和氣正幸
和氣正幸(Photo :Keisuke Tanigawa)
和氣正幸(Photo :Keisuke Tanigawa)

インデペンデント書店の興隆期、自己表現として本屋を始める時代へ

インタビュー:ブックショップトラベラー、和氣正幸

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近年、人口減少や「雑誌離れ」などさまざまな影響で、紙出版物の売り上げは減少の一途をたどっている。文化通信によると、2020年度における全国の書店数は1万1024店。2000年の2万1654店から比較すると1万店以上減少したことになる。

しかし、その裏で、少人数や小規模で運営するような書店、いわゆる「独立系」と呼ばれる店の開業は増加傾向にある。新たなムーブメントであるインデペンデント書店が持つ魅力とは、またその背景にはどんな経緯があるのか。下北沢で本屋のアンテナショップ書店、ブックショップトラベラー(BOOKSHOP TRAVELLER)を運営している和氣正幸に話を聞いた。和氣は自身も本屋ライターとして独立書店に関する情報を収集、発信する傍ら、書店開業の支援活動なども積極的に行っている。

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意思を持つ本屋

ー昨今、よく耳にするようになった「独立系書店」とは何を指しているのでしょうか

なぜか日本の人は「系」という単語を付けたがるのですが、僕は「独立書店」と言っています。そもそも何からの独立なのかというと、永江朗さんが2000年代前半に、とある雑誌の中で一応の定義付けをしています。僕の意訳になるのですが、それは「既存の出版流通から独立している」ということ。つまり、大取次(主に日本出版販売、トーハンの2社の取次会社を指す)いずれかの口座を開き、そこから仕入れるという方法に頼らない本屋のことです。

ーいわゆる大取次と呼ばれる会社の口座を開くには、初めに何カ月分かの売り上げに相当する保証金を支払う必要があり、書店開業の大きなハードルの一つになっていた。また、何もしなくても自動的に本が入荷する「見計らい配本」「自動配本」などと呼ばれる仕組みがあり、大取次は売ってほしい数量とともに本を店舗に送付する。

しかし、それは十数年前のことで、現在は書店数が減少しているので大取次の条件も緩和してきています。なので、どちらかというと一人とか少人数といった規模で、自立している。自分の意思を持っている本屋だと僕は思っています。先ほどの話でいうと大取次からの配本に頼らず、自分の選んだ本を仕入れているという意味です。

純粋に自分がやりたくてやっているという部分で、「この本は置きたい」とか差別を助長するような「ヘイト本」が世の中では売れているとしても置かない、といった判断です。そういったインデペンデントな意思を持っているところが大事なのかなと思う。

それと同時に、本屋は商圏がそんなに広くないので、常連さんに対して「あの人が欲しいだろうな」という本を仕入れる役割は意識的に担っていると思います。

ー「インデペンデント書店」の魅力はどんなところにあると考えていますか

一つは空間づくりです。いわゆる大型書店とは違い、個人がやっている良さがあります。独立書店に行き慣れていない人は「こんなところもあるんだ」というような印象をまずもってくれると思います。また、あまり違いがないように見えてもディティールを見れば見るほど違う。深掘りができるというのが面白いところです。

次に、並んでいる本が店ごとに全然違います。いまだに、どこの本屋に行っても同じ本しかないというイメージを持っている人も多いんですが、そうではないということが独立書店に行くとよく分かります。

自己実現として書店を始める時代に

ーなぜ、ー人書店や少人数のインデペンデント書店が増えているのでしょうか

喫茶店などと似ていると思っています。自己実現、自己表現の一つとしてカフェをやりたいというのが今は普通に選択肢にありますよね。それに「カフェ巡り」のような需要もちゃんとある。本屋も今そうなりかけています。今まで、そうした考えを持つ人が少なかった訳では決してありません。10年ほど前までは本屋のなり方が分からなかったのです。

僕が「本屋入門」や「BOOKSHOP LOVER」という活動を始める理由でもあるのですが、当時は業界にツテがないとよく分かりませんでした。なので、本屋 B&Bを運営している内沼晋太郎さんや僕が情報をまとめて発信したり、講座を開いたりして情報の拡充をしました。そして、タイトル(title)の店主である辻山さんが、事業計画書などをつまびらかにし、本屋開業のノウハウを詰め込んだ『本屋、はじめました: 新刊書店Title開業の記録』という本を出版した2017年以降、独立書店の開業数が前年の2倍に膨れ上がったんです。

その後も内沼さんが「これからの本屋講座」をまとめた『これからの本屋読本』を出したりして、今では情報的な障害はほとんどなくなっています。本屋は格段に始めやすくなった。2018年、2019年も独立書店の開業数は僕の知る限りでは増加しています。

また、2011年の東日本大震災で考え方が変わって「自分でやりたいことがあるんだったら、やるぞ」という人が増えたということもあると思います。僕が取材していてもあれがきっかけだったという人は多いです。

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「ブックカルチャー」という概念

ーカフェ併設やビールが飲めるなど、本のある空間や本の周辺が好きな人に向けての店が増えていることについてどう思いますか

書店員は、本来とても専門的なスキルです。本を売って生きていくことにプライドを持っている人も多い。ですが、掛け合わせてやっている人が増えているのは、内沼晋太郎さんの影響が大きいと思います。内沼さんは自身もブックコーディネイターとしてずっと「本と人との接着点を作る」ということをやってきた。いろいろな場所で「本がある空間を作る」ということにこだわっていて、『本の逆襲(idea ink 10)』という書籍の中で「本を扱っている人を全て本屋とするならば」ということが書いてあります。広義の本屋という概念。これがすごく大きいような気がしていて、そこから導き出せることは、本的なカルチャー、「ブックカルチャー」が好きな人という概念が定着したということです。

本が好きな人たちが好きなもの。音楽や映画、本のある空間を含めて、本の雰囲気や読書の時間など「本を大事にする文化」が好き、みたいな概念です。僕もどちらかというとそちら側です。それを好きな人たちに対してビジネスにするのが、ある時期から増えた。営業時間が週に3日しかなくても本屋と言ってもいい。要は、真面目過ぎない店が増えてきたということなんだと思います。

残すものは紙の本じゃなくていい

「ブックカルチャー」とは何だろうと言ったときに、そこをなりわいにするさまざま人たちが残っていた方がいいはずなんです。だから、自分の好きなものを譲らない形で成り立っていればいい。

紙の本を残さなければいけないという結論ありきで進めてしまうと多分、いろいろと大変なことになってしまう。なぜなら、日本ではすでにその前提となる構造が揺らいでいるからです。だから、どれを残して、何がしたいのか、ということはきちんと考えていかないと。

文喫さんなどは書店員のスキルを残したいということで今の形態になっているそうです。「選書」という文化を残すために空間を売っている。僕の場合は「本的」なものが好きで、紙の本もわりと好き。あと、本で生きている人が好きなので今のやり方をしています。本屋を紹介する仕事をずっとしているので、本屋を紹介する本屋を開いている。そういうことじゃないかなという気がします。

ーやりたいことが多様化していく中で、それをやれるようになっているということでしょうか

そうですね。双子のライオン堂マルジナリア書店 by よはく舎など本屋が出版する、出版社が本屋を開くということもちょっとずつ増えてきています。その境界が曖昧になる中で実現できるツールがちゃんとある。なので必要なのは「あなたは何がしたいのか」と、あとは商売人としてどうやるかということです。

ー最後に、これから楽しみにしていることはありますか

2019年に、「不定休の棚貸し兼シェア型本屋」という形態のブックマンションさんができて、ものすごくメディアで取り上げられました。店主の中西さんは「まねしていい」と言っているので、これから棚貸しスタイルや無人古本屋みたいな形態はますます増えていくと思います。実際、僕の周りでは開業の話を頻繁に耳にします。独立書店はまだまだ増えるトレンドにあると思いますよ。

和氣正幸(わき・まさゆき)

本屋ライター。下北沢にある本屋のアンテナショップ、ブックショップトラベラー(BOOKSHOP TRAVELLER)の店主でもある。2010年よりサラリーマンを続ける傍ら、インデペンデントな本屋をレポートするブログ「本と私の世界」を開設。現在は独立して、「本屋をもっと楽しむポータルサイト BOOKSHOP LOVER」の運営を中心に、「本屋入門」などのイベントも開催。

2020年10月からはNHK Eテレ『趣味どきっ!(火曜)こんな一冊に出会いたい 本の道しるべ』に本屋案内人として全8回を通して出演した。著書に『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(G.B.)、『日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)、『続 日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)がある。

2021年3月に個人経営の小さくても魅力的な街の本屋、ブックカフェ、ライブラリーを検索できるサイト、リブレス(LIBRIS)をリリースした。随時店舗を増やしていく予定で、掲載店舗も募集中だ。

もっと書店について知りたいなら

  • コーヒーショップ・喫茶店

温かいコーヒーを片手に、お気に入りのと向き合う時間ほど、心安らぐものはない。慌ただしく時間が過ぎていく東京だからこそ、ときには静かに本の世界に没頭できる、ブックカフェに出かけてみよう。

どの店も、本のセレクトから、メニューの質、空間のあり方まで、それぞれに工夫が凝らされている。客の居心地を考えた店づくりがなされ、帰りたくなくなるほどの居心地の良さだ。タイムアウト編集部がセレクトした25軒から、お気に入りを見つけてほしい。

  • Things to do
  • シティライフ

江古田は、日本大学芸術学部などの芸術系の大学が集まり、味わいのある学生街が形成されている。そんな街に、あらゆる表現と出合える独立書店、百年の二度寝が2021年3月15日にオープンした。場所はセレクト雑貨店、オイルライフの奥を間借りしている。

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  • ショッピング
  • スタイル&ショッピング

愛用書を売ったり陳列したりするのが古書店だが、自分でコーナー化してキャッチフレーズまで付けることができる書店は日本でもこの店だけだろう。

2020年6月19日、イシュープラスデザイン(issue+design)が手がけるこの型破りな古書店、ブックショップ(BOOK SHOP)無用之用は、神保町すずらん通りの中ほどにあるビルの3階でひっそりと産声を上げた。

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  • トラベル
  • トラベル

2020年10月中旬、ニューヨークの書店の前に山積みのダンボール箱が置かれた。まるでAmazonプライムデーで散財した人の家の玄関を見ているようだ。ショーウインドーには紙が貼られ、「独立系書店をフィクションにしてはいけない」「月を植民地化したい人ではなく、本を売りたい人から本を買おう」「本のキュレーションは、不気味なアルゴリズムではなく、実際の人がするべきだ」などの力強いステートメントが書かれている。ディスプレーされているのは、「地元の書店を殺すために」「かよわい女性の書店、巨大倉庫店に排除される」と題されたカバーが付いた本だ。

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