テンダリー

東京、巨匠に会えるバー15選

極上のスコッチから世界優勝カクテルまで、伝説のバーテンダーに乾杯

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テキスト:たまさぶろ

「どこのバーへ行くべきか」。そう訊ねられる機会は多い。いつも無難な答えを返してしまいがちな点、反省すべきと思っている。本当はこう伝えるべきだ。「まずは巨匠のバーへ行くべし」と。そして、バーのすべてを学んでしい。

おそらくバーの不文律を学ぶだろう。なぜバーの扉は開けづらいのか。なぜ「チャージ」が存在するのか。少なくとも「正す」襟がある服装で出向く必要があること。バーふさわしい話題とは…。なぜ巨匠の一杯には、摩訶不思議な魔力がけられているのか。淑女紳士の振る舞いとは何か。どれも明文化するのは無粋と呼ばれる。しかし、そうした知識が人生に潤いを与えてくれる。

人生のベテランでもある巨匠たちの一杯は、あと50年も続く代物ではないだろう。くだらぬ安酒を喰らうのも学びのひとつだが、今こそ、その強烈な洗礼を拝んでおくべきだ。なぜ巨匠たちが「巨匠」と呼ばれるに至ったのか、可能な限りの想像力を駆使してみるのも良い。

人生の深淵なる謎を解くためにも、まずは巨匠たちのバーを覗いてみよう。少し脅しが過ぎるかもしれない。気楽に足を運んでしい。ただし、その力の抜き加減を学ばないうちは「気楽」に通うのは難しいかもしれない。

もっともこちらに挙げた「Y&Mバー キスリング」と「TENDER」をハシゴしてしまう酔っ払いのスカポンタンに大口を叩かれたくないという同輩もいるやもしれんが…

さあ、まずは巨匠のバーへ。

  • 湯島
  • 価格 2/4

店名は「お酒の先生」として著名な故坂口謹一郎教授による。もし少しでも「文学通」を名乗るなら、迷わずこのバーに足を運ぶべきだ。オーナーバーテンダーの渡辺昭男には、文豪三島由紀夫の一杯を作り続けていた過去がある。熱心にボディビルに通っていた三島は、その帰路に氏の一杯を傾けたそうだ。

もっともEST!の魅力は、そんな過去に封じ込められるような遺物ではない。氏の独特な、まるで卵でも温めるかのような独特のシェイカーさばきから生み出されるスタンダードカクテルはもちろん、オリジナルカクテルの『ルナ・ロッサ』、『ゴールデン・ダイキリ』などは「なぜスタンダードのひとつに数えられていないのか……」と首を傾げさせるほどの秀逸な仕上がりを魅せる。氏は「バランスが難しいから(広まらないの)ですかね……」と微笑む。ウイスキーの品揃え、老成した軽快なトーク、すべてがバーの魅力となって引き出される。

呑み過ぎた今週は「そろそろ休肝日を設けよう……」と考えるのだが、街に灯が点る時間がやって来ると、今宵もやはり湯島に足を運んでしまう。

  • 銀座
  • 価格 2/4

この一軒のマティーニは、単に「ドライマティーニ」とは呼ばれない。客から「毛利マティーニ」と呼ばれるほどの「オリジナル」なカクテルなのだ。そして、この一杯を口にすると、ついつい「おかわり」と告げたいほどの魅力を放つ。

毛利隆雄は多くの弟子を持つ。そして、その弟子は氏がデザインしたオリジナルのグラスを使用してまで毛利マティーニに挑むのだが、氏のように「おかわり」をさせるほどの逸品を仕上げるには至っていない。

氏が1987年から使用していたジン『ブードルズ』が終売となったためか、昨今は「ハバナマティーニ」も人気を集めている。そんなハイスペックな一杯を繰り出しながら、店の雰囲気はややカジュアル。緊張することなく扉を押すことができるのも魅力。

最近、突き出しにスープを振る舞うバーが増えた。呑み手へのそんな優しささえ、氏が始めたとされる。他の巨匠に挑む勇気に欠ける呑み助は、そんな優しさを求め、まずここをスタート地点とするのも一案だ。
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  • カクテルバー
  • 銀座
  • 価格 2/4

上田和男のギムレットを呑まずして「ギムレットを呑んだ」と公言してはならない。まさにそう思わせる一杯だ。

米紙ニューヨークタイムズにて特集が組まれた過去もあり、世界中から氏の一杯を目指して客が集まる。シェイクにより、空気を気泡に換え、マイクロバブルという発想を持ち込んだことで、世界にその名を知られる。日本のバーテンディングの質の高さを世界が知るに至ったことは、氏の功績のひとつだ。

せっかくなので数多、世に出ている氏のカクテルブックに目を通してから訪れると、さらにその深みが理解できるはずだ。スタンダードを味わったなら氏のバラエティ豊かなオリジナルカクテルも存分に愉しみたい。

だが、「酒の席での品格」=「酒格」を重んじるため、Tシャツ姿で訪れた海外バーテンダーが門前払いを喰らうことも多々。「正す襟もない服装はNG」。そう、ここは世界最高峰のひとつでもあり、正統派の銀座のバーでもある。
  • 銀座
  • 価格 2/4

銀座のバー通なら「Y&M」が吉田貢と毛利隆雄の頭文字であることは知っているだろう。2006年に、元ニューオータニのチーフ、ザ・ウインザーホテル洞爺の創業メンバー阿部修夫を迎え、毛利は自分の店に専念し、吉田と阿部が曜日別に担当するようになった。2014年、残念ながら吉田は鬼籍に入り、2015年には元帝国ホテル会員制クラブマネージャー石原彰を新たに迎えた。現在この高貴な店は、阿部と石原が曜日別に担当している。

「茶道の流れを汲む日本のバーテンダー」について訊ねたところ、『ギネスブック』にもその名を残す阿部から『苔香(たいこう)』という和風オリジナルカクテルが供された。ネーミングは裏千家の先代家元(現 千玄室)による。日本酒の『菊水辛口』にヘルメスのグリーンティーリキュール、すだち、抹茶を入れシェイク。アクセントの金箔が、苔寺のような綺麗な苔色に調和した絢爛な一杯である。

以前、あの「嵐」の櫻井翔がロケで訪れたことで、まさかミーハーが押しかけやしまいか危惧したが、ファンが足を踏み入れるにはいささか格式の高い一軒だったのだろう。今も格調高い夜を存分に堪能できる。

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  • 銀座
  • 価格 2/4

銀座らしく、しかもぢんまりした気持ちの良いバーとして思い付くのが、この一軒。オーナーの日下部隆晴は毛利バー出身。居心地の良さから、ついつい長居してしまいそうになる。

銀座の夜は早い。夕刻にスタートし、24時を回るころには店じまいするバーも多い。しかしこちらは銀座のバーとしては珍しく朝5時まで営業しているため、他バーの営業終了後、バーテンダーたちの憩いの場となることもしばしば。夜更かし好きの呑み助は覚えておきたい一軒だ。

氏が長年世話になっていた客から名付けたオリジナルNOKは、人気の一杯。タリスカーラフロイグ、ベルモットスイートをステアし、オリーブを添えるシンプルな作はバランスが命。バーテンダーの技量が問われる。

最近、体調が優れない日下部が夜半に店に立つ機会は少ないが、現在は子息も店に立つだけに、この技量の継承が期待される。まだまだこれからも後進を見守ってもらいたい巨匠のひとりだ。

 
  • 西麻布

イギリス人建築家ナイジェル・コーツが、1990年台初頭に手掛けた西麻布「アートサイロビル」の地下1階にあるウイスキーバー。元週刊プレイボーイの編集長であり、現在は作家として活躍する島地勝彦がオーナーを務めており、2020年に新宿伊勢丹からこの地に移った。

6メートルの高さを誇る天井には、フレスコ画の青空が描かれ、島地が蒐集した開高健やバスキア、横尾忠則などの、貴重な絵画や蔵書などが飾られている。猫好きということで猫をモチーフにしたアート作品が多く見られるのも特徴的。

最初の一杯には、サロン ド シマジの定番メニュー「スパイシーハイボール」がおすすめ。タリスカー10年をサントリーの山崎プレミアムソーダで割り、スコットランド産のピートで燻製したブラックペッパーをかけたものだ。

執筆:たまさぶろ

1965年、東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。「週刊宝石」「FMステーション」などにて編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。このころからフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社にてChief Director of Sportsとしての勤務などを経て、帰国。

「月刊プレイボーイ」「男の隠れ家」などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで1,500軒超。2010年、バーの悪口を書くために名乗ったハンドルネームにて初の単著「【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR」(東京書籍)を上梓、BAR評論家を名乗る。著書に、女性バーテンダー讃歌「麗しきバーテンダーたち」、米同時多発テロ前のニューヨークを題材としたエッセイ「My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)」。

「あんたは酒を呑まなかったら蔵が建つ」と親に言わしめるほどの「スカポンタン」。MLB日本語公式サイトのプロデューサー、東京マラソン初代広報ディレクターを務めるなどスポーツ・ビジネス界でも活動する。

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