新国立劇場『ドン・パスクワーレ』より 撮影:寺司正彦
新国立劇場『ドン・パスクワーレ』より 撮影:寺司正彦
新国立劇場『ドン・パスクワーレ』より 撮影:寺司正彦

自宅で観劇:第8回 大笑い必至、コミカルなベルカントオペラ

今週末は、喜劇オペラを見比べる

Hisato Hayashi
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テキスト:高橋彩子

さまざまな才能が集まって成立するオペラは、聴いてよし、見てよしの総合芸術だ。お金のかかる芸術だけにどうしてもチケット代が高くなるので、初めの一歩が踏み出せない人もいるかもしれない。世界の歌劇場もそのことはよく分かっていて、簡単には劇場に足を運べない人たちのために、ライブビューイングに力を入れているところも多い。そして外出自粛が続く今、それらの映像を放出してくれているのがうれしい限り。まずは映像でオペラを楽しんでみてほしい。

今回は、喜劇色の強いベルカントオペラを紹介する。ベルカントとは「美しい歌」のイタリア語。装飾的、技巧的な歌が楽しめる、洗練されたイタリアオペラだ。

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藤原歌劇団『ラ・チェネレントラ』

シンデレラの物語を喜劇にアレンジ

藤原歌劇団は♪OPERA de STAY HOME(オペラ・デ・ステイホーム)として、これまでの舞台映像を期間限定で順次無料配信中。

現在は、2018年4月公演の、ロッシーニ作曲『ラ・チェネレントラ』を配信している。「チェネレントラ」と言われてもピンと来ないかもしれないが、これはイタリア語でシンデレラのこと。そう、これはあの有名なペローの童話「シンデレラ」を、イタリア人作曲家ロッシーニがオペラ化したもの。ただし物語は少しアレンジされている。

第1幕の舞台は、ドン・マニフィコの邸宅。ドン・マニフィコの継子のチェネレントラは2人の姉にこき使われている。そこへ物乞いが現れ、姉たちは冷たくあしらうが、チェネレントラはパンとコーヒーを与える。実はこの物乞いは王子の先生、アリドーロの仮の姿だ。やがてラミーロ王子の使者が現れ、王子の花嫁探しのため3人の娘を宮殿に招待する。その後、この家に王子の従者がこっそりやって来るが、実は彼こそ、従者に身をやつした本物の王子で、アリドーロからここに花嫁がいると聞いて会いに来たのだ。すぐに引かれ合う二人。その後、偽の王子と従者に化けた王子が、屋敷を正式に訪問する。姉2人は偽の王子に夢中になり、舞踏会へ赴く。一方、チェネレントラはドン・マニフィコから舞踏会へ行くことを許してもらえなかったが、代わりにアリドーロが連れて行く。

第2幕の舞踏会では、姉たちが王子に結婚を迫る。一方、チェネレントラは愛する従者が実は王子だと知らぬまま、自分を口説いてきた偽の王子に「あなたの従者を愛している」と言う。従者にふんした王子は喜んで結婚を申し込むが、チェネレントラは自分を見つけ、普段の姿を見て決めてほしいと伝え、去る。

第3幕。再びドン・マニフィコ邸。チェネレントラのもとに、元の姿に戻った王子と従者が現れ、めでたく結婚となる。

「オペラ・ブッファ」(喜歌劇)と呼ばれ、早口での歌や抱腹絶倒の人間模様も楽しい作品だ。イタリア人演出家フランチェスコ・ベッロットが演出した藤原歌劇団のプロダクションでは、舞台は大きなペローの本が開かれた机の上。チーズを持ったネズミたちが恋を見守ったり、姉たちが二人して大きな鉛筆を運んだり、王子の家来たちが巨大なトランプを持っていたりと、観ていて飽きない。園田隆一郎指揮、テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラの軽快な演奏の中で繰り広げられる、ロッシーニならではの、超絶技巧あふれる歌の数々を味わおう。

藤原歌劇団『ラ・チェネレントラ』

5月21日(木)14時まで、日本語字幕付き。

4つの劇場で見比べる『ドン・パスクワーレ』

新国立劇場、ミラノ・スカラ座、パリ・オペラ座、ウィーン国立歌劇場の配信

新国立劇場の「巣ごもりシアター」では、オペラの第4弾として、2019年11月に上演した『ドン・パスクワーレ』を配信中。こちらはイタリア人作曲家ガエターノ・ドニゼッティによるオペラ・ブッファだ。

第1幕。裕福な独身老人であるパスクワーレは、財産を相続することになっている甥(おい)エルネストが自分の勧める結婚を断るので、自身が結婚して子どもを作ろうと考えている。相手を相談された主治医マラテスタは、自分の妹はどうかと提案。実はマラテスタはエルネストの友人でもあり、エルネストの恋人ノリーナを妹と偽わって紹介し、結婚に辟易(へきえき)させて諦めさせる腹づもりだ。マラテスタの計略を聞き、パスクワーレ好みの娘に化けるノリーナ。

第2幕。現れたノリーナを気に入って結婚式を行ったパスクワーレ。ところが、結婚の署名をした瞬間、ノリーナの態度は豹変。わがまま放題を始める。

第3幕。ノリーナは買い物三昧を続ける上に、愛人との逢引(あいびき)の手紙を落とす。激怒したパスクワーレが現場を押さえて離婚を言い渡し、エルネストの結婚を許すと、マラテスタが花嫁はここにいると宣言。全てを知ったパスクワーレはエルネストとノリーナを祝福する。 

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イタリア人演出家ステファノ・ヴィツィオーリ演出の舞台は、作品の喜劇的要素を美しく浮かび上がらせる。ノリーナ役のソプラノ、ハスミック・トロシャンは伸びやかな声の持ち主で、コケティッシュな美貌といいコメディエンヌぶりといい見事。パスクワーレ役のロベルト・スカンディウッツィとマラテスタ役ビアジオ・ピッツーティの早口二重唱も必聴だ。コッラード・ロヴァーリス指揮・東京フィルハーモニー交響楽団の演奏が耳に心地よく届く。

新国立劇場『ドン・パスクワーレ』

5月22日(金)14時まで、日本語字幕付き。

さて、新国立劇場の舞台を日本語字幕で鑑賞した後は、海外の『ドン・パスクワーレ』も観てはいかがだろうか。なんと今週末は、ミラノ・スカラ座、パリ・オペラ座、ウィーン国立歌劇場の配信で本作を楽しむことができるのだ。いずれもモダンで美しい舞台なのでぜひ見比べてほしい。

日本時間の5月15日現在で観られるのは、ミラノ・スカラ座(配信終了日不明)。パリ・オペラ座はフランス時間5月17日までウィーン国立歌劇場はドイツ時間で5月18日に配信(1日だけなのでお見逃しなく)。

高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。「エル・ジャポン」「AERA」「ぴあ」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜を連載中。

 http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

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