Tokyo Beats & Brews
Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

100年後のジャズエイジ―第3回Tokyo Beats & Brewsレポート

トランぺッター・佐瀬悠輔がゲスト参加、演奏後のショートインタビューも紹介

テキスト:: Naoya Koike
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「ジャズエイジ」と呼ばれた狂騒の1920年代は禁酒法から始まったともいえる。飲酒自体は禁止されていなかったので、どうにか手に入れた質の低い酒を片手に人々は最も大衆的だった「スウィング・ジャズ」で踊ったのである。

それから100年を経てジャズは、普遍的ともいえる音楽性やフォーマットでロック、ヒップホップといった時代の音楽を取り込みながら世界中で広がっていった。

我が国も例外ではない。戦前からプレイヤーが切磋琢磨(せっさたくま)を重ね、戦後10年もすればモダンジャズの分析と国産が始まった。その結果、現在に至るまで数々の名演と名盤が生まれ、多くのジャズフェスティバルが開催され、国外でも類を見ない日本発祥のジャズ喫茶文化を持つに至っている。

そんな東京における現在進行形のジャズと酒にスポットを当てたイベント「Tokyo Beats & Brews」が2024年5月16日、恵比寿「タイムアウトカフェ&ダイナー」で開催された。回を重ねるごとに人気を集める本企画は3回目を迎え、いよいよ立ち見を含む満員の盛況である。

レジデントミュージシャンはドラムスの秋元修、そしてベースのYuki Atori。菊地成孔の最終バンド・ラディカルな意志のスタイルズにも参加するなど、東京の現代ジャズのクリエーティブな雰囲気を体現する2人だ。

さらに今回は石若駿のプロジェクトであるAnswer To Rememberに参加し、KID FRESINOやMISIA、STUTS、LOUIS COLEのサポートを務めるなど引く手あまたのトランぺッター・佐瀬悠輔がゲスト参加した。

今夜限りの音楽と酒、オーディエンスによるインタラクションを東京で楽しむ。そのムードは「100年後のジャズエイジ」や「セカンド・ジャズエイジ」といった何だかサイバーパンクじみた言葉を容易に連想させてくれた。

名手3人によるジャズスタンダードの現代的解釈

ライブの初手は秋元から。彼がビートを出し始め、Atoriが「Donna Lee」のテーマを重ねる。そこからフリースタイルへ。この曲をベースで弾くといえばジャコ・パストリアス(Jaco Pastorius)の名演が有名だが、Atoriのソロはアグレッシブ&スキルフルでロックな印象を受ける。

そこにゲストの佐瀬がカットイン。朗々とした8分音符のラインを豊かなトーンで響かせ始めると、ソロを終えたYukiが固く底を支え、秋元はビートの中に自由を探す。最後はベースとトランペットがテーマをユニゾンして締めた。

「テーマ、それぞれのフリースタイル、再びテーマ」という流れは100年を経ても変わらないマナー。ジャズの自由さの裏には保守される「お約束」もあるのだ。

この日演奏されたのは、ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)の「Foot Prints」、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)「Butterfly」「Tell Me A Bedtime Story」、セロニアス・モンク(Thelonious Monk)「Blue Monk」「I mean you」、ジョー・ヘンダーソン(Joe Henderson)「Inner urge」といった40~60年代までのジャズスタンダードばかり。ジャズをこれから聴きたい人は、演奏された曲を手がかりに掘り下げるといい。

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一方で、ロバート・グラスパー(Robert Glasper)やテラス・マーティン(Terrace Martin)らによるバンド・R+R=NOWの「Resting Warrior」といった現代の曲も披露した。展開が少なくジャム向きな曲だ。

ただ8分の8+8分の7拍子というリズムで、少しオーディエンスにはチャレンジングだったかもしれない。また前述の「Tell Me A Bedtime Story」でも、5拍子のパートを4拍子に変換して戻すなどのテクニカルなギミックがあった。

よくある言説に「ジャズは難しい」というものがある。確かにプレイヤーたちのスリリングな演奏のキャッチアップも時には必要だ。しかし、ひとたび音楽の魔法がさく裂すれば、ちょっとした難解さなど軽々と吹き飛ばすだろう。

何もかもが同期され管理された現代において、クリエーティブな瞬間をリアルタイムで体感できる点が、ジャズの今日的な魅力なのだから。

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ジャズと日本酒のマリアージュ

そして今回の「Tokyo Beats & Brews」では、1903年創業の酒蔵・文本酒造とコラボレーション。大吟醸「SHIMANTO」と純米大吟醸「霧の里」、清酒「HANAYAGI」から成る利き酒セットをはじめ、セカンドブランドの「KIRAMEKI」を使用したハイボール、大吟醸「SHIMANTO」を同じ原材料である米こうじから作った甘酒で割った、甘酒ロックドリンクが準備された。

酒用ではなく、飯米である「仁井田米」を使ったユニークな味わいと演奏のペアリングは完璧だ。

また、DJを務めたJIMAによる、年代をクロスオーバーしたジャズの選曲も素晴らしかった。

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「ジャズと日本酒」、まさに日本における「100年後のジャズエイジ」をほうふつとさせるようなイベントだった。立ち見を含めた観客からの盛大な拍手と声援が飛び交う、あの熱い空間を早く再体験したい。すでにそんな気持ちに駆られている。

次回開催は8月8日(木)。どんな場が生まれるのか、楽しみに待ちたい。
チケット購入はこちらから。

演奏後のショートインタビュー

本日の演奏はいかがでした?

Atori:1stセットの様子を見て、2ndセットの曲やソロの構成も調整しました。あとは曲調もバランスを見て選曲しましたね。ほかには、ラッパが映える曲を多くしたい、と思って当日決めた曲が8割です。

秋元:将棋の考え方で、相手にとって重要な対局である時ほど、全力で負かすという「米長哲学」があります。そういう感じで演奏しました。お客さんに寄せるのは逆に失礼になると思っているので(笑)。

佐瀬:セッションのライブも意外と最近なかったので、新鮮でした。ふたりの演奏も刺激的で超楽しかったですね。個人的には修ちゃん(秋元)と4バース(4小節で交互にソロを取ること)を初めてできてよかったです。

その4バースでは「合うかな......?」とヒヤっとする瞬間もありましたね。

秋元:それが醍醐味(だいごみ)ですからね。きれいに演奏する必要はないんですよ。それはキース・ジャレット(Keith Jarrett)が証明済みです(笑)。

佐瀬さんはエフェクターとミュート、ノーマルと音色を使い分けているのも印象的でした。

佐瀬:音色一つだとサウンドが飽和してしまうので、そういう意味でもエフェクターがいい仕事をしてくれました。

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今後の「Tokyo Beats & Brews」はどんな演奏にしていきます?

Atori:前回は菊地成孔さんが飛び入りしてくれて、今回は佐瀬さんですから、次回も誰かが別の空気を入れてくれた方がお客さんも楽しんでくれるのかなと。ジャズとは関係のないラッパーやダンサーを客演に呼んでも楽しいのではと思っています。

秋元:セッションイベントではありませんが、交流の場になればいいかなと。「演奏できるか分からないけど、楽器持っていこう」みたいなカジュアルな企画にできたらと、個人的にはイメージしていますよ。

Tokyo Beats & Brewsとは

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Tokyo Beats & Brews」では一つのイベントという枠を超え、東京のジャズ・音楽・バーカルチャーを色濃く感じられるヴェニューを紹介している。ぜひチェックしてほしい。

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