Time Out Market Co-CEO Didier Souillat
Photo: Arévalo PhotographyTime Out Market Co-CEO Didier Souillat
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タイムアウトマーケットは「ひとつ屋根の下で街のベストが集まる場所」

タイムアウトマーケットのCo-CEO、ディディエ・ソイヤットにインタビュー

Mari Hiratsuka
テキスト:: Lim Chee Wah
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2025年は大阪にとって大きな年になりそうだ。1970年の日本万国博覧会から55年を経て「大阪・関西万博」が開催されるだけでなく、アジア初進出となる「タイムアウトマーケット大阪(Time Out Market Osaka)」がオープンする。

2022年6月、タイムアウトマーケットの共同最高経営責任者(Co-CEO)のディディエ・ソイヤット(Didier Souillat )がプロジェクトの視察のため、大阪と東京を訪問した。ソイヤットは、イギリス発のレストランブランド「Hakkasan」、高級百貨店の「Selfridges」や「Harrods」で重役を務めるなど、接客業の分野で豊富な経験がある。

編集部は訪日中のソイヤットに、タイムアウトマーケットのDNAや、タイムアウトというメディアが促す体験の場となるために何が必要なのか。 さらに他都市への展開についても言及し、中でも期待される大阪のオープンに関する情報についても聞いてみた。

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タイムアウトマーケットが単なるフードコートではない理由とは?

タイムアウトのメディア部門は常に人々に対し、街に出て、その街が提供する最高のものを体験するように促してきました。文化や飲食、展覧会、ファッションなどのすべてを、実際に体験できるようにした場を、私たちは「タイムアウトマーケット」と呼んでいます。

食を中心としつつ、それに文化を融合させた世界初のスペースです。参加する店舗は編集者によって選別、分類など、キュレーションをされており、何十年もの間に蓄積された知見を持つこうしたプロたちと、密接に連携して作り上げるスペースです。

どの店に出店してもらうのか、何を提供してもらうのか、どんなイベントを取り上げるのか、アドバイスしてもらっているのです。

参加する店や人を選ぶ基準は何でしょう?

私たちが場を作り上げ、タイムアウトの編集チームとフードディレクターが、その街を象徴するような店の組み合わせを決めます。例えば、そば屋、ラーメン屋、うどん屋、天ぷら屋の区画がそれぞれ必要だとします。私はフードディレクターのところに行き、「この街で一番おいしい店を3つ挙げてほしい」と言い、一緒にその店に行き、仲間に加わらないか説得するのです。ブランドやマーケティング、PRにつながるので参加するのはいい機会だと思います。

なぜなら私たちが実施しているのは、それぞれの分野で本当に街を代表する最高の店である、というお墨付きを与えることだからです。

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街の中にあるレストランと、そのレストランがタイムアウトマーケットに出した店の違いは何ですか?

私たちはチェーン展開をするわけではありません。地元に支持され権威のある、それぞれが独自の個性を持った店に声をかけています。出店したからといって、何か別のメニューを提供してほしい訳ではありません。その店が得意としている料理の象徴的な存在になってもらいたいのです。

有名なシェフに、実はやってみたかったけれど、時間や機会、予算がなくてできなかった、というようなことをやってもらうこともあります。私たちはそうしたシェフに実験の場を提供します。

出店者たちが得意とするものを披露する場であり、シェフにとってはクリエイティブな実験の場でもあるんですね。

私たちの仕事はまず、人気のある新進気鋭のシェフを発掘すること。実力は認められているが自分のレストランをオープンできず、フードトラックで料理をしたり、空き店舗などで期間限定で営業する、いわゆるポップアップだけをやっていたりするようなシェフを見つけることです。これはタイムアウトのメディアチームが得意としていることですね。

次に、私たちはそういったシェフたちに、最初の実店舗をオープンする機会を提供します。プロモーションや営業も私たちがします。たいていの場合、シェフたちは面倒を見てくれる投資家を見つけ、事業をさらに大きく発展させていきます。人を成長させるということも、私たちの仕事のひとつです。

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出店したレストランは永続的に営業できるのですか?ノルマを達成しなければならないのでしょうか?

立ち上げた当初は、シェフたちにはただ料理をするために出店してほしいという思いがありました。施設はすべてこちらで用意しています。出店者には適切な材料と適切な品質で料理を提供することをお願いしています。要するに、料理に専念してもらうのです。 

しかし、どの店も1年契約での出店にしてもらっています。もちろん毎年更新して長くいてほしいとも思いますが、一方で街はどんどん進化していく。デパートのように5年の契約をし、「いつ行っても同じ」というような固定的なものにしてはだめなのです。


タイムアウトマーケットドバイでは、18店のうち4店を1年で変更しました。ドバイのあり方を反映させるためです。例えば、マーケットに出店した後、新しいレストランを開くなど、出店者が望むこともあります。街は常に変化し、新しいトレンドが生まれています。マーケットは、それを反映した存在でなければなりません。

街のフードシーンの縮図のようなものですね。

できる限り、そうありたいと思っています。大阪や東京のような都市をひとつの空間に表現するのは難しい。そのため、なるべく大きなスペースを使うようにしています。大阪の3,000平方メートルは、日本の基準からすると非常に大きなスペースですよね。 

大きさにこだわるのは、確保したスペースの中でできる限り多くの、「この店なら間違いない」という信頼を築こうとしているからです。マーケットで街全体を表現することは不可能ですが、可能な限りそれに近づこうとすることが重要なのです。

例えば、あなたが観光客として初めて大阪に行ったとします。しかし、どこに行けばいいのかわからない、大阪にどんな料理があるのかもわからない。そんな時は、タイムアウトマーケット大阪に行けばいい。地元のシェフやレストランが最高の食を表現してくれることでしょう。

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2014年に世界初のタイムアウトマーケットがオープンしました。リスボン以降、コンセプトは進化していますか?

タイムアウトマーケットの持つDNAはどの街でも共通しています。ひとつ屋根の下で、その街のベストが集まっているのです。デザイナーも経営陣も、シェフもすべて地元の人たちで成り立っています。

パンデミックの影響で、マーケットは進化しました。例えば、注文方法がよりデジタル化されましたね。ただ、私たちは人々に選択肢があることが必要だと考えています。例えば、カウンターに行ってシェフと話し、そこで注文することもできる。もしくは、テーブルに座ったままスマートフォンのアプリで注文ができ、いつ出来上がるかを教えてもらえる。このように注文一つ取っても大きく進化しているのです。以前は、デジタルなインタラクションはありませんでしたし。

シェフと交流できることの重要さとは何でしょう?

それはとても大切な要素です。そうでなければ、暗いキッチンになってしまいます。私たちは「つながり」を大切にしています。

私たちのマーケットでは、シェフの名前の横にそのシェフが提供する料理や、なぜ選ばれたのかについてのちょっとした説明文を添えています。このようにして、どんな人物でどんな経歴を持っているのか、訪れる人に伝えているのです。店の入っている建物にも歴史があります。歴史は重要であり、シェフにも料理にもすべてのことに物語があることが大切なのです。

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新型コロナウイルスによって変わったことはありますか?

パンデミックにより屋外スペースの重要性を実感しているので、将来的にはもっと広い屋外スペースをオープンしたいと考えています。現在のスペースはとても広いので、実際、安全な場所であると確信しています。空気清浄機は、病院並みのものを導入しています。

とても興味深く同時に心強いのは、私たちが営業を再開した途端に人々が戻ってきたことですね。多くのお客さんは社会的な交流が失われたことで寂しい思いをし、人との関わりを求めていたのです。タイムアウトマーケットが持つコミュニティーのような雰囲気は、根付きつつあります。単なる流行ではないのです。

人々が安全で快適に交われる場を再び提供するということですね。

その通りです。人々が求めているものも変化していますし、私たちは社会とともに進化していかなければならないと思っています。大阪でのオープンまであと3年。物事が進化し移り変わっていく中、これまでしてきたように、変化に適応し、最先端でい続ける必要があります。

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タイムアウトマーケット大阪について

アジアで最初のタイムアウトマーケットになることはとても画期的なことで、重要な節目。なぜ東京ではなく、大阪なのでしょうか?

タイムアウトマーケットをオープンするには、3つの条件を満たす必要があります。1つは食通の街であること。大阪には「食い倒れ」という言葉がありますね。2つ目は、「ここなら間違いがない」と来場者に思ってもらうための十分な広さのある敷地です。3,000平方メートルは最高ですね。3つ目は、納得のいくパートナーの存在です。マネジメント契約を締結した、阪急阪神不動産は素晴らしいパートナーです。

「なぜ東京ではないのか」とよく聞かれます。それは、この条件がまだ東京では揃っていないからです。そうなることを期待していますが、大阪が先に条件が合ったということです。

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大阪の食を体験するために、たくさんのフードホールやレストランに行かれたようですね。タイムアウトマーケット大阪は、それらとどう違うものになるのでしょうか?

今回の旅では、高い品質のコンセプトをひとつの空間で実現している店を数多く見てきました。しかし、それぞれの店で注文した料理を、移動することなく友達全員と一つのテーブルでシェアすることはできません。この体験を、私たちは提供します。タイムアウトマーケット大阪では、15人のシェフや、15軒のレストランから一度に注文して、ひとつのテーブルでみんなで食べて、シェアすることができるのです。 

そんな光景は日本ではまだ見ていませんが、タイムマーケット大阪がオープンすれば、そうした体験をする人々が出てくることでしょう。ほかにもオープン後に計画していることがあります。何としてもやろうと思っていることの一つは、場の活性化です。これは私たちにとって非常に重要なことです。金曜の夜にDJイベントをしたり、タイムアウトのメディアと一緒にアート展をやるのも面白いですね。アーティストに自分を表現する機会を提供するのです。マーケットにはいくらでも壁がありますから、壁を提供することは簡単です。新しいキャンバスとして使ってもらい、3カ月間展示できるようにします。

アートは私たちの活動の一部ですが、イベントも行っています。マイアミ、シカゴ、ボストンでは、ドラァグクイーンビンゴが有名です。大阪でも何かできるかもしれませんね。 

絵を描きながら一杯飲めるイベントを開催することもできるし、月曜の夜は日本語の詩の朗読会を行ってもいいでしょう。他にこんなことをするフードホールやレストランがありますか。ですから、タイムアウトマーケットはほかとは違うんです。

このような場所は、大阪でも異彩を放つでしょう。開発されたこの場所は、街の新しい一部になっていくのです。また、大阪駅を利用してやって来る人たちの拠点にもなります。特に2025年の万博では、海外からの観光客と地元の人々が交流する場にしていきたいと考えています。 

マーケットがオープンするのは2025年です。3年後ですが、通常それほど時間がかかるものなのですか?

通常は違います。しかしその分、期待も高まるはずです。

阪急阪神とは、3年近く前から話をさせていただいていましたし、新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた中でもコミュニケーションを取り続け、ようやく実現にこぎつけました。この後は、建物のデザインなどをしていく必要があります。

でも、今現在はまだテーマに沿ったキュレーションはしていません。3年後のトレンドなど誰にもわからないですから。通常、キュレーションはオープンの12~15カ月前にならないと始めないのです。

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大阪では、何か新しいことに挑戦しますか?

世界のどのマーケットにも来場者に「これはすごい!」と思わせる何かがあります。ですから私たちも人々が入ってきたときに毎回驚きを与える、地元の優れたデザインチームを雇っています。

ドバイのタイムアウトマーケットに行くと、屋外テラスから「ブルジュ・ハリファ」や「ドバイ・ファウンテン」が見えます。「これはすごい!」と2回思わされることになります。ニューヨークのマーケットは、「マンハッタン・ブリッジ」と「ブルックリン・ブリッジ」の間にあり、マンハッタンのスカイラインを眺めることができるんです。ここでも「これはすごい!」と思わされるはずです。どの都市であっても、ストーリーがあるのです。

地域の社交の場というのは、大きな特徴になると思います。

2020年夏、私たちはアメリカ国内のマーケット全ての営業を再開しました。それは金銭のためではなく、その地域のコミュニティとのかかわりを持ち続けるためです。今日私たちのマーケットがあるのは、コミュニティのおかげだからです。

マーケットの営業を再開したことで、在宅勤務などで目にすることのなくなっていた地域コミュニティが、私たちのマーケットで再び集まり始めました。まさにそれがタイムアウトマーケットなのです。パンデミックを経て、私たちのマーケットは極度に地域密着になったと思います。シェフも地元の人たちですし、サプライヤーや雇用管理、請負業者も地元の人たちで成り立っています。それにより地域社会に多くの雇用を生み出しています。これは、とても重要なことです。

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建設予定地を訪問されましたね。この物件の第一印象は?

広大な敷地ですね。阪急阪神がビジョンを持ってくれていることもうれしいです。これから作っていく公園やイベントスペースの数には驚かされました。この地域には大阪のどの地域よりも多くの公園ができる予定です。まさにコミュニティ主導のコンセプトですね。

ここはまた、大阪駅を経由して万博に来る人たちの到着地でもあります。おそらくタイムアウトマーケットは、この地域への訪問者が最初に目にする大きな目印になるはずです。

マーケットが入る建物は本当に大きな複合施設になる予定です。多くの人がそこに住み、働き、観光客もそこに行くことになります。誰もが成功するために最後に物を言うのは、この3つのセグメントの充実度なのです。

今後、どんなタイムアウトマーケットが登場するのでしょうか?

これまで、ロンドン、2023年のポルト、2024年のアブダビ、2025年のプラハ、そして同年の大阪とマーケットのオープンを発表してきました。

世界中に散らばる多くのパートナーに、それぞれの場所でタイムアウトマーケットを運営してほしいと話をしています。ですから、今後はさらに新しいオ-プンが発表されると思います。

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タイムアウトがある都市すべてにマーケットを開業するのが目標ですか?

タイムアウトは世界333都市で展開されていますが、333ものマーケットを開こうとは思っていません。しかし、タイムアウトの力が強いところにはオープンしたいですね。東京は強いですし、ドバイも強い。ロンドン、ニューヨーク、シカゴ、そういった都市ですね。

だから、ロンドンのマーケットをできるだけ早くオープンする必要があります。タイムアウトの発祥の地で、もう50年以上の歴史がありますからね。2023年には、英国でオープンできればと思います。

タイムアウトマーケットを知る

  • Things to do

2025年に開催される「大阪・関西万博」に先駆けて、タイムアウトマーケット大阪(Time Out Market Osaka)がオープンする。「タイムアウトマーケット」とは、編集者がキュレーションした食と文化を体験できる世界初のスペースで、その都市の最も優れたシェフやレストラン、ユニークな文化体験が集結するフードマーケットだ。

ここでは、マーケットとは何か?ということを紹介しよう。

  • Things to do

1960年代ロンドンのカルチャーに魅せられ、そこで起きているイベントの信頼できる情報が必要だと考えたトニー・エリオットは1968年、キール大学の夏季休暇中に「タイムアウト」を創設。彼はケンジントンにある母親の家のキッチンテーブルで、最初のエディションを70ポンドで制作した。その資金は、20歳になったばかりの彼のために叔母がくれた誕生日プレゼントの一部であった。

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