店名は「お酒の先生」として著名な故坂口謹一郎教授による。もし少しでも「文学通」を名乗るなら、迷わずこのバーに足を運ぶべきだ。オーナーバーテンダーの渡辺昭男には、文豪三島由紀夫の一杯を作り続けていた過去がある。熱心にボディビルに通っていた三島は、その帰路に氏の一杯を傾けたそうだ。
もっともEST!の魅力は、そんな過去に封じ込められるような遺物ではない。氏の独特な、まるで卵でも温めるかのような独特のシェイカーさばきから生み出されるスタンダードカクテルはもちろん、オリジナルカクテルの『ルナ・ロッサ』、『ゴールデン・ダイキリ』などは「なぜスタンダードのひとつに数えられていないのか……」と首を傾げさせるほどの秀逸な仕上がりを魅せる。氏は「バランスが難しいから(広まらないの)ですかね……」と微笑む。ウイスキーの品揃え、老成した軽快なトーク、すべてがバーの魅力となって引き出される。
呑み過ぎた今週は「そろそろ休肝日を設けよう……」と考えるのだが、街に灯が点る時間がやって来ると、今宵もやはり湯島に足を運んでしまう。