インタビュー:Kyotaro Miula(Minami Deutsch)

Minami DeutschのフロントマンKyotaroに聞く、ドイツと日本の音楽シーン

Mari Hiratsuka
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テキスト:須賀華呼

「クラウトロック」と呼ばれる音楽ジャンルを知っているだろうか。ドイツ料理のザワークラウトを文字って名付けられたクラウトロックは、パンクロックからエレクトロミュージックにまで多大な影響を与えたドイツ発祥の実験音楽だ。代表的なバンドとしてCANやNEU!、Kraftwerkなどが挙げられるが、その音楽性は多様で一口に言い表すのは難しい。クラウトロック誕生から半世紀が過ぎた現在、シーンに新たな地平を切り開く日本人バンドが注目を集めている。

クラウトロックがもつ実験性を継承しながらも再構築する気鋭バンドMinami Deutsch(南ドイツ)は、フロントマンのKyotaro Miula(ギター、ヴォーカル)を中心に2014年に東京で結成された。Kyotaroのベルリン移住をきっかけにヨーロッパで精力的なツアーを行いながらオーディエンスを増やしている。

南ドイツが奏でる研ぎ澄まされたミニマルグルーヴと中毒性のあるハンマービートのループは聴く者の脳内に侵食し、サイケファンだけでなく、音楽を愛する者に爽やかな快感を与えてくれる。ソールドアウトとなった2019年9月のベルリン公演でも、オーディエンスを気持ちの良いトランス状態に引き込む極上のサイケデリアサウンドを披露した。

フロントマンのKyotaro Miulaに、バンドの世界観や同じく海外で注目を浴びるサイケデリックバンド幾何学模様との関係、CANのダモ鈴木との共演について語ってもらった。

ーまず、南ドイツというバンドが結成に至るまでのエピソードを教えてください。

K:バンドを結成したのは2014年くらい。幾何学模様※1が開催していた『Tokyo Psych fest』っていうイベントで、最初のドラマーと知り合って。そのドラマーがクラウトロックが好きだったことがきっかけで、ちょっとバンドやってみようかって話になって。それで当時のメンバーと作った音源をいろんなレーベルに送ってみたら、イギリスのカーディナルファズ(Cardinal Fuzz)っていうレーベルから返信があって。そこで最初のレコードがリリースされることが決まったんだよね。

(※1)幾何学模様:東京出身のサイケデリックロックバンド。アジアの音楽シーンを世界へ発信することを目的とした音楽レーベル「Guruguru Brain」も主宰する。

ー最初のメンバーというと、現在はメンバーが変わったのでしょうか。

K:そのレコードリリースが決まった後に最初のメンバーの2人が辞めちゃって。今のメンバーのTakuがTolchockっていうバンドをやっていたんだけど、そこもちょうどメンバーが辞めちゃって。それで一緒にやろうっていうことになって、その後にベースのISEくんが加わったって感じかな。

幾何学模様のメンバーが主宰するレーベル、Guruguru Brainからアルバムのリリースも行なっていますが、関係を少し教えてください。

K:幾何学模様とはもともと共通の友達がいて顔見知りだったのと、高田馬場にあるスタジオでジャムしたりする仲で。それで、幾何学模様のメンバーのTOMOくん(ギター)が高円寺に引っ越す、ってことになったんだけど、その流れで自分もそこに住みたいなってなって(笑)。それで彼らの高円寺のボロ家に居候し始めました。

音がかっこ良くなければ評価されない

ーメンバーは東京にいて、Kyotaroさんだけベルリン住んでいますが、そのきっかけは?

K:そうですね、ベルリンに来て約3年目になります。きっかけは、普通にドイツの映画とか音楽とかがもともと好きで。「幾何学」のTOMOくんとGOちゃん(ドラム)がアムステルダムに引っ越すことになってたから、じゃあ自分も行ってみようかなって思ったんです。

ーBo Ningenをはじめ海外を拠点に活動する日本人バンドが、逆輸入という形で日本に新しい風を吹き込んでいますが、そういったバンドの活躍も意識していましたか?

K:それはあまりないです。そもそも日本で知名度を上げる気がなかったし、日本に強いサイケのシーンがあるわけでもなかったので。思い切って海外でやってみようかなって思って。

ー日本人がドイツ発祥であるクラウトロックをやっていることを、現地の人はどう受け止めていますか。

K:インパクトというか、すごい不思議なんだと思うよ。お客さんで70年代にそういうバンドを生で見ていたおじさんとかがいて、興奮して話しかけてきてくれる(笑)。日本人のミュージシャンだっていうことで珍しがられることは確かにあるけど、やっぱりバンドとして、まずは音楽がかっこ良くないとっていうのは思う。あと、サイケデリックロックが好きな人って、もともと仏教やアジアの文化に関心がある人が多い。

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ストーナーが集まるフェス

ークラウトロックではCANのダモ鈴木さんが有名ですよね。

K:当時のシーンに日本人のヴォーカルがいたっていうのは、クラウトロックに興味を持つきっかけになったし、大きい存在だよね。

Roadburn』でのダモさんとの共演も話題になりましたね。共演してみていかがでしたか?

K:Roadburn』はストーナーが集まるフェスなんだけど、幾何学模様とアメリカのサイケバンドのEARTHLESSが東洋と西海岸のサイケバンドを紹介するっていう企画が持ち上がって、そこでダモさんと共演することになったんだよね。ライブ中のことはあんまり覚えてないんだけど(笑)。 

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ただ、全部が自由な即興っていうよりは、その時はストーリーをイメージして弾いていたと思う。ダモさんと共演しているバンドは結構いるけど、どのバンドも少し新しい要素とか、面白い楽器が入ってて。僕たちは当時の感じを再現したいっていう気持ちが強かった。メンバーで共有できているものがどれだけあるかってことが大きかったと思う。

あと結果的にFuzz Club(ファズクラブ)っていうUKのレーベルからライブEPを出せたのもうれしかったかな。

ー4回目のヨーロッパツアーを終えたばかりですが、精力的なライブをこなされていますね。この瞬間が自信になった、というようなエピソードがあれば教えてください。

K:回を重ねるごとに自信はつくかな。最初のヨーロッパツアーで初めて参加したのは『リバプールサイケフェス』。その時に観客が2000人くらいいて。大きなフェスティバルに出ることも初めてだったし、あのショーをこなしたことは自信につながったと思う。それで、もっとヨーロッパでギグをやりたいし、住んでみたい、とも思うようになったよね。

ベルリンはやっぱりエクスペリメンタルとかダークな音楽が人気

 ー先月のベルリンでのライブはソールドアウトでしたね。

K:そうそう、いろんな人が来てくれて。地元でソールドアウトっていうのもうれしかったし、ベルクハインのライブハウスで演奏できたこともうれしかった。感慨深いライブでした。

ードイツの音楽シーンは最近どうですか?

K:最近のシーンかあ、難しいなあ(笑)。音楽シーン自体は常に盛り上がっていて、毎日いろんなイベントもあるしそれは刺激になるよね。

それに、ガレージとかパンクのシーンは根強くあると思う。好きな人はずっと好きみたいな。でもベルリンはやっぱりエクスペリメンタルとかダークな音楽が人気で、みんなBoy HarsherとかSoft Moonとか好きなんじゃないかな(笑)。

インディー寄りなエレクトロとかだとShamelessみたいな、ダークな感じだったらaufnahme + wiedergabeとかmannequinっていうレーベルがオーガナイズしているイベントがある

ー南ドイツの作る音には、ロックのフィールドを超えたいろんな要素が詰まっていると思います。

K:それは意識して作ってますね。僕自身いろんな音楽が好きだし。レアグルーヴ、1970年代のディスコ音楽、ハウスだったり。クラウトロックっていう分野の中にもそういうフィーリングを感じることもある。ミニマルな要素であったり、リズムに焦点を置いているスタイルのクラウトロックもたくさんあるし。それをうまくブレンドできたら面白いかなと思って、やってます。

ー今後サイケやロックといったジャンルを超えてダンスミュージックの領域に入っていく可能性もある?

K:そうだね。もともとテクノやハウスを聴いていたから、ゆくゆくはそっちの方面にもいってみたいと思ってる。ベルグハインでのデビューも目指してますよ(笑)。

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日本のシーンからいいバンドが世に出るのは大変なこと

ー日本の音楽シーンについてはどう思ってますか?

K:うーん、あんまり興味がないです。知らないから偉そうに言えないんだけど、なんとなく日本人がよくかっこいいと思う海外の感じっていうのが、あんまり面白いと思わない(笑)。

音楽シーンについてはあんまり知らないから言えないけど、システムの話だと、特に若いバンドは、ギグをやること自体が難しかったりするでしょ。例えばバンドがライブするとき、いまだにヴェニューに高いお金を払わないといけないノルマがあったりする。個人でやってるブッカーとかプロモーターが少ないから、ミュージシャンがそのお金を負担しないといけない。ミュージシャンでいることが大変だと思う。ただお金さえ払えれば、ライブができるっていうのもどうかと思うけど。

ヨーロッパだと、やる側とヴェニューの間にプロモーターが入るのは普通のことだし、アーティスト側へのリスペクトっていうか、演奏をした人に少しでもお金を払う、っていう文化があるよね。日本は全く逆だから、日本のシーンからいいバンドが世に出るのは大変なことだと思うよ。

ー改善点アリ、ということですね。

K:そうですね(笑)。 

ーもうすぐ幾何学模様とのアメリカのツアーも始まりますね(※2019年10月よりツアー中)。

K:友達のバンドと一緒にアメリカをまわれるっていうのは夢みたいな話だよ。あとはアメリカに行くのは初めてだし、どんなところか映画でしか観たことがなかったから、単純に楽しみ。アメリカでもぶちかましたいです!(笑)。

ー最後に何かリリース情報などあれば教えてください。

ここ1、2年はダーク・ウェイブとかミニマル・ウェイブを聞いていて。The KVBっていうデュオの人たちがいるんだけど、去年出た彼らのアルバムの中からどれでもいいから1曲リミックスしてほしいっいわれて、最近出た新しいEPに、リミックスで参加してます。

あと、スウェーデンのHöga Nordっていうレーベルから自分たちの新しいEPが出ていて、ミュージックビデオを作ったから、チェックしてください。

南ドイツ(Minami Deutsch)

2014年にフロントマンであるKyotaro Miulaを中心に東京で結成されたクラフトロックバンド。2015年にイギリスのCardinal Fuzzより1stアルバム『Minami Deutsch』をレコードでリリース。また日本人サイケデリックバンド幾何学模様が主宰するレーベル、Guruguru Brainよりカセットテープを同時リリースした。その後初のヨーロッパツアーを敢行し、UKで行われたフェスティバル、『Liverpool International Festival of Psychedelia』への出演を果たすなど注目を集める。2018年にGuruguru Brainから2ndアルバム『With Dim Light』をリリース。アメリカの音楽誌 Pitchforkに取り上げられるなど話題になる。同年に行われたオランダの『RoadburnFestival』ではCANのダモ鈴木との共演を果たした。

公式サイト

Tumblr

http://minamideutsch.tumblr.com/ 

Instagram

https://www.instagram.com/minamideutsch/ 

Twitter

https://twitter.com/minamideutsch

ライター プロフィール

須賀華呼(すが・はなこ)

東京のさまざまなアンダーグラウンドなヴェニューでイベントをオーガナイズし、現在はバルセロナに在住。DJ活動をメインに、翻訳家、フリーライターとして、カルチャー記事を発信中。

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