マイカ・ルブテ(Maika Loubté)
SSW、トラックメーカー、DJ。
タイムアウト東京 > 音楽 > インタビュー:マイカ・ルブテ
ニューアルバム『Closer』を2019年7月12日に発表し、初めてのスペインツアーを終えたばかりのシンガーソングライター、マイカ・ルブテ(Maika Loubte)。スペインという異国の地でも驚くほど堂々としたライブパフォーマンスを披露し、オーディエンスを圧倒した。
幼少期から10代までを、日本とフランスの地で過ごしてきた彼女は、「小さい頃からどこにいてもちょっと浮いている存在だった」と語る。英語とフランス語、日本語で歌われる彼女の音楽は、エレクトロニクスでもロックでもない。もしくは、その要素を全て兼ね備えた良質なポップス、と表現するのが正しいのかもしれない。シンセサイザーをメインに織りなされるみずみずしくコズミックなサウンドと、透き通ったボーカル。繊細なのに、どっしり聞き応えの楽曲たち。「本物の音楽ファン」を魅了し、日本のミュージックシーンではちょっと特殊な存在として注目を集めるマイカ・ルブテを、ツアー先のバルセロナでキャッチした。
スペインでのライブの様子
ー初のスペインツアーはどうでしたか?
とっても楽しかった!スペインのオーディエンスはノリがいいっていうのと、あと自分に正直な人が多いっていう印象でしたね。つまらないと、はっきりつまらない顔をするし、楽しいとめちゃくちゃ盛り上がる。熱量が高いというか、自分が投げかけたのをちゃんと返してくれるって印象。その分すごく感激しました。
ー今回のツアーのきっかけは何だったのでしょうか?
「CERO EN CONDUCTA(セロエンコンドゥクタ)」っていうバレンシアのイベントオーガナイザーチームの人が、私の曲をどこかで聴いてくれて。気に入ってくれたっていうのがきっかけです。Instagramから突然オファーが来たんです。彼らすごく若いのにストイックにいろんなアーティストを世界中から呼んでて。情熱と実行力に感心しました。本当に彼らのおかげで貴重な体験ができました。
ージャンルにとらわれず「本物の音楽好き」が、ライブに集まったように感じました。リスナーの層はどんな人が多いですか?
ライブに来る人は女の子も多いですね。なんか、面白いことにオーガニックが好きな人とか、多かったり。あと、意外とロックが好きな人が多い。もちろん電子音が好きな人も来ますし。でも大きくいうと、音楽が好きな人が多いかな。
スペインでのライブの様子
ーマイカさんのバックグラウンドについて教えてください。
日本で生まれて、その後すぐにフランスへ渡ったんです。4歳から10歳まで日本で過ごして、その後10歳から15歳まではフランスで過ごしました。そのあとは少し香港にいた時もあるけど、それからはずっと日本ですね。
ーフランスと日本を行ったり来たりしながら受けた音楽的影響はありますか?
もともと5歳からクラシックピアノを習っていたんです。コンクールのために地方まで行ったりとか、パリ国立高等音楽院の入学試験を受けたりとかも。10歳の頃、2度目のパリ移住の時は、言葉がわからなかったっていうのもあって、ピアノを弾く事で自分の自尊心を保てたというか。人にはできなくて自分にできること、みたいな。ピアノを弾けることが助けになってて。それでなんか、ピアノが上手だねっていうことでクラスの中にちょっとだけ溶け込むことができたり。支えであったりコミニュケーションの手段でしたね。
ーそれはハードな経験ですね。もともと音楽の最初の入り口はクラシックピアノだったと。
そうですね。でも、クラシックをやりながら、ポップスへの憧れは無条件にすごくありました。例えばポンキッキーズの曲とか。ポンキッキーズの曲を聞いて鳥肌立つような子どもだったんですよ(笑)。
ー子どもの頃から音楽に敏感だったんですね。
父親がクラシックの大ファンで。クラシック以外だと「ピンク・フロイドとジミーヘンドリックしか聞かない」みたいな音楽へのこだわりと偏りが強い人で。だから自分が興味あるポンキッキーズの曲だったりとか、ジュディ・アンド・マリーの曲だったりっていうのを家で大きい音でかけるのがなんとなく恥ずかしかったんですよね。
ークラシックピアノから、自分で作曲するようになったきっかけはありましたか?
14歳の時に行ってた学校のクラスにとっても歌が上手な子がいて。その子と曲作りをしたことがきっかけですね。ピアノができるってことで、「何か曲を作って!」ってノリになって。そこから独学で曲を作るようになりました。それからどんどん曲作りの方にのめり込んでいきましたね。
ーそれがきっかけで、クラシックからポップスの道に入っていた感じなんですね。電子音楽へ移行したのはなぜでしょうか?
電子音楽を作るようになったのは、香港から東京に引っ越してからです。実家の近くにハードオフがあったんですよ(笑)。 そこで激安のシンセサイザーを購入したことがきっかけですね。当時はまだアナログの楽器が安くて。当時はRolandのJuno-106とか1万円台で買えたんですよ。そういったシンセサイザーを集め出して、バイト代は全部アナログシンセにつぎ込んでましたね(笑)。
スペインでの様子
ー新しいアルバム『Closer』について教えてください。
今回のアルバムは、制作しながら今まで以上にディープでパーソナルなものに仕上がっていきました。『Closer』っていうタイトルも、それを反映させてて。みんな体験したことのある、表面から見ただけでは見えてこないことや、本当に近づいた時にしか分からないような感覚を表現しています。そういった言葉では表せない「近い距離感」のことを今回の作品で表現していて。ジャケットのドアップの写真も、そういった意味があります。
ーマイカ・ルブテの音楽は電子音楽として扱われることが多い?それともポップスというジャンルですか?
オルタナティブポップスという扱いになってるのかな。超メインストリームなポップスでもなければ、クラブでガンガンかかる四つ打ち音楽でもない。そのポジションがないというか。
ー今の日本の音楽シーンはカテゴライズされすぎていると思う?
今の日本は音楽のシーンがはっきりしているというか、分かれているとは思います。でも、日本にも、自分の耳で音楽を聴いて、自分から掘っていく人はたくさんいるんですよね。そういう人にとって本当に深く刺さる音楽を作っていきたい。私は曲を先に作って後から歌詞を付けているんだけど、英語に合う曲は英語の歌詞を付けるし、日本語でも曲を作る。だから日本では「洋楽」って扱いになったりするのだけど。
ーそうなんですね。その辺について感じることはありますか?
今はインターネットもあるし、音楽業界もよりグローバル。そういった意味では、土着が正解じゃなくなってきてるというか。あと、トレンドや流行もあると思うけど、みんなで似たようなものを作ってその時に盛り上がっても、最後それが誰かに届いて何年も聴き続けられるのかっていうと、そういう音楽は少ないかもしれない。私はやっぱり、聴いてくれた人が歳を取っても、良いと思えるものを作りたいって思う。どこの国にもあるんだと思うんだけど、音楽についてのワクワク感っていうのを大事にしたいなと。
ーこういった編成でライブをしてみたいなど、考えたことはありますか?
今までずっとソロで、機材と自分っていう感じのセットでやってきたんだけど、電子ドラムの人と私と、バンドサウンドではないけど、ミニマムなバンドセットでやってみようって企画してます。8月21日に渋谷のWWWで行うライブ『Maika Loubté solo show Closer』はそういったより視覚的にフィジカルな編成になる予定。照明と演出にもかなり力を入れています。
ー最近ハマってる音楽や、新しい音楽を探す時のツールを教えて下さい。
結構、Shazamを使ってますね。どこかで聴いて気になった曲や、自分のフィルターに直感的に引っ掛かってきた曲たちっていうか。Spotifyのプレイリストもそうだけど、ジャンルで固定されたリストは一切聴かないかな。アーティストだと、一緒にツアーを回ったカビリア(Cabiria)の曲はとても良いのでオススメです。
ー今後の活動のビジョンは?
やっぱりもともと、自分の音楽や存在自体が浮いてるっていう気持ちがずっとあったんですね。日本でも、フランスでも。自分がどこかに根付けるものなのかってずっと思ってて。でも最近は、コレだ、っていう自信というか、もっと浮いててもいいじゃない、って思えるようになって(笑)。今はインターネットもあるし、ボーダレスに活動したいし、自分の音楽を聴いてくれる人も増えてる。スペインにも、また来たいですね。
マイカ・ルブテ(Maika Loubté)
SSW、トラックメーカー、DJ。
須賀華呼(すが・はなこ)
東京のさまざまなアンダーグラウンドなヴェニューでイベントをオーガナイズし、現在はバルセロナに在住。DJ活動をメインに、翻訳家、フリーライターとして、カルチャー記事を発信中。
ロンドンを拠点に、学生でありながら映像作家として活躍する「UMMMI.」こと石原海。彼女にとって初の長編映画『ガーデンアパート』が、テアトル新宿を皮切りに、2019年6月7日(金)から全国で順次公開中だ。同作は短編作品『忘却の先駆者』とともに『ロッテルダム国際映画祭 2019』のBright Future部門に選出されたことも記憶に新しい。
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