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愛用書を売ったり陳列したりするのが古書店だが、自分でコーナー化してキャッチフレーズまで付けることができる書店は日本でもこの店だけだろう。
2020年6月19日、イシュープラスデザイン(issue+design)が手がけるこの型破りな古書店、ブックショップ(BOOK SHOP)無用之用は、神保町すずらん通りの中ほどにあるビルの3階でひっそりと産声を上げた。
ひときわ独特なのはその選書の切り取り方だ。まるで雑誌のようにフックのきいたキーワード「ゲノム編集でゴジラは作れるか」「本屋と本の間にあるもの」「クラシカルデザイン」などで切り取られた棚の中は小説、ハウツー、デザイン、専門書が入り乱れ、ジャンルレスにて並ぶ。
これらの棚を作っているのは店主だけではなく、客や知人がほとんど選書し、キーワードを付けているというからさらに驚く。同店にある全ての棚はこうしたキーワードに以前興味を持ち、深掘りしていった先人たちの本棚なのだ。
この新しい参加型古書店はどのような思いで作ったのか、またどんな楽しみ方ができるのか。店主、片山淳之介に話を聞いた。
本屋というより本を介した意識と興味の交差点にしたかった
片山は以前は神保町でりんごの専門店を営んでおり、この街の人々と日々交流する中で興味の方向に対して深い知識と情熱を有した人が多いことに気付いたという。また、そうした人に不意に出会い、話すひとときは新たな発見と興奮に満ちていた。イシュープラスデザインと一緒に店を出そうと決めた時、片山の頭をよぎったのはそうした時間と場所を、本とキーワードを介して作ることだった。
他人の選書で首を傾げる面白さ
つながりのある人などランダムに選書とキーワード作成を依頼して作り上げたというユニークなキュレーションは、ニッチな専門性に特化しただけではない。「もう少し器用に生きたいんですけどね」や「人間観察の先にあるもの」など、その人特有の見方や切り取り方をしているものも多い。受け手の解釈に委ねてあえて説明せず、一見するとテーマと関係ないような本も並んでいる。「そうした捉え方の余地もまた一つの発見」だと片山は語る。
本を眺めているうちにキーワードを忘れてしまう人や、この本はこっちのキーワードの方が合っていると言う人もいるそうだ。そうした思考と興味が一本道ではなく交差してしまうのも、同店の面白さだろう。
熱意があれば誰でも選書できる
同店の大きな特徴の一つに、自分も選書して棚を作るチャンスがある。その場で話が合えば「じゃあ作ってみてください」と進んでしまうのは片山の人となりが成せることだろう。すでに大量の希望が舞い込んでいるそうだが、バーカウンターに腰掛けコーヒーやビールを飲みながら作りたい棚について話せば、それだけで本屋であることを忘れてしまう有意義な時間になることだろう。
「敏腕商社マンが選んだ本棚の隣に、小学生が今ハマっているものが並んでいるくらいにしたい」と片山。月に10キーワードずつ増やしていき、その振れ幅も広く乱雑にしていく予定だという。1棚を3カ月借りて回してみたいという猛者もいるそうだ。我こそはという人はぜひ店に足を運んでみてほしい。
今後は、今の3倍に棚を増やしていくそう。一体どんなキーワードと選書が飛び出してくるのか、定期的に行って楽しみたい一軒だ。
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