アジュラ
Photo: Kisa Toyoshima
Photo: Kisa Toyoshima

若き台湾人バリスタたちの憧れ・リウェイによる幻想的な2号店が新宿にオープン

独自の漆黒ラテ、あめ細工プリンなどを生み出してきた夫妻による新たな夢の踊り場

寄稿:: Kumiko Nakakuki
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2022年12月、台湾で買いつけた置物や飾りを配し、香の匂いや台湾の音楽などで幻想的な空間に仕上げた自家焙煎(ばいせん)コーヒーショップ「アジュラ(ajura 、翹璹欏)」が新宿御苑近くにオープンした。店を手がけているのは、高田馬場で人気のコーヒーショップを営む台湾出身のリウェイ(李維軒、29歳)と、妻で日本人のハルコ(29歳)の2人だ。

リウェイは、ラテアート技術を競うバリスタの選手権大会で多数の受賞歴を持ち、2022年には世界大会「フリーポアー・ラテアート・グランプリ2022」で優勝を果たした。妻のハルコも、2022年に台湾で開かれたラテアートの大会で準優勝に輝いている。

東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ「International Tokyo」。第9回は、台湾人であるリウェイと妻のハルコに、台湾から日本に移り住んだ経緯や、1号店が人気店となるまでの裏側、将来の展望について話を聞いた。

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「バリスタを一生の仕事にする」と決意、24歳の時に来日

日本ではスペシャルティコーヒーなど品質の高いコーヒーの需要が徐々に広がってきているが、台湾のコーヒー事情はどうなっているのだろうか。「日本では最近出てきましたが、私が台湾にいた8年前にはすでにチェーン店でもエチオピアなどのシングルオリジンを取り扱っていて、価格が高くても売れていました。一般の人でもコーヒーの知識が豊富で、注文時にコーヒーについて説明を求めるお客さんが多かったです」とリウェイは言う。

それに対してハルコも、「日本でコーヒーを提供していても、豆の種類や味、焙煎度合いなどをあまり気にされない人が多いですが、台湾ではお客さんの見る目が厳しい。また台湾は、バリスタ個人のスキルやパフォーマンスも高い印象です」と話す。

リウェイがコーヒーと出合ったのは、台湾で大学に通っていた頃、何気なくアルバイト先として選んだ台湾発の大手コーヒーチェーン「ルイサコーヒー(LOUISA COFFEE、路易莎咖啡)」だ。当時は特にコーヒーが好きだったわけではなかったが、そこで初めてラテアートを知り、コーヒーの世界に深く引き込まれていったという。

大学卒業後もコーヒー店で働きながらラテアート技術を磨いていたが、コーヒー店が林立する台湾ではバリスタの収入に限界があり、生計を立てるのは難しいと判断し、来日を決意。24歳の時だった。もともとリウェイの父親は大学時代に日本へ留学経験があり、母親も台湾で日本語講師をしていたことから、日本には旅行で何度も訪れていたという。「日本食はおいしいし、空気もきれい」と、日本に対して好印象を抱いていた。

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来日後は語学学校に通いながら、アジア人初のラテアート世界チャンピオンである澤田洋史がプロデュースしたコーヒーショップ「ストリーマーコーヒーカンパニー(STREAMER COFFEE COMPANY)」で働くことに。しかし日本語が分からず、客に対してうまく説明ができない、同僚が話す言葉もうまく聞き取れない……そんな毎日が長く続き辛かったという。そこで精神的な支えになったのが、先輩スタッフのハルコだった。

「リウェイよりも私の方が先にお店にいたんですが、当時職場にいたメンバーの誰よりもコーヒーの知識があったし、ラテアートも一番上手だった。彼は教え方も丁寧だったので、みんな彼に教えてもらってどんどん上達していき、大会で予選を通過する人が増えました」。人一倍努力家な性格と持ち前の人当たりの良さで、少しずつ周囲の信頼を得ていった。

2カ月間試作を重ねた独創性あるプリンが大ヒット

2020年12月、2人が26歳の時、語学学校があり土地勘のあった高田馬場に、1号店「リウェイコーヒースタンド(LIWEI COFFEE STAND)」をオープンする。コロナ禍でも人通りが多かったことや、近くにコーヒーショップが少なかったことも決め手だった。リウェイいわく、同店が日本初の台湾人オーナーによるコーヒーショップだそうだ。

しかしコロナ禍での出店ということもあり、オープンしてから2、3カ月は店を開けてもほとんど客が来ず、不安な日々が続いた。

そこで2人が「誰も見たことない商品を作ろう」と考え生み出したのが、その後大ヒット商品となるプリンだった。色鮮やかな有田焼の器に乗せ、黒烏龍茶で風味づけしたカラメルを注ぎ、仕上げにあめ細工を飾った独創的なプリンは、瞬く間にSNSやメディアで取り上げられた。オープンして2年以上たった今も、ここでしか味わえないプリンを求めて連日多くの客が訪れている。

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世界中のどこにもない、唯一無二の店を目指す

2号店である「アジュラ」の内装は、「台湾の伝統的な神社や寺」をコンセプトにしている。内装デザインを担当するハルコが魅了された、台北の三大寺院の一つである「大龍峒保安宮」や「行天宮」にインスパイアされたという。台湾製の情趣に富む雑貨のほかに、ハルコが収集している有田焼の皿などが空間に彩りを添える。台湾と日本のカルチャーが絶妙なバランスで交錯し、融合する空間だ。

アジュラという店名には、あえて意味を持たない言葉を選んだ。音の響きに引かれた言葉に、漢字を当てて作った造語である。どこにも存在せず、他店からまねされにくい言葉にしたかったのだ。良いものはトレンドや模倣という形でどんどん広がっていく飲食業界の中で、唯一無二の存在を作り出すことを2人は常に意識している。

オープン当初は、2号店を焙煎とテイクアウト専門の店にする計画だったが、客からの要望で店内にイートインできる席を20席ほど用意した。アジュラには連日、海外からの観光客やふらりと立ち寄る近所の人、SNSを見た人など、さまざまな層の客が訪れている。

ラテアートが際立つ漆黒の「ブラックラテ」

両店ともに一番人気の商品は、竹墨パウダーを入れ茶筅(ちゃせん)で点てたエスプレッソにミルクを注いで作る「ブラックラテ」だ。ここ数年で東京でもブラックラテを提供する店が徐々に増えてきたが、同店がその先駆けといえるだろう。

「ブラックラテはもともと台湾で人気でした。日本には『チャコールラテ』と呼ばれるグレーのラテはありましたが、ブラックラテはなかった。エスプレッソの量が多過ぎるなど割合がうまくいかないとグレーになりやすい。エスプレッソと竹墨の配分を微調整しながら、味も見た目もよくなるようレシピを考えました」(リウェイ)。

リウェイの入れるブラックラテからは芳醇(ほうじゅん)なコーヒーの香りが立ち上る。ミルク感がしっかりしていて飲みやすいが、コーヒーのコクと甘みが堪能できる一杯だ。見た目だけが良いと一度来店しただけで満足してしまうが、味わいも良いため繰り返し訪れるリピーターが多いのだろう。

また、同店では焙煎段階から色の濃さと味わいの良さを重視し、ラテアートがきれいに見えるよう、色は濃いけど味は飲みやすいようマイルドに仕上げているという。

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有田焼の器で提供されるハンドドリップコーヒーにも注目したい。アジュラの店内奥に設置されたアメリカ・サンフランシスカン製の焙煎機でローストした3種類のシングルオリジンと、オリジナルブレンドの全4種類から好きな豆を選ぶことができる。

2人が現地の農園まで足を運んだという、日本では希少な台湾の阿里山(アーリーシャン)産のコーヒー豆もあるので、ぜひ試してみてほしい。

スイーツとともに楽しむなら、銀粉をあしらったバスクチーズケーキもおすすめだ。「日本でバスクチーズケーキを食べた時は、焦げが苦いしサイズも小さくあまりいい印象がなかったんですが、去年の夏に台湾へ行った時に食べたのがすごく滑らかで、ボリューミーで感動してしまって」とハルコ。

それを機に自分たちの店でも出すことを決め、何度も試作を重ねた。アジュラのバスクチーズケーキは濃厚な味わいと滑らかな食感が魅力で、コーヒーとの相性もいい。

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SNSを通じて日本での活躍が台湾にも広がる

東京での店の成功や選手権大会での活躍は、InstagramなどのSNSを通じて台湾でも認知されているようだ。最近では台湾のコーヒーショップからゲストバリスタとして呼ばれたり、ポップアップイベントの依頼を受けるなど、仕事の幅も広がってきた。

台湾の若いバリスタたちの中には、東京で活躍するリウェイに憧れを抱く人も多いという。彼の人気ぶりにハルコは、「リウェイが青い髪にしていた時があったのですが、台湾の大会に出た時にほかのバリスタがみんな青い髪にしていて。とてもびっくりしました」と笑顔で語る。

台湾でイベントを開く際にリウェイコーヒースタンドのオリジナルグッズを販売すると、あっという間に完売してしまうほどなのだとか。

台湾での3号店を皮切りに世界的な展開を目指す

今後の展開について2人は、「2号店が落ち着いたら、次は台湾に3号店を出したいと思っています。そこは日本食をメインにしたお店で、お昼はカフェ、夜は居酒屋。着物を制服にして有田焼などの器を使おうと思っています。台湾の人は日本の歴史あるものにすごく興味を持ってくれるので、絶対喜んでくれると思います」。

また3号店以降の計画としては、リウェイコーヒースタンドのブランドで世界的にフランチャイズ展開をする構想もある。「タイでは現在コーヒースタンドが流行しており、香港でもお店を出したいと言っている友人もいます。まずはアジア圏から始め、将来的には世界で店舗を展開していきたいです」と語る。

夢を際限なく自由に膨らませるのが得意な妻と、その夢を肯定し計画を立て着実に歩みを進めていく夫。今後もこの台日カップルの快進撃に注目だ。

  • カフェ・喫茶店
  • 新宿二丁目

台湾出身のリウェイと妻のハルコが運営する、高田馬場の人気コーヒーショップ「リウェイコーヒースタンド」の2号店。内装は台湾の伝統的な神社や寺をコンセプトに、台湾製の情趣に富む雑貨や飾りを配し、香の匂いが漂う幻想的な空間だ。

一番人気のメニューは1号店同様、竹墨パウダーを入れ茶筅(ちゃせん)で点てたエスプレッソにミルクを注いで作る「ブラックラテ」。ここ数年で東京でもブラックラテを提供する店が徐々に増えてきたが、同店がその先駆けといえるだろう。同店では、焙煎(ばいせん)段階から色の濃さや味の良し悪しを判断している。

有田焼の器で提供されるハンドドリップコーヒーにも注目したい。店内奥に設置されたアメリカ・サンフランシスカン製の焙煎機でローストした3種類のシングルオリジンと、オリジナルブレンドの全4種類から好きな豆を選ぶことができる。二人が現地の農園まで足を運んだという、日本では希少な台湾の阿里山(アーリーシャン)産のコーヒー豆もあるので、ぜひ試してみてほしい。スイーツとともに楽しむなら、銀粉をあしらったバスクチーズケーキもおすすめだ。

もっと東京で活躍する外国人のストーリーを知りたいなら……

2022年8月8日、御徒町に、スタイリッシュなシューマイ店「一笹焼売」がオープンした。白を基調にした明るい店内で、中国・内モンゴル自治区呼和浩特(フフホト)の伝統的な味わいを再現した羊肉シューマイを提供している。ほかにも羊肉麺や羊スペアリブの塩ゆで、塩気がきいたモンゴル式ミルクティーなど、内モンゴルの郷土料理が楽しめる。

実はこの店、中国出身の若い女性オーナーが2人で共同経営を行っている。東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ「International Tokyo」。第7回は、一笹焼売を経営するニキ(Niki)とキョーキョー(Kyokyo)に、日本で内モンゴルのシューマイ専門店を開いた理由を聞いた。

吉祥寺駅北口から徒歩5分。2022年4月28日にオープンしたウクライナの家庭料理店、「バブーシャレイ(Babusya REY)」がある。利用客の投稿したSNSが話題となり、1日100人以上の客が狭い階段に列を作る。

8席ほどの小さなバーを間借りして土・日曜・祝日の昼間のみ営業。「ボルシチ」やマッシュルームとジャガイモを包んだウクライナ風餃子「ヴァレーキニ」、キーウ発祥のウクライナ風チキンカツレツなどを提供している。

プロボクサーとして活躍する小笠原裕典(以下、小笠原)とウクライナ出身の妻、ビクトリヤ、その姉のエウゲニア、夫のアントンの4人で切り盛りする。エウゲニア夫妻はウクライナから3月末、ビクトリヤを頼って息子と両親と避難してきたばかり。狭いカウンターの中では日本語、英語、ロシア語が飛び交う。

東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ「International Tokyo」。第6回は、「バブーシャレイ」の小笠原夫妻に、同店の魅力とオープンに込められた思いを語ってもらった。

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  • Things to do

東京都生活文化局の調べによると、東京都内で生活する外国人は184カ国と地域の約54万6000人(2021年1月1日時点)を数える。10年前から比較すると、その数は12万人以上増加した。

街に出ればさまざまな国旗が掲げられたレストランやショップを目にするだろう。そんな多文化都市としての横顔にスポットを当てるべく、東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ『International Tokyo』を企画。実際に東京で生活する外国人がどんな思いで暮らし、人や街とどんな風に関係しているのかを聞いていく。

第1回は、パキスタン出身で2012年に日本国籍を取得した味庵・ラムザン・シディークに話を聞いた。味庵は、パキスタン料理店のシディークやアジアン食材店のナショナルマートなどを経営する和新トレーディングの取締役を務め、東京にハラルやパキスタン文化を浸透させている立役者だ。

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