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草彅洋平が「日本サウナ史」に込めた思い

110年分の歴史を整理、さらなるアップデートを目指す理由とは

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テキスト:高木望

芸能人からスポーツ選手、ビジネスパーソンに至るまで、あらゆる人を魅了するサウナ。しかし、その歴史をまとめた書籍や資料は数が非常に少なく、かつ情報があいまいだった。

2021年8月に刊行された『日本サウナ史』は、なんと日本で初めて戦前のサウナ史にまで言及。国内に現存する資料をもとに「初めてととのった人は誰か?」「誰がサウナを広めたか?」といった疑問を次々と解消している。著者である草彅洋平はなぜサウナに興味を持ち、書籍を出すに至ったのだろうか。

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ブームが過熱するほど感じるようになった「違和感」

フィンランド政府観光局が認めた公式のフィンランドサウナアンバサダーとして、国内サウナブームを牽引する「ゴッドサウナー(GOD SAUNNER)」こと草彅。2017年にプロサウナーと出会ったことがきっかけで、彼はサウナの虜(とりこ)になった。

「2017年の8月頃、さまざまなイベントプロデュースを手掛ける『サウナ師匠』ことTTNEをはじめようとしていた秋山大輔さんを知人から紹介されたんです。当時はサウナを全然好きじゃなかったのですが、彼に笹塚のマルシンスパへ連れて行ってもらって。その時にめちゃくちゃハマってしまいました。

僕自身が『作家と温泉』という本を書いていた事もあって、文学者がサウナをどう捉えているか、というのは気になっていました。振り返ると『日本サウナ史』の構想はこの時点で既にあったんですよね。この頃少しずつ文献も掘り始めていました」

草彅が「サウナの洗礼」を受けてから数カ月後の2017年11月には、秋山、そしてプロサウナーの「ととのえ親方」こと松尾大らと、草彅が経営していた下北沢ケージで日本初となる野外サウナイベント『CORONA WINTER SAUNA』を開催。そのイベントがまさに現在のいわゆる「サウナブーム」の起爆剤となった。以降、マンガやマスメディアの影響も相まって、サウナ人口は拡大し始める。

完全なるサウナブレイクが訪れたのは2019年。2度目の開催となった下北沢の『CORONA WINTER SAUNA』には大勢の人が押し寄せ、サウナが注目されるようになった。しかしサウナブームが過熱するほど、草彅はより強い「違和感」を感じるようになったという。

「日本サウナ・スパ協会の技術顧問を務める中山眞喜男さんが『昭和・平成のサウナ史』という書籍を出されており、1956年に銀座でオープンした東京温泉からの歴史をまとめていらっしゃったんです。

でも『もっと前からサウナの歴史があるんじゃないか』という説もあり、歴史がとっ散らかっていました。本来は大学の教授などがきちんと取り扱うべき分野なのに、適当な情報だけがネットに蔓延している。ここまでブームになったなら誰かがまとめ直すだろう……と思っていたのですが、誰もそれを調べようとしない。

何よりブームが過熱するほど、知ったかぶりでサウナを語る人が増えていく印象がありました。確証がないことを、先人へのリスペクトなくネットで好き放題語ることに、ずっとモヤモヤしていたんです」

草彅が「自分自身で『サウナ史の本を出す』ことの決定打となったのは、彼がサウナーとしてバラエティ番組にゲストとして呼ばれたことだった。

「番組告知のコピーが『サウナでビクンビクンしている草彅くん』というもので(笑)。別に変態性を追求してサウナに入っているわけでもないので、サウナ業界に誤解を与える気がしました。本当に面白いカルチャーであることが伝わらないな、と。

でも裏を返せば、僕がサウナに関して何者でもなかったからこそ、『変態キャラ』として出すしかなかったんでしょうね。その時、単にサウナが好きで詳しいだけではなくて『何かを確立させたい』という思いが強くなりました」

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現在のサウナブームは100年以上続くもの

『日本サウナ史』では約110年前、つまり「東京温泉」以前の歴史を、さまざまな文献、図版とともに網羅している。草彅はテレビ出演後に執筆を始め「3カ月間で一気に書き上げた」と言うが、制作は予想以上に難航した。ネット上の「諸説」をしらみつぶしに検証する日々だった、と振り返る。

「図書館の書籍検索で『サウナ』と検索しても、当然戦後の文献しか出てこないんです。途中から『蒸風呂』という言葉で検索しても、やはりヒットしない。どれから読んでいけばいいかが分かりませんでした。

手がかりとして大きかったのは、1912年のストックホルムオリンピックに長距離選手として出場していたフィンランドの陸上選手、ハンネス・コーレマイネンがサウナを日本に広めた、という説。それを検証するつもりで調べると、まさにドンピシャでした。戦前のサウナについて掘り下げる突破口がやっと見えた瞬間でしたね」

そして、サウナの歴史について掘り下げるほど、現在のサウナブームが長い歴史における「氷山の一角」に過ぎなかった、ということを実感したという。

「今がサウナブームと言われていることに違和感があるほど、ブームが長いんです。1912年から約110年間ブームが続いているんですから。ほとんどの既存の文献が1950〜60年代を『第一次サウナブーム』として捉えていたのも、戦争で一回途切れて歴史が忘れ去られたんでしょうね」

今回出したのはVer.1.0、アップデートは続く

そして2021年8月に『日本サウナ史』を刊行した。実は、彼が短いスパンの中で書き上げたのは理由があった。 

「今年のオリンピックは賛否両論ある中での開催となりましたよね。感じたのは『歴史や背景を知った上で意見を発する人、どれくらいいたんだろう?』ということでした。

縦(歴史)を知った上で横(今)の問題を語るのはいいですが、縦なしで横を語る人が令和に入って加速した印象を僕は持っています。そのもどかしさは、今回のオリンピックを通じて強く感じました。

というのも、僕は本を執筆するうえで、1912年、たった2人の日本選手団によるストックホルムオリンピック出場から歴史を辿っていきました。すると、適当なことがどうしても言えない。賛成とか反対とか、そうした次元を超えた存在がオリンピックだと分かったのです。

サウナ史を通して織田幹雄さん(三段跳選手、1928年アムステルダムオリンピックに出場した日本人初の金メダリスト)のことも大好きになりましたし、スポーツ関連のミュージアムを訪れたりもしました。

柔道で金メダルを獲得した大野将平選手も大のサウナ好きと聞いているので本書が彼のもとへ届いてほしいくらい(笑)。

とにかく、オリンピックのために奔走(ほんそう)した先人の歴史を遡ると、胸に迫るものがありました。だからこそ、東京オリンピックの開催時期に間に合うように本を出そうと決めました」

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そのうえで「今回出した『日本サウナ史』はVer.1.0にすぎない」と草彅。彼はサウナカルチャーを学ぶ「サ学」コミュニティ「CULTURE SAUNA TEAM AMAMIのメンバーを募り、今後も『日本サウナ史』をアップデートしていくという。

「裏テーマにあったのは『新しい本の形』。僕がまとめた歴史って、僕一人だけで調べ上げた以上、限界があると思います。でも仮にサウナ好きの歴史好きが数人でも一緒に参加してくれれば、もっと新しい側面からサウナ史を深掘りできるはず。

この本をアップデートするために、AMAMIでは僕のドキュメントを加筆できるようにしています。ITエンジニアのような発想ですが、確実に本のアップデートができるんです。さまざまな知識を持つ人たちが参加することで『日本サウナ史』はどんどん進化し、強固なものになっていくと思います。

いま「風の時代」と言われる中で、縦を知ることが大事だと思います。でも、それが形になっていないモノ、コトがたくさんある。そういったオンリーワンの研究をもっと見たいですし、「サウナ」というテーマで示せればと思います」

草彅洋平(くさなぎ・ようへい)

編集者。メディアのみならず場づくり、イベントなど多方面のクリエイティブに精通し、観光庁の事業のコーチなどを担当。サウナは2017 年に下北沢で野外のサウナイべント「CORONA WINTER SAUNA」の場所を提供し企画、運営に携わり、現代のサウナブームの第一人者として業界では知られる。フィンランド政府観光局が認めた公式フィンランドサウナアンバサダー。著書に『作家と温泉』(編著/河出書房新社)、『日本サウナ史』(amami)など

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昨今のサウナブームにあっては、なんとなく知っているという人も少なくないであろうロウリュとアウフグース。どちらもサウナ浴の一環で行われるものなのだが、前者はフィンランド、後者はドイツと、それぞれ由来が異なる。

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