わたしはロランス
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アップリンク クラウドで観るべき映画10選

ドラマ映画やドキュメンタリー作品など、今観てほしい作品を紹介

Mari Hiratsuka
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タイムアウト東京 > 映画 > アップリンク クラウドで見るべき映画5選

テキスト:隈元博樹(くまもと・ひろき)

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大防止による緊急事態宣言を受け、渋谷吉祥寺の都内2カ所と、京都にも映画館オープンさせる映画会社「アップリンク」は、オンライン映画館アップリンク・クラウドUPLINK Cloud)にて、配給作品60本以上が見放題となるサービス(3カ月2,980円)を開始した。

ここでは、配信作品から10本をセレクトし、前編と後編に分けて紹介する。今もなお外出自粛の状況が続く中、自宅をはじめとした環境での鑑賞の一助となるだけでなく、街の映画館を失わないための一支援として、過去の作品を観ることで生まれる映画の「(再)発見の場」となれば幸いだ。

アップリンク クラウド公式サイトはこちら

1. アカルイミライ(2003年)

監督:黒沢清

『第56回 カンヌ国際映画祭』(2003年)コンペティション部門に正式出品された、若き青年たちの今を描く黒沢清の作品。

デジタル画面がもたらす粒子のざらつきや、一向に晴れわたることのない空と川とのコントラストが際立つなか、東京の河川で増殖したアカクラゲの大群たちは、守(浅野忠信)が自死の前に遺した「行け」の合図を信じて海を目指す。

同潤会青山アパート(現在の表参道ヒルズ)の舗道をチェ・ゲバラのTシャツを着た少年たちがあてもなくさまよい歩くラストシーンは忘れがたいが、雄二(オダギリジョー)が夢で見た「明るい未来」が彼らに訪れたのか、その答えは17年後の今も分からないところではある。

しかし雄二いわく、いつかクラゲたちはこの東京に戻って来る。だからクラゲたちの帰還を信じて、いつになれどもその未来を待っていたい。こんな時代だからこそ、本作を数年ぶりに見直して強くそう思った。

2. ラッキー(2017年)

監督:ジョン・キャロル・リンチ

映画『パリ、テキサス』(1984年、ヴィム・ヴェンダース)での父親役が印象深い名優ハリー・ディーン・スタントン最後の出演作品。コーヒー、たばこ、ブラッディ・マリアを嗜好(しこう)する90歳の偏屈な独居老人ラッキー(ハリー・ディーン・スタントン)は、ある日自宅で倒れたことを契機に、迫り来る死への苛立ちと恐怖に苛まれていく。

しかし、太平洋戦争に従軍した元海兵が語る沖縄戦での少女の話、あるいはメキシコの友人家族に招かれた誕生日パーティーで披露する「ボルベール、ボルベール」の歌によって、生きることの意味を改めて見出すようになる。それは、自身を含めた目の前の存在が全て消え失せたとしても、ただこうして微笑むことこそが生きる意味をより豊かにするのだということだ。

だからこそラストシーンで見せるカメラ目線の微笑みは、スタントンが映画の中で体現した生の象徴であり、遺作となったこの映画とともにいつまでも生き続けることだろう。

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3. ラ・チャナ(2016年)

監督:ルツィヤ・ストイェビッチ

「ヒターナ(ジプシー)の女帝」こと、ラ・チャナ(アントニア・サンティアゴ・アマドア)の過去と現在を追ったドキュメンタリー。絶えず彼女の足元から繰り出されるフラメンコのリズムと響きには、同時に静寂のひとときが存在する。

これまで数々の大舞台に立ち、愛と情熱の舞によって観衆を夢中にしてきた一方で、「舞台の時間こそが唯一自由になれる場所だった」と語った際ににじみ出る、孤独や苦悩の時間なのかもしれない。人生に幾度となく立ち止まり、幾度となく立ち上がってきたチャナ。

動から静、そして静から動へ。そんな彼女の膨れた膝小僧には、たゆまざる静と動を生きた彼女の人生が十全に物語られている。

4. シーモアさんと、大人のための人生入門(2014年)

監督:イーサン・ホーク

俳優のイーサン・ホークによる長編3作目にして、初のドキュメンタリー作品。ピアニストとして活躍した後、現在はピアノ教師として数多の教え子や生徒を持つシーモア・バーンスタインは、ピアノやクラシック音楽そのものが持つ理論を自らがたどった経験や生き方そのものへと還元すべく、書かれた譜面の音符や言葉と向き合いながら、目の前の鍵盤を誠実に奏でていく。

だからこそ「スラーの2音目は弱くなければならない」、あるいは「解決することの素晴らしさを知るためには、不協和音が必要だ」などと語る彼の発言は、教えを請う生徒だけでなく、本作を観る私たちへの人生訓としても響いてくるだろう。

特にホークの劇団に招かれたシーモアがシューマン『幻想曲 作品17』の最終楽章を演奏する最後の場面は、彼の人生の機微を表象した開放的な調べとして、舞台となるスタインウェイ・ホールを優しく包み込んでくれるかのようだ。

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5. 顔たち、ところどころ(2017年)

監督:アニエス・ヴァルダ、JR

フランスの「ヌーヴェルヴァーグ」を代表する女性映画監督アニエス・ヴァルダと、ストリートアーティストであるJRが共同監督を務めたドキュメンタリー。

素朴な風景とともに暮らす人々(時に動物)の顔や身体を求め、ヴァルダとJRは大型写真機が搭載されたトラックに乗って、フランス各地の農村地帯を放浪する。

集った写真は引き伸ばされ、映ったものたち固有のさまざまな建物やオブジェへと貼られていくのだが、風景の一部=顔や身体となり得たとき、それらを見つめる者たちは想像力を働かせ、その光景から導かれし場所性を自ずと喚起するようになる。

そして「顔探し」の果てにたどり着いたジャン=リュック・ゴダールの自宅を訪れる場面。不在の窓に書かれた「ドアルヌネの人々へ」で始まる置き言葉に対し、涙を浮かべるヴァルダの表情が忘れられない。

想像力を働かせる身として、本作を観た後に問いたくなる。ヴァルダ亡き今、再会を拒んだ旧友ゴダールはいったいどんな表情を浮かべているのだろうかと。

6. ホドロフスキーの DUNE(2013年)

監督:フランク・パヴィッチ

アレハンドロ・ホドロフスキーによる幻の作品『DUNE』にまつわるドキュメンタリー。特筆すべきは、大手ハリウッド会社との製作交渉のために作成された1冊のブックレットだ。

原画、絵コンテ、漫画、脚本、衣裳などが事細かに所収された映画の「設計図」は、後に生まれる数々のハリウッド映画に影響を及ぼし、『DUNE』 に関わった H・R・ギーガー、クリス・フォス、ダン・オバノンといった職人たちの仕事は、『エイリアン』(1979年、リドリー・スコット)や『スター・ウォーズ』(1977年、ジョージ・ルーカス)の誕生へと引き継がれている。

その後、ホドロフスキーは映画製作から離れてしまうが、本作をきっかけにプロデューサーのミシェル・セドゥと35年ぶりの再会を果たし、2013年の復帰作『リアリティのダンス』(アップリンク・クラウドの本サ ービスにて視聴可能)へつながったという。また近日には『ホドロフスキーのサイコマジック』(2019年)の日本公開も控えており、飽くなき挑戦はこれからも続いていくことだろう。

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7. わたしはロランス(2012年)

監督:グザヴィエ・ドラン

『第65回カンヌ国際映画祭』(2012年)のある視点部門に正式出品されたグザヴィエ・ドランの作品。21世紀を目前に控えた1999年の夏、モン トリオールのカフェで編集者のインタビューを受ける小説家のロランス (メルヴィル・プポー)は、かつての恋人だったフレッド(スザンヌ・クレマン)との10年間を、自らの記憶と声を交えて回想する。

男性から女性としての人生を選択したロランスと、男性である彼を愛するがゆえに葛藤するフレッド。それぞれの幸せを求め、二人は別れを選ぶのだが、年月を経て環境を変えてもなお、抑えきれない感情を胸に二人は再会する。ただそれでも、口論の果てに何も告げることなく、フレッドの元を静かに去っていくロランスの姿は、見る者に深い爪痕を残すだろう。

LGBT を巡る題材はドランのほかの作品でも数多く見受けられ、そのことは次作『トム・アット・ザ・ファーム』(アップリンククラウドの本サービスで視聴可能)にも通底している。

8. ソウル・パワー(2008年)

監督:ジェフリー・レヴィ=ヒント

1973年にザイール共和国(現在のコンゴ民主共和国)で行われたモハメド・アリとジョージ・フォアマンによる『WBA・WBC 世界統一ヘビー級 タイトルマッチ』(通称「キンシャサの奇跡」)。本作はその対戦前に先駆けて行われた伝説の音楽祭『ザイール'74』に焦点を当てたドキュメンタリーだ。

ジェームズ・ブラウンや B・B キングをはじめとしたアフリカ系アメリカ人、また現地のミュージシャンたちが一堂に集結した、 言わば「もう一つの奇跡」とも言える。 キンシャサスタジアムを覆う絶え間なき熱狂とビートの応酬は、アフリカへのルーツに想いをはせる彼らの体を刺激し、歓喜のパフォーマンスとし て結実する。「思いのままに動き、そしてノリまくれ」と観客を鼓舞するブラウンの「ソウル・パワー」は、まさに内なる魂の声であり、共振すべき願いでもあるのだ。

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9. ヨーゼフ・ボイスは挑発する(2017年)

監督:アンドレス・ファイエル

1986年に亡くなったドイツの芸術家、ヨーゼフ・ボイスのさまざまな「顔」 に迫るドキュメンタリー。彫刻やインスタレーションを専門とする現代芸術家としてキャリアをスタートさせた彼は、デュッセルドルフの芸術アカデミーで彫刻を教える教育者として、さらには政治や環境問題の分野に声を上げる社会活動家として、自由な振る舞いと他者への挑発を武器に、1960年代から80年代までを駆け抜けていく。

芸術、教育、社会といった枠組みにとどまるのではなく、むしろ相互に巻き込み合うことで広がる、ボイスの映像と声の数々。なかでも彼が手放さなかった挑発という行為は、他者との対話を活性化させるための潤滑油であったと同時に、唯一無二に潜む孤独を推し進めるための闘いでもあったのだと、この映画は悲しくも美しく語りかけている。

10. 90日間・トテナム・パブ(1992年)

監督:浅井隆

1992年1月から3月にかけてフジテレビの深夜枠で放映された、全11回のテレビドラマ。ロンドン北部に位置するトッテナムを舞台に、貴族階級ながら庶民生活に憧れるカスバード(ジェラード・マカーサー)と、古びたパブの再建に奮闘する友人たちとの交流を描く。

仲間とのいさかいや客同士のけんか、地元の不良による強盗被害、さらには立ち退きを迫る不動産業者からの放火など、再建のための苦難が彼らを待ち受ける。しかし、カスバードのために必要だったパブの成功や存在が、やがて仲間たちにとっての成功や存在へと変わっていくことが印象深い。

なかでも、ドラマでデビューを果たした坂井真紀のたどたどしい英語や天真爛漫に振る舞うキャラクターを通じて、何とも形容しがたい癒しの源泉をそこに見出せる。

ライタープロフィール

隈元博樹(くまもと・ひろき)

1987年、福岡県生まれ。映画作家。映画雑誌『NOBODY編集部員。これまでに映画『Sugar Baby(2020年4月22日までvimeoにて公開)『夜明けとBLUE』『あの残像を求めて』などを監督。共著に『映画を撮った35の言葉たち』(フィルムアート社)、インタヴュー掲載に『躍動 横浜の若き表現者たち』(春風社)がある。

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