラムとしてジェンダー、年齢、国籍、障がいの有無を越えて多様なアーティストがパフォーマンスを行う世界配信映像作品『MAZEKOZEアイランドツアー』の構成、キャスティング、演出、総指揮をし、話題に。

また、君が代を斉唱した全盲のシンガーソングライター、佐藤ひらりなど、同作に出演した多くのパフォーミングアーティストたちが東京2020パラリンピックの開閉会式でも活躍した。

こうした背景の中、車椅子ダンサー、全盲の落語家、こびとプロレスなど、特性を豊かに表現するマイノリティーパフォーマーへの注目は高まっている。この熱を一過性のもので終わらせないために、東は2021年11月17日(水)、渋谷区文化総合センター大和田で、自身が率いるマイノリティーパフォーマー集団、まぜこぜ一座による人気公演『月夜のからくりハウス』を主催する。

4回目となる上演だが、自主公演は今回が初めてという。当日に向けた意気込みや見どころを聞いた。

怒りや痛みを表現したパフォーマンスも

ー『月夜のからくりハウス』でしか体験できないことはありますか?

何と言っても、これだけの多様な特性を持ったパフォーマーが一堂に会する舞台は世界でここだけでしょう。世間では「障がい」と呼ばれるものを私たちは「特性」と呼びます。本人にとって苦しいハンディだけれど、それがアドバンテージになる場合もあるんです。だから、私はパフォーマンスの武器として、どう美しく魅せられるかを考えているんです。公演をご覧になった人から「映画の『グレイテスト・ショーマン』みたい」とよく言われるんですが、私たちはあの映画よりも前からやっていたんですよ。

義足であることを有効に生かしてダンスをする大前光市さんは、「ほかの舞台では義足というだけで目立つけど、ここだと埋もれてしまいそう」なんて言っていました。『月夜のからくりハウス』では、みんなが「キャラ立ち」するために必死なんです(笑)。

—どんな特性を生かしたパフォーマンスが観られるのでしょうか?

それはもう本当にさまざまです。例えば、車いすダンサーのかんばらけんたさんには、怒りや痛みを表現してもらっています。障がいのあるパフォーマーは「夢や希望を表現してほしい」と依頼されがちなので、かんばらさんも「初めてのオーダーだ」と驚いていました。彼の慟哭(どうこく)が表れたダンス、グッときますよ。

また、パフォーマー同士のコラボレーションも見どころの一つです。全盲のシンガーソングライター、佐藤ひらりさんと義足ダンサーの大前光市さん、YANO BROTHERSとだうんしょーず(ダウン症のダンスチーム)。ろう俳優の大橋ひろえさんとワハハ本舗の大窪みこえさん、声優の三ツ矢雄二さん、日本一小さい俳優であるマメ山田さんのコントも書きました。

衣装も早変わりの連続で、スタイリストやヘアメイクさんはてんてこ舞い。ハラハラヒヤヒヤするけど、「1+1=2以上」の効果が生まれるから止められません。「見たことないものお魅せします」が私たちの合言葉ですから。

—公演を通して表現したいテーマは何ですか?

それはもうシンプルに、多様性です。多様な人がいることの面白さ、居心地の良さ。私たちはこれを「まぜこぜ」と表現しています。

制作をしていく過程で、まずスタッフの意識が変わります。最初はパフォーマーに遠慮があるんですね。義足をジロジロ見たらいけないんじゃないか、スポットを当ててはいけないんじゃないか、自閉症パフォーマーに普通に話しかけちゃいけないんじゃないか、と。それが日を重ねるうちに、「なんだ、自分とは違う部分もあるけど、同じ人間じゃん」と理解する。遠慮ではなく配慮ができるようになる。あるスタッフは、「知識や理解が追いついていなくても、一緒にいれば分かってくることがあるんですね」と話していました。

さらにうれしかったのが、「僕、日常でも意識が変わったんですよ!」という発言。これまでは、街中で障がいのある人に出会ったとき、見ないようにする方が失礼にならないだろうと思っていたそうなんです。でも、今は「何か困っていないかな、声をかけようかな、いや、この人は声をかけなくても大丈夫そうだな」と一歩進んで考えられるようになったんですって。家族や友人にも同じ話をしてくれれば、そうした意識や感覚がどんどん広がっていきますよね。一人が変わることの影響力って大きいんですよ。

—観客にどんな気持ちを持ち帰ってほしいですか?

純粋に「かっこ良かった」「面白かった」と思ってもらいたいですね。でも、「自分と向き合えた」という感想も多いんですよ。

例えば、私が「そこのちっちゃいの! こっち来て!」と、こびと俳優に悪態をつく場面があります。初めて公演を観る人はドキッとして、「笑っていいのかな」と一瞬戸惑うそうなんです。なぜ笑うことをためらってしまうのかと考える中で、「これまで自分は彼らをかわいそうな弱者だと捉えていたのかもしれない、でも、それはすごく失礼なことなんじゃないか」と思い至る。自分を見つめる機会になるんですね。

私たちは笑ってほしくて演じているんだから、笑ってくれないとスベったことになっちゃうんですよ。「障がいのある人を笑うなんていかがなものか」という視線が、彼らの仕事を奪うんです。この公演では放送自粛(じしゅく)用語を連発するけれど、パフォーマーは自分の身体に誇りを持っているし、私たちも愛と敬意を込めて演出しています。だから、迷ったら思い切り拍手喝采で笑ってください。

公演を観て、パフォーマーたちと友達になりたいな、話をしてみたいな、と思ってもらえたら最高ですね!

「まぜこぜ」はものすごく面倒、だけどものすごく面白い

—まぜこぜ一座が目指す未来を教えてください。

メンバーはプロとしてさまざまな舞台で活躍していますが、福祉、教育分野に呼ばれることが多いんです。それもいいけれど、いわゆる「フツウ」の音楽番組やバラエティー、ドラマにも呼ばれてほしい。健常のパフォーマーと同じだけチャンスが巡ってくるようになってほしいんです。

障がいをテーマにした作品の主役として障がい者が登場するんじゃなくて、ごくフツウの学園ドラマのクラスメイトに手話を使う子がいる。仕事ものの映画で主人公の上司としてこびとさんが出てくる。それってすごく面白いし、話題になると思いませんか?

実際に、プロダクションの人が私たちの公演を観に来ると、「すごい人たちがいらっしゃるんですね!」と感動してくれます。でも「じゃあぜひ起用してください」と言うと、「どう接していいか分からない」「売り方が分からない」と返ってきてしまうんです。「気難しい俳優さんやワガママなアイドルさんよりよっぽどコミュニケーションが楽ですよ。見えない人、聞こえない人、歩けない人との接し方なんて3日で慣れます」と思うのですが(笑)、一歩踏み出すのが難しいんでしょうね。

私たちだって、制作する途中で傷つけたり、傷ついたり、間違えたり、失敗したりすることはたくさんあります。でも「ものをつくる」ってその繰り返しでしょう。障がいがあろうとなかろうと同じです。たしかにまぜこぜであることはものすごく面倒くさいけど、その分ものすごく面白いもの。いろんな現場で、「うちはこんなにまぜこぜでこんなに面倒なんだよ」と面倒自慢できるようになったらいいな、と思います。

—東京2020パラリンピックを経て、人々の意識に変化はあったと思いますか?

競技や開閉会式を通して、多くの人が「すごいな」「かっこいいな」「キュートだな」「面白いな」と興奮したはず。多様な特性を持った人たちがたくさんいて、私たちは一緒の世界に生きている。でも、自分の周りにはいないし、街中で出会うこともないし、フツウのテレビ番組で見ることもあまりないのはどうしてなんだろう。そこに疑問を持っていただけなんじゃないでしょうか。

ただ、私たち人間は悲しいかな、すぐにそうした疑問や感動を忘れてしまいます。だから、その熱が冷めないうちにと思い、今回の公演を企画しました。これまでは主催者が別にいて、私たちはコンテンツを提供するだけでよかったのですが、今回は自分たちが主催しています。

出演者はたくさんいるし、クオリティーはこれまでよりも上げたいし、妥協は一切できないから、制作費は800万円かかりました。クラウドファンディングで資金を集め、自分たちで告知をしてチケットを販売して……本当に大変です。大変過ぎる。それでも、今この公演を開催することに意義を感じています。

ぜひ、公演を生で観てほしい!当日券もあります!今、コロナ禍でどこの劇場でも客が戻ってこないと聞きます。もちろん配信で観てもらえるのもうれしいけれど、生の舞台からは温度感が伝わってくるもの。会場で観た人は、毎回大興奮して感想を伝えてくれます。

残念なのがね、私たちは出演しているからそれを体験できないこと。パフォーマーはみんな「うらやましいね、一度客席で観てみたいね」と言っているんです(笑)。これまでの公演よりさらにパワーアップしていますので、ぜひまぜこぜ一座に会いに来てください。

東ちづる

Get in touch代表

俳優。一般社団法人Get in touch代表。 会社員生活を経て芸能界へ。ドラマ出演や司会、講演、出版など幅広く活躍。骨髄バンク支援といったボランティア活動を長年続けている。2012年、アートや音楽、映像、舞台などを通じて、誰もが自分らしく生きられる「まぜこぜの社会」を目指す一般社団法人Get in touchを設立。記録映画『私はワタシ~over the rainbow~』、演劇プロジェクト『月夜のからくりハウス』(ともに動画をVimeoで配信中)などの企画、プロデュースを手がけ、自らも出演している。『東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会』の文化プログラムとして映像作品『MAZEKOZEアイランドツアー』(無料配信中)の総合構成、演出、総指揮を担当。著書にエッセー集『らいふ』(講談社)など。

ライタープロフィール

飛田 恵美子

1984年生まれ。茨城出身、東京在住。「地域」「自然」「生き方・働き方」をテーマに書くこと、企画することを生業としている。
2006年、明治大学政治経済学部卒業。タウン誌の編集、広告営業、まちづくり会社のコンシェルジュとして働く。2010年フリーランスの編集者、ライターとして独立。

何が起こるかわからないゆるいごはん会『食堂パルプンテ』、ソーセージをつまみながら政治について語り合う『SOW!政治』を不定期で開催中。

東京で多様性をもっと感じたいなら…

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銀座、アクセシブルガイド
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本記事では、車いすユーザーや高齢者、子ども連れ、大荷物を抱えた観光客などを対象に「誰もが快適に楽しめる銀座」を紹介する。監修を行ったのは、バリアフリーコンサルティング事業を展開する株式会社オーリアルおよびNPO法人アクセシブル・ラボ代表の大塚訓平。銀座駅周辺の「アクセシブル(誰もがアクセス可能)」なレストランやショップ、ギャラリー、商業施設などを入り口の段差や多目的トイレ、オストメイト、ベビーシート、荷物預かり所などの有無を表示するピクトグラムとともにレビューする。

中にはピクトグラムの表記がないヴェニューもあるが、これはソフト面(心や情報)のバリアフリー化が徹底されている店舗。ぜひ、誰もにフレンドリーな銀座を楽しんでほしい。

※掲載されているコンテンツは、全銀座会とのコラボレーションで制作したガイドマップ『銀座 アクセシブルガイド』および『ALL-ACCESS GINZA Your guide to accessible, barrier-free Ginza』の内容を和訳・転載したものです

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