Tokyo Beats & Brews
Photo: Kisa Toyoshima
Photo: Kisa Toyoshima

猛暑を吹き飛ばすフリージャズ、「第4回Tokyo Beats & Brews」レポート

大谷能生がゲスト参加、武蔵境のマイクロブルワリー「26Kブルワリー」もコラボ

寄稿:: Naoya Koike
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タイムアウト東京 > カルチャー > 猛暑を吹き飛ばすフリージャズ―第4回Tokyo Beats & Brewsレポート

「真夏の夜の」という枕言葉に続く音楽はジャズしかない。現在進行形のジャズと酒にスポットを当てたイベント「Tokyo Beats & Brews」の第4回目が2024年8月8日、恵比寿「タイムアウトカフェ&ダイナー」で開催。この日は猛暑を吹き飛ばすアブストラクトな即興演奏が展開された。

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レジデントミュージシャンは「THE FIRST TAKE」で長谷川白紙のバンドセットに参加したことが話題となったドラムス・秋元修、テレビ番組「EIGHT-JAM」でRIZEのKenKenに「今一番尊敬する若手ベーシスト」として紹介されたベーシスト・Yuki Atori。両者ともに菊地成孔の最終バンド・ラディカルな意志のスタイルズに参加する実力者である。

前回はトランぺッター・佐瀬悠輔をゲストに迎えて直球かつポップなセッションが展開されたが、今回はサックスやエレクトロニクス、作編曲、トラックメイキング、批評と多彩なアウトプットを持つ大谷能生をフィーチャー。まったく系統の違う人選となり、どんな雰囲気の演奏になるかは予想もできなかった。

混沌とグルーヴ、40分間全て即興

注目の1stセットは秋元とAtoriがゆっくりと場を醸成しながらスタート。堅実に曲を演奏した前回と全く異なる雰囲気だ。センターに立つ大谷。机上にはサックスとラップトップ、CDJ、サンプラーが並ぶ。様子を見つつ、リズム隊の音数が増えてきたところで、彼が金色の刀を抜いた。怪しく艶っぽい音色でロングトーンを鳴らし、高音に達してから徐々に収束。さらにCDJも使ってレジデントの2人を刺激する。

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抽象的だったリズムにだんだんとパルスが見え始め、4拍子のベースラインが形成されると明確なグルーヴが発生した。一気に音の雰囲気が首を振って踊れるような質感へ、と思ったら再び訪れるカオス。この日の演奏はその往復で構成されていた。

そんな混沌(こんとん)の中でもAtoriの高速弾き。さらにパルスが出始めた時の秋元によるポリリズミックなアプローチにも心を揺さぶられた。

 

なんと40分間ずっと即興し続けて1stセットが終了。ムーディーでダンサブルなジャズを期待したオーディエンスもいたかもしれないが、これも100年以上の時をかけて多様化してきたジャズミュージックの文脈の範疇(はんちゅう)なのである。前回の演奏はスウィングやハードバップ、モード、ファンク、ヒップホップといったポップな色が濃かったが、今回は特に1960年代以降発達したフリージャズ的なアプローチが強かった。

演奏側はもちろんだが、次に何が起こるのかと目を離さない観客の集中力にも驚きである。

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清涼なIPAで渇きを潤す

そして、この演奏を引き立てるのが「Tokyo Beats & Brews」の「Brews」サイド、中央線・武蔵境駅の高架下にある「26K(ニーロクケー)ブルワリー」のクラフトビールだ。

今回は、ジューシーでドライホップがたっぷり使用されているが、乳糖を添加することで重過ぎないまろやかな口当たりが魅力のHAZY IPA」と、IPAながらも糖度ゼロのすっきりした飲み口で後味に重さがない「シューティングスター吉★祥★寺」の2種のほか、「飲み比べセット」を用意。いずれも武蔵野の水を使用した丁寧な醸造が魅力で、抽象的な音楽に清涼感をもたらしていた。

ビールラバーの琴線に触れ、何度もお代わりしている客も少なくなかった。

抽象画のようなセッション

2ndセットは大谷のサンプラーによる独奏から始まり、その場限りの演奏が互いの空気を読みながら進行していく。

秋元は「曲だとイメージに縛られてしまうから、このメンバーだと即興の方がサウンドします」とコメント。このスタイルの演奏が初めてで「抽象画をイメージしました」というAtoriは、ベースを床に置いて弦をたたくようなアプローチでノイズを出していた。意外性のある発想が自然発生的に起きるのも、このイベントならではなのかもしれない。

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後半は大谷のブロウが冴え、テンションの高い瞬間が多かった。この大谷の果敢な姿勢に秋元は「頼りになります」、Atoriは「説得力が伝わってきました」とそれぞれ評する。大谷は「今回はAtori君をリーダーに、『よろしくお願いします』という感じでした。まだいくらでも演奏できますね」と発言し、まだ余力がある様子だった。

ようやくセット最後に、この日最初のメロディーとしてセロニアス・モンク(Thelonious Monk)の「Misterioso」が現れて演奏は幕を閉じた。開催される度に表情を変える「Tokyo Beats & Brews」。第5回はどんなゲストが参加し、どんな酒とペアリングされるのか。ぜひ現場の熱気と空気感を肌で体感してほしい。

Tokyo Beats & Brewsとは

  • ナイトライフ

Tokyo Beats & Brews」では一つのイベントという枠を超え、東京のジャズ・音楽・バーカルチャーを色濃く感じられるヴェニューを紹介している。ぜひチェックしてほしい。

また、LINE公式オープンチャットでは、イベント情報や当日の様子を配信するほか、おすすめのヴェニューやアーティスト・イベントなどをカジュアルに情報交換できる。こちらも見逃さずに。

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