素材で選ぶ、日常に取り入れたい工芸品

素材で選ぶ、日常に取り入れたい工芸品10選

現代の生活で使いたいこだわりのプロダクト

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テキスト:吉澤 朋

「匠の技」「超絶技巧」といった単語で飾られがちな日本の工芸。ときに北欧雑貨などよりも近寄り難い印象を抱く人もいるのではないだろうか。だからこそ、日本に昔からある素材・技術をもっと身近に活かそうという試みも長く行われてきた。その中でも、使い勝手が良く比較的手頃な値段で、現代の生活に取り入れたい工芸品10品を紹介しよう。

紙:江戸からかみのステーショナリー

江戸からかみは、もともとは和紙を素材に、襖紙(ふすまし)や屏風(びょうぶ)、掛け軸などの表具用に使用され、日本の住まいを彩る存在だった。そうした家具の需要が少なくなった現代だが、和紙に施された手摺(す)りの技術をそのまま活かした文房具は美しく、使っていて楽しい。厚手の紙に摺られた模様を名刺サイズにカットし詰め合わせたものや、一筆箋(いっぴつせん)、便箋、封筒などがあり、17世紀から伝わる文様の手摺りの触感と共に、和紙の質感も楽しめる。メモや一筆箋は、伝言や贈りものにさりげなく添えられているだけで、株が上がる(気がする)。

大人の嗜(たしな)みとして携帯したいという人は、東上野の稲荷町の一角にある上野松屋で購入できる。まずは入場無料のショールームで、美しい江戸からかみの文様の世界に浸ってから、好みの柄をステーショナリーの中から探すのがいいだろう。文具コレクター、特に紙好きなら、1時間は楽しめるはずだ。

鋼:播州刃物(肥後守)

かつて播州と呼ばれた、兵庫県の金物産業の盛んな地域で、今も播州刃物は作られている。小学校の頃、鉛筆削りとして使っていたナイフとほぼ同じ刃渡りの「肥後守」は、レターオープナーを探していた時に見つけて以来、卓上で存在感を発揮している。大切な人からの手紙や、今までぞんざいに開封していたダイレクトメール、ハサミの片刃を使って開けていた宅配荷物などを、気に入りの専用道具を使って開けられるのは嬉しいものだ。

シンプルな折りたたみ式で、チキリという突起に指をかけて開く。切れ味は抜群。

海外向け土産需要の高いものとして包丁があるのは、「日本と言えば刀」というイメージからだろうか。こんな手仕事の小刀などは、サイズ感と値段の手ごろさ(2,000円)、桐箱入りという点からも喜ばれるのではないだろうか。今後、日本の土産品として認知度が上がりそうだ、と勝手に踏んでいる。琺瑯バットと共に、高円寺のコトゴト(cotogoto)で買うことができる。

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土:沖縄のやちむん

価格競争、後継者問題など、様々な挑戦を強いられている手仕事の世界において、現代でも比較的元気なのが、「焼きもの」の分野ではないだろうか。

焼きものを意味する沖縄の言葉「やちむん」は、独特の模様や土の質感、釉薬の色合いで、それと分かるものが多い。何より、手仕事の味わいが残っているものが多い。きちっと角の揃った白磁の器などに比べると、用途と使い勝手が多少制限されるが、南国の太陽を浴びて育った土から生まれる器は、健康的で元気をくれるものばかりだ。特に「マカイ」と呼ばれる碗ものは、茶碗サイズから、大盛りサラダを盛り付けられるくらいのサイズまで、大きさも模様も様々で選びがいがある。家族で囲む食卓の大皿料理にも、1人分の夜食のうどんにも重宝する。「民藝の教科書」シリーズなどの著書で知られる故久野恵一が創設した店、手しごと(東京・尾山台)と、もやい工藝(鎌倉)は、どちらも沖縄の作り手と直接交流して仕入れた、豊富な品揃えが魅力だ。きっと気にいるやちむんに出会うことができるだろう。

琺瑯(ほうろう):琺瑯バット

エナメルという英単語の方が親しまれているかもしれないが、琺瑯とは、鉄にガラス質の釉薬(ゆうやく)をかけ、焼成した素材のこと。鉄の丈夫さとガラスの清潔さを兼ね備えていて、ミルクパンからマグカップ、お玉などのキッチン道具にも多く使われている。家庭用琺瑯製品では日本屈指のメーカー野田琺瑯がプロデュースする「ホワイトシリーズ」は、柔らかい白一色が清々しい保存容器を中心としたシリーズだ。

幅広いサイズと形が揃うが、筆者は弁当箱にもなるサイズを愛用している。ガラス質でコーティングされた表面は、汚れや臭いもつきにくく、ピクルスや味噌などの保管に安心。それだけでなく、本体は直火やオーブン調理も対応しているので保存容器、料理道具、器(もしくは弁当箱)と3役以上の働きをするのだ。

例えば、ゆでた野菜にチーズをかけ、オーブンに入れて焼き目をつけたら、そのまま食卓へ運べてしまう。洗い物が1つ減るという単純な利点もある。ただ電子レンジはNGなので、注意が必要だ。

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紙:はりみ

「紙と木でできた日本の文化」とはよく言ったもので、家具から日々の道具まで、日本の生活空間には紙があふれている。同時に、紙がどれだけ丈夫になりうるかに驚かされることも多い。古い掛け軸の布部分よりも紙の方が原型を留めていることもあるという。

和紙を竹ひごなどで整形し、柿渋を塗って丈夫にした「はりみ」は、いわゆる塵(ちり)取りだ。筆者はこのはりみを使い始めて、ゆうに7、8年は経っている。手で持つ部分が少し毛羽立ってきたものの、まだまだ十分使える。

卓上サイズの江戸箒(ほうき)と合わせて部屋に置いておくと、パソコン周りや部屋の隅に溜まりがちなほこりを、目についた時にささっとまとめてゴミ箱行きにすることができる。和紙に柿渋を塗ったはりみは静電気を起こさないため、ほこりやチリがするするとゴミ箱に落ちて行くのが気持ちいい。大掃除をまとめてするより、気になった時に小まめに手入れするタイプの人にはかなりおすすめだ。掃除機の出番はぐっと減り、わずかだが脱電気にもなる。

何より、部屋の中に出してあっても、全く邪魔にならない佇(たたず)まいが素晴らしい。江戸箒を取り扱っている白木屋傳兵衛で、どちらも購入できる。

鉄:鉄のフライパン(柳宗理)

日本の手仕事×鉄で思い浮かべるのは、まず鉄瓶かもしれない。だが現代生活に活かすという観点で、誰にでもお勧めできるのはフライパンだ。しっかり、じんわり均一に熱が伝わるのは鉄だからこそ。例えば、オリーブオイルを少し垂らし、硬くなってしまった餅をじっくり焼いてみる。すると外はカリッとして、中はもっちりとした絶品に仕上がる。

写真のような小ぶりなものなら、餃子を焼き、そのままテーブルに置くこともできるので、熱々のまま楽しめ、さらに洗いものも減る。まさに一石二鳥だ。重いイメージの鉄の道具も、薄手なら扱いやすい。

扱い方にはちょっとした注意が必要だ。調理したものを入れっぱなしにしない(翌朝、鉄の味を楽しみたいなら話は別だが)とか、使い終わったら洗い、水分を飛ばし、油で表面をコーティングする…など。使い始めは少し面倒に感じるかもしれないが、そのうちに慣れるし、たまに手を抜いてしまっても、ちゃんと復活してくれる。鉄分を補給できるのもポイントだ。

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布(葛):葛布のタオル

絹、木綿、苧麻(からむし)、大麻、芭蕉など、日本各地にある様々な種類の織物とその原料。ここでは素材独自のハリやツヤを肌で直接感じられるものとして、葛布のタオルを紹介する。

静岡県の大井川付近で採れる葛を原料にした手織りのタオルで、繊維に撚(よ)りをかけずに織り上げている。ツヤツヤとした葛の繊維独特の輝きが特徴だ。入浴用のボディータオルとして使うと、ハリのある繊維が程よく肌の表面から刺激し、血行を促進してくれる。天然素材なので、アトピーがあったり、敏感肌の人にもお勧めだ。石鹸の泡立ちはすこぶるいいし、石鹸を使わなくても洗える。使い込むほど繊維はくたっとしてくるが、程よいハリはずっと健在だ。人気の高さゆえ、今では在庫がわずかだという。

筆者は、3年以上使い込んだ。葛布独特の抗菌性や、乾きの良さなども手伝い、長持ちするようだ。

土:soilのバスマット

「伝統的な日本的街並み」と聞いて思い浮かべる人も多いであろう土壁には、左官屋の技術が欠かせない。

その左官屋の技術を現代に生かそうと立ち上がった、富山発のプロダクトブランドがsoil。中でも筆者が気に入っているのが、バスマットだ。吸水性と保湿性に優れた秋田県産珪藻土(けいそうど)を混ぜ込んだバスマットで、風呂上がりの水分をぐんぐん吸収してくれる。さらっとした質感が足裏に心地いい。

使用期限は2年が目安だそう。「使用期限がきたら、次もこれを買おう」と満足していたところ、ほぼ同じ見た目と素材のバスマットを近所のホームセンターで発見した。soilのロゴはなく、値段は半額以下。ニセモノだと憤ってしまえばそれまでだが、真似されるほどデザインが秀逸な証拠とも言える。使用感などは、比べていないので分からないが。

良いデザインは、いつの時代も真似し真似され広がってきた。とはいえ、初めに生み出した人への敬意も忘れずにいたい。

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竹:ざる

竹製のざるも、時代を問わず大切に使いたい道具のひとつだ。写真は岩手県の篠竹で編まれたもの。豆腐や野菜、春雨など、鍋料理の具を水切りしたり、懐紙を敷いて天ぷらを乗せる皿代わりにしたり、鍋の中に入れ、蒸し皿として使ったり、様々な用途がある。

先日、カウンター席からキッチンをのぞけるスパゲッティ店で、5、6人分はまとめて麺を茹(ゆ)でていそうな大きな釜の横に、直径1メートルはありそうな竹ざるを見つけた。熱を伝えないので、熱々の麺をすくい上げるには最適だし、しなやかな竹はポキっと折れることもない。プロの料理人に愛されるのは、天然素材ならではの理由があるようだ。

経年変化で、落ち着いた色味に変化することはあるが、決して「劣化」ではない。竹ざると一口に言っても、数百円のものから何千円もする品まであるが、使い始めてみると、細部の仕上げの違いからくる値段の差にも、なるほど納得してしまう。

漆:佐藤阡郎の汁椀

今回紹介する中で、一番の高価格帯の品だ。湿気により、「乾く」というか「固まる」漆は、japanという英語名もある通り、湿潤な日本ならではの素材。

写真は、長野県の漆作家 佐藤阡郎(せんろう)の汁椀。かつて筆者は、漆を塗る工程を佐藤に身振り手振り説明してもらったことがある。漆も刷毛も手元にない中で再現されたその無駄のない所作は、何十年という制作活動の中で繰り返され、洗練を重ねたもので、熟練の技を饒舌(じょうぜつ)に伝えるものだった。

その佐藤がつくる朱塗りの「端反(はぞり)汁椀」。少し外に反った縁が、唇に柔らかい。側面の2本の線も、さりげないポイントだ。木の器には、中身を温かく保つ効果がある。また漆を重ねることで強度が増す。だが、効率や機能などの理屈は脇に置いておき、「ただ美しいから、使いたいから使う」という器があってもいいのではないだろうか。

花も日常に取り入れる…

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東京、フラワー&プランツショップ
東京、フラワー&プランツショップ
グリーンの植物は居住空間を豊かにし、花は贈った人にも贈られた人にもやさしい気持ちを生み、大切な人との絆を深める。そのため近年、遠方に住む家族に花を贈ったり、インテリア感覚でプランツを買う男性も増えてきているという。ここではタイムアウト東京が勧める、東京都内の個性派ショップを紹介する。どの店も、育てやすいものから普段目にすることのない珍しいものまでさまざまな植物が揃い、シチュエーションや贈る相手によって丁寧に対応してくれる店ばかり。ついつい誰かにプレゼントしたくなるような花や植物が見つかるだろう。

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東京、ZINEショップ5選
東京、ZINEショップ5選

ZINE(ジン)は、個人または少人数のグループによって自主的に制作される少部数の出版物のこと。諸説あるが、1950年代にアメリカの詩人たちがオリジナルの詩集を制作したのがはじまりと言われ、1990年代には、西海岸のサーファーやスケートボーダーを中心に流行した。現在では、アート出版に特化した日本初のブックフェア『TOKYO ART BOOK FAIR』の開催などにより、日本でも多くの人が作品づくりをするようになった。この自由なプラットフォームは、アーティストに限らず、個人の日頃の何気ない思いをつづった作品から名刺がわりにまで、表現方法が広がっている。特集では、東京のZINEショップを紹介する。

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