ニシンやムール貝、牡蠣などの新鮮なシーフードに加え、酪農が生み出すチーズなど、豊かな食材に恵まれたオランダ。コロッケやワッフルなど、日本でもすっかりおなじみの料理も多い。
17世紀に海運業が発展し、国際的な商業都市として栄えたアムステルダムでは、さまざまな食文化が交わり、独自の調和を生み出した。その柔軟性は日本でも発揮され、伝統を守りながらも、日本の素材や発想を取り入れ進化を遂げている。
タイムアウト東京 > Things To Do >アップデートするオランダ10選
テキスト:Noriko Maniwa
オランダと聞いて思いつくのは、チーズ、風車にチューリップ。そんな風景が目に浮かぶが、現代のオランダはモダンにアップデートされている。
クラブカルチャーやデジタルアートの施設も人気。多様性を尊重し、さまざまな人々や環境に配慮したサービスが充実しているのも特徴だ。国際都市オランダは今もすべての人々に開かれているのだ。
2025年に日蘭交流425周年を迎えた今だからこそ、実際に訪れてみたい旬の情報をリストアップした。
関連記事
『オランダについてあなたが知らなかった50のこと』
海抜が低く、土地のほとんどが平坦なオランダは自転車移動に適した地形。サイクリング目的の旅も人気だ。
なかでも首都アムステルダムの中心部から北へ自転車で約1時間、ザーンセ・スカンスへは、オランダならでの絶景が見られるルートと人気。西ヨーロッパで最初の工業地帯だったザーン地方は風が強く、産業革命の最盛期には600基もの風車が並び、今もその名残が。風車を見ながら疾走できるのだ。
ザントフォールトを囲む海岸砂丘へのサイクリングも楽しい。アムステルダムから電車ですぐの距離なので、レンタサイクルを借りて向かうのもいいだろう。高い砂丘を走る鹿や鳥を眺めたり、馬に乗って砂丘を駆け回ったり、豊かな自然を満喫しよう。
ワッデン諸島で楽しむサイクリングもスペシャルだ。5つの島同士は近く、自転車で渡れる橋があるので、アイランドホッピングも選択肢にある。中でも最も小さなフリーラント島では車の乗り入れが禁止されていて、サイクリングには最高の環境だ。
自転車大国オランダは自転車専用レーンがあるなど、安全面でも考慮されている。この機会にサイクルカルチャーの最先端に触れてみよう。
毎年4月27日に開催される「Koningsdag(キングス デイ)」は、現オランダ王国のウィレム=アレクサンダー(Willem-Alexander)国王の誕生日を祝う祝日。パレードや音楽祭が催され、オランダ王国のナショナルイメージカラーである鮮やかなオレンジ色に着飾った人々で、街はオレンジ一色になる。
誰でも非課税で自由に出店できる日なので、国中がフリーマーケット会場に。子どもたちがアイデアを凝らして作ったかわいい屋台を巡るのも楽しい。ローカルに混ざって「Orangegekt(オレンジの狂気)」の渦に吞まれよう。
毎年、オランダの各地域で開催される花のパレード「bloemencorso(ブルーメンコルソ)」も見逃せない。中世から続くイベントで、テーマに合わせて花で装飾された山車や車、船が街を練り歩く。2021年、ユネスコの人類無形文化遺産の国際代表リストに登録された。
このようにオランダでは各地で街全体がイベント会場になるようなパレードやイベントが開催されている。ぜひとも日程をチェックして、ともに盛り上がりたい。
海や川に囲まれたオランダは海の幸にも恵まれている。多くの魚、貝、甲殻類が捕れ、養殖にも成功しているオランダ南西部のゼーラントはカキの潮干狩りを楽しめるエリアだ。
海岸線が長く、北海と東スヘルデ川にはたくさんのビーチがあり、カキが自由に捕れる。東スヘルデ国立公園内でもカキやムール貝をひとり10キロまで、個人で消費するための採集は許されている。バケツやマイナスドライバー、トンカチなどを持参して、潮干狩りに励む人も。大自然の中でカキ食べ放題という夢の体験を実現しよう。
フーディなら訪れるべきもう一つのスポットは、ロッテルダムにあるオランダ最大の屋内フードマーケット「マルクトハル(Markthal)」だ。ロッテルダムを拠点に世界で活躍する建築家集団MVRDVによって設計されたマルクトハルは街のランドマーク的な建物であり、実際に人が住む集合住宅となっている。
マーケットには生鮮食品店が100店舗、食料品店が1店舗、そしてレストランも8店舗入っているという充実ぶりだ。アーティスティックな建築と美食を同時に楽しめる稀有な体験となるだろう。
オランダはフォトジェニックな風景であふれている。オランダ国内には多くの公園が点在し、春になるとカラフルな花で彩られる。首都アムステルダム近郊の小さな町リッセにある「キューケンホフ公園(Keukenhof)」は撮影旅行に最適だ。
世界最大の球根花のフラワーパークで、約32ヘクタールの広大な園内には、チューリップを中心に、スイセン、ヒヤシンスなどが咲き乱れる。毎年、異なるテーマで造園され、その風景はその年だけのもの。毎シーズン訪れるリピーターも多い。
マルクトハルを設計したMVRDVの建築物が多いロッテルダムも「撮りどころ」が多い街。なかでも2020年に建てられた「デポ ボイマンス ヴァン ベーニンゲン(Depot Boijmans Van Beuningen)」は必見だ。
ファサード全体がミラーに包まれたアーティスティックな建物で、周囲の環境を反射し、景色を取り込んだ不思議な写真が撮影できる。絵画の修復を建物内で行っており、どのように芸術作品の修復および保続しているのかを、美術館の舞台裏をのぞくような感覚で学べる。
スイーツだってフォトジェニックだ。今、オランダではインスタ映えする「デコ」ストロープワッフルが流行していて、街並みをバックに撮影するのがお約束。ストロープワッフルは、シロップを挟んで焼いたオランダの伝統菓子だが、それにマシュマロやナッツ、カラフルなチョコなどで飾った進化系のデコワッフルは「ファン ワンデレン ストロープワッフルズ(van Wonderen Stroopwafels)」などのカフェで購入できる。キュートなワッフル片手に街に繰り出そう。
美術館や科学技術関連の博物館の充実ぶりを知ると、オランダの国民性が見えてくる。オランダの人々にとって、アートやサイエンスは知的な遊びだ。
古くは世界最古であり、最大のプラネタリウム「王立エイセ エイシンガ プラネタリウム(Eise Eisinga Planetarium)」がその例だ。世界遺産に登録されたこの施設は、18世紀の啓蒙主義時代に、アマチュアの天文学者エイセ・エイシンガ(Eise Eisinga)が設立した。
天井にある太陽系の模型を、歯車によって惑星の回転を示した画期的な展示。これが江戸時代にあったのだから驚きだ。難解な謎を分かりやすく解説しようという機知に富んでいる。
アムステルダムには「アムステルダム国立美術館(Rijksmuseum Amsterdam)」や「ゴッホ美術館(Van Gogh Museum)」、「モコミュージアム(Moco Museum)」などが集中していて、効率良く美術館巡りができる。中心のミュージアム広場(Museumplein)は休憩するにもちょうど良く、アートホッピングも楽しめるだろう。
シャープな建物がそびえる大都市・ロッテルダムはモダンアートの見どころが多い街。「リマスター(REMASTERED)」のデジタルアートも必見だ。
ゴッホやレンブラントの名画の世界に没入でき、ピート・モンドリアン(Piet Mondrian)の「ヴィクトリー・ブギウギ」で踊りまくるなど、アートと遊べる空間。オランダを訪れれば、アートやサイエンスが身近に感じ、学ぶことの楽しさを再発見できるかもしれない。
オランダには、1606年に完成したオランダ東インド会社(VOC)のアムステルダム本社や、1516年に建設され1606年に上部が拡張された「モンテルバーンス塔(Montelbaanstoren)」などの歴史的建造物がある。さらに、ロッテルダムを拠点とする建築家集団MVRDVの斬新な集合住宅など、作品と呼ぶべき建築も数多く存在する。
なかでも一生に一度は見るべき名作住宅として知られているのが、ユトレヒトに建つ「シュレーダー邸(Rietveld Schröderhuis)」だ。これは1924年に家具デザイナーでもある女性建築家、ゲリット・リートフェルト(Gerrit Thomas Rietveld)が設計したモダンな建築で、「色と形を極限まで単純化し、モノの本質を表す」というDe Stijl(デ ステイル)の原則に則って造られている。この洗練されたデザインは「ミッフィー」の作者、ディック・ブルーナ(Dick Bruna)にも影響を与えたという。
ロッテルダムにあるピート・ブロム(Piet Blom)設計の「キューブハウス(Kijk-Kubus Museum-house)」も独創的な名作建築だ。柱の上に黄色のキューブを積み上げたようなアイコニックな外観、傾斜のある壁や三角形や六角形の床など、斬新な空間を体感しよう。見学だけでなく、ホステルが併設され、泊まることもできる作品なのだ。
限りある資源を無駄にせず、循環させることでサステナブルな経済を目指すサーキュラーエコノミーを構築する取り組みがオランダでは活発だ。例えば首都アムステルダムで、人口よりも多いと言われている自転車。そんな自転車大国ゆえの悩みもあり、毎年約100万台もの自転車が廃棄されている。
この状況を課題と捉えた社会企業Roetz Lifeの創業者ティム・ルーエン(Tim Leeuwen)は、不要となった自転車をゴミにせず、新たな命を吹き込む工場「Ruetz Fair Factory」を設立。洗練されたシティサイクルにアップサイクルとして販売している。CO2排出量を削減するなど、環境を守るとともに、労働市場から疎外されがちな層に雇用機会を広げる狙いもある。
オランダ発祥のリペアカフェ(Repair Café)は、家電や服、家具など、あらゆるものを修理し、地域のボランティアがサポートするサーキュラーエコノミー促進の場。カフェにはメンテナンスの工具や塗料などを備え、書籍などの資料も用意されている。
修理をきっかけに住民同士の交流が生まれ、修理のノウハウをもつ高齢者や技術者が貢献でき、その知見もまたデータベースとして循環している。持続可能なサイクルを実践し、修理の楽しさを知るカフェは、オランダでは約500カ所、世界では1500カ所以上で展開している。
酪農王国オランダはチーズの生産量も輸入量も世界上位。価値が高く、保存がしやすいため、かつては貨幣のようにも扱われてきたチーズには専門の市場があり、そこには正確に計測するための計量所もあった。
もっともオランダで歴史が長いアルクマールのチーズ市、規模の大きなエダムなど各地で今でも開催されているが、ゴーダのチーズ市はエンターテインメント性が高い。木靴に民族衣装の姿や、価格交渉の様子など当時の様子を再現しているのだ。春から夏にかけての毎週木曜、マルクト広場で開催される。
現代ならではの市場を体験するのなら、ヨーロッパ1の規模を誇る「アイ ハーレン フリーマーケット(IJ Hallen Flea Market)」へ行ってみよう。入場料6ユーロを払って中に進むと服や家具、食器やカメラなどあらゆるアイテムが並び、まるでテーマパークのような広さだ。
この市場規模により、需要と供給のバランスが取れ、リーズナブルな価格設定に。また、探しているものが見つかるチャンスも高まる。
ローカルも、バイヤーなどのプロも、旅行者も、この宝探しに熱中するはずだ。ネットにはないライブな交流もフリーマーケットならではの醍醐味(だいごみ)だ。
世界で初めて同性婚を法的に認めたオランダはLGBTQ先進国だ。毎年7月最終週から8月最初の週末には「Pride Amsterdam(プライド・アムステルダム)」が開催され、セクシュアルマイノリティーの権利や平等を願う人々が世界中から集結する。
プリンセン運河沿いでは何百ものパーティーボートが運行し、まるでナイトクラブのように。2025年のテーマは「LOVE」。ロマンスの象徴というだけでなく、連帯に必要な概念として、プライド運動でも注目される機会の少ない課題や団体に焦点を当てる。
オランダ南部のティルブルフで開催される「Roze Maandag(ピンクマンデー)」もユニークだ。毎年7月の10日間だけオープンする移動遊園地の月曜日は、多様性を祝う祭典となり、街中がピンクに染まる。その1日だけ、アトラクションは無料。年代、立場を問わず、家族で楽しめるLGBTQフェスティバルとして知られている。
1978年、当時のゲイカルチャーの中心・ケルク通りにオープンしたゲイバー「スパイカラ バー(Spijkerbar)」では、毎週火曜日が「Naked Tuesday(裸の夜)」となり、ローカルも観光客も裸で集う。女装者以外も歓迎され、カラオケやサルサをともに楽しむドラァグバー「レレベル(Lellebel)」など、オランダにはあらゆる垣根を越えたフレンドリーなゲイスポットが各所にある。
アムステルダムを語るのにナイトライフは外せない。毎年10月の5日間、開催される「アムステルダムダンスイベント(ADE)」には、世界中からテクノファンやDJたちが集結する。
1996年から始まり、今では200近くの会場で、約2900アーティストが参加する、想像を絶する規模のイベントとなった。ワークショップ、インスタレーションなども行われ、五感をフルにして、ダンスミュージックの世界に熱狂できる。
毎年11月の第1土曜日に開催される「Museum Night Amsterdam(ミュージアムナイト アムステルダム)」では、市内の50以上の博物館や美術館が夜中の2時まで開館。さまざまな音楽イベント、パフォーマンスなどが企画され、クラブと化する。
冬になると約2カ月間にわたって、オランダのアムステルダムの街は光に包まれる。照明を生かしたアートワークがアムステルダムの街を彩る「Amsterdam Light Festival(アムステルダム ライト フェスティバル)」は、冬の風物詩だ。
2024年にはこのイベントを運営するLight Art Collectionによる「TORANOMON LIGHT ART」が東京でも開催されたので、記憶に新しい人もいるだろう。
アムステルダムでは秋の、冬の夜長はナイトライフをより楽しむためにある。真夜中の美術館で、クラブで、冬の散歩道で、アートや音楽に酔いしれよう。
ニシンやムール貝、牡蠣などの新鮮なシーフードに加え、酪農が生み出すチーズなど、豊かな食材に恵まれたオランダ。コロッケやワッフルなど、日本でもすっかりおなじみの料理も多い。
17世紀に海運業が発展し、国際的な商業都市として栄えたアムステルダムでは、さまざまな食文化が交わり、独自の調和を生み出した。その柔軟性は日本でも発揮され、伝統を守りながらも、日本の素材や発想を取り入れ進化を遂げている。
九州に流れ着いたオランダ船「リーフデ号」の航海士ヤン・ヨーステンが徳川家康と謁見(えっけん)した1600年を原点とし、日蘭交流は425周年を迎えた。
鎖国時代には、出島のオランダ商館での貿易が国内唯一の世界の経済、文化とつなぐ窓口となり、8代将軍徳川吉宗の治める江戶中期には、医学、生物学、天文学などを学ぶ蘭学塾が各所で開かれ、オランダを通じて⻄洋の知識や技術を得るようになった。
今でも各地に残る日蘭交流の軌跡をたずね、歴史をひも解こう。