インタビュー:井出辰之助

富士山麓に「フェス作り」の粋を集めたFUJI & SUN、その裏舞台

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WOWOWによる初めてのキャンプインフェスティバル『FUJI & SUN』が、富士山こどもの国にて2019年5月11日、12日に開催された。制作を担当したのは、主催メンバーでもあるインフュージョンデザインだ。主に音楽やアートを用いた企業イベントの企画やプロデュース、コンサルティングを手がけてきた同社は、『TAICOCLUB』『GreenRoom Festival』『Project FUKUSHIMA!』といった有名フェスティバルを裏で支えてきた、いわば「フェス請負人」だ。

『FUJI & SUN』はそんな同社が自ら主催者側に立ち制作を行なった、まさに満を持してのイベントだった。内容はライブやDJだけでなく、本格的なアウトドアアクティビティや富士市のグルメの紹介、土着の芸能文化を紐解くトークセッション、映画上映など多岐に渡った。

実際に、イベントは初年度とは思えない完成度の高さで、家族連れも音楽ファンも満足させる内容だった。本記事では、インフュージョンデザインの代表取締役・プロデューサーの井出辰之助に、同社の「ケジメの一発」としてスタートさせたという『FUJI & SUN』のコンセプトと、「フェスを作る」ための真髄を語ってもらった。

ブッキングは戦略的に

ーまず、テレビ局であるWOWOWが音楽フェスティバルを開催することが意外でした。

僕はWOWOWに業務委託として関わって今年で5年目になります。呼ばれた理由としては、WOWOWがこれまでオリジナルコンテンツをあまりやってこなかったこと。特にフェスには手を出してこなかったのでやってみよう、という話のなかで声をかけていただきました。

一ロケハンを重ねるなかで富士山こどもの国を会場に選んだそうですが、富士市からはすぐに協力が得られたのでしょうか。

ロケハンをしてこの場所に惚れ込んでから会場として本決まりするまで約2年かかりました。

会場を借りるにあたって、何度も富士市に通って信頼関係を深めていきました。当初は正規の使用料を支払った上で使わせてもらうかたちでお話をいただいたのですが、私たちがやりたかったのは本当の意味で地域に根ざしたイベントで。富士市の新しいお祭りを一緒になって作りましょうという気持ちを伝えさせていただき、最終的にはお互い持ち寄れるものは持ち寄ろう、というかたちに落ち着くことができました。フェスをやる上で、会場となる地域との協力関係を築けるか否かが最も重要なことと考えます。

吉原山妙祥寺の副住職さんがジャマイカンミュージックのセレクターとして日本でも有名な方で、ぜひ『FUJI&SUN』で地元の音楽のルーツを語ってもらいたいと思い、トークショーに出演していただきました。 この富士市で長く継続していくことが目標なので、地元に愛されるフェスになれるよう心がけました。

一お客さんは、どういった層をターゲットにしているのでしょうか。

やはり30〜50代で昔クラブとかでちょっと遊んでいた人たちが、子供を連れても遊べるように。アクティビティやワークショップの内容は、個人的に山にハマっていることもあり、自然から学んだり気づきを得ることができるような内容にしたかった。『NEW ACOUSTIC CAMP』にも関わっていたので、キャンプやアウトドアに対する需要も把握していました。あとは、仲間たちとたくさんのフェスを作ってきたこの20年間の総決算でもあります。

ー出演アーティストのラインナップは、通好みなクラブミュージックとメジャーなライブアクトとがバランス良く配されています。

初日のトリを飾ったエルメート・パスコアール&グループ

そうですね。ブッキングに関してはバランス感覚を重要視しました。まずエルメート・パスコアールを軸にして、彼に影響を受けたアーティストに出演依頼をしていった、という流れです。今は春でも競合のフェスが多いので、初開催の我々は、キュレーションは特に慎重に進めないといけない。

受注仕事ではないものを

一なるほど。集客はどうだったんでしょうか。

初日は3000人、2日目が4000人くらい。集客はもちろん多いほうがベストですが、お客さんは実はこれくらいがゆったり楽しめるのかも。とにかく晴れて富士山がみえたらそれで成功と思っていました(笑)。今年が成功したので来年はきっとより多くのお客さんが集まってくれると思いますが、このゆったりした雰囲気はなくさないようにしたいです。

一今回、音楽面のプロデュースに『Frue』が参加していますね。

『Frue』の主催者のアニ(山口彰悟)とは、僕の業界デビュー戦となった『True People's Celebration』(2002、2004~2006年)からの繋がりです。僕は2006年くらいから興味が音楽から温泉に移っちゃってたんで(笑)、アニにもブッキング面やPRなどいろいろ協力してもらいました。今後もブッキング協力はしてもらって、今までのフェスにはなかなかないユニークなラインナップを揃えたいと考えています。

一インフュージョンデザインは『Greenroom Festival』や『TAICOCLUB』といった人気フェスティバルも立ち上げから裏方として支えてきました。『True People's Celebration』の時代と現在で、制作における違いは何ですか。

『Greenroom Festival』や『TAICOCLUB』での仕事を通して、沢山のやり方を学ばせてもらいました。ほかにもさまざまな形でたくさんのイベントと関わってきましたが、長続きするイベントにするには大変な努力が必要なので、我々もこれまでのような受注仕事からシフトチェンジして、自分たちが主催するイベントをやりたいという思いに至り、『FUJI&SUN』では主催に名を連ねさせてもらいました。なので、このフェスはケジメの一発だと思ってます。

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点と点が線になる瞬間

一主催者の1人として、『Fuji & Sun』をどんなフェスにしたいと考えていますか。

お客さんにも現場スタッフにも、可能な限り自由度を高めたものを提供したい。点と点だったアーティストとお客さんとスタッフが線になる瞬間が稀にあるんですよ。その瞬間を感じるときはもう、最高ですよ。

一具体的にいうと、どんな状況でしょうか。

例えばライブで、アーティストがちょっと風邪気味でダウン気味だとします。そういうものってお客さんに影響するから、客席の感じもなんか沈んでると。

でも、チケットのもぎりのスタッフのハイテンションな「こんにちは!」という挨拶ひとつから、今度はプラスのバイブスがお客さんへ、さらにアーティストへ伝播していったりすることが本当にあって。たまにあるこういう瞬間が、最高に気持ち良いですね。

プロだけで固めない

一インフュージョンデザインが関わっているイベントは、スタッフのホスピタリティや設備、導線の作り方など、安心感があります。スタッフは経験値を重視しているのですか。

経験値よりもまずこのイベントが好きか、関わりたいか、という気持ちを重要視しています。百戦錬磨のスタッフだけでなく、ボランティアさんなどさまざまな人たちがいるチームにすることで、フラットな視点が生まれるし、現場がなごやかになる。プロだけで固めちゃうと必要以上の緊張が生まれてしまうことがあります。強弱のバランスが大切ですね。

『FUJI&SUN』は、アーティストも裏方もお客さんも、皆が当事者意識を持って一緒に作り上げたみんなのフェスだと思っています。僕がまとめ役としているかもしれないですけども、その感覚はなるべく守りつつやりたいと思います。

一音楽フェスはバブルが弾けて、現在は淘汰の時期とされていますが、井出さんの今後の見通しを教えていただけますか。

様々なフェスが乱立していますが、今は『TAICOCLUB』が終わって『FFKT』になり、福井では新たに『ONE PARK FESTIVAL 2019』がスタートしたり、『森、道、市場』のような音楽だけではないスタイルが確率されたり、徐々に新潮流が生まれているなと、肌で感じています。

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歴史の架け橋になること

一そのなかで、フェスをやる意義とは?

最近よく話しているのは、やはり伝承をしないとダメだ、ということですね。良いと思う音楽、環境、文化を次の世代に繋げていかないと。新しいものと歴史のあるものの架け橋になる、というのは『True People's Celebration』のコンセプトでもあって、そこは引き継いでいきたい。今回出演していただいた矢野顕子さんと林立夫さんは、まさにそういう架け橋になる存在ですよね。

矢野顕子

一フェスをメディアとしても捉えている?

そうですね。今回はWOWOWが母体としてある、というバランスも逆に面白いと思っていて。「WOWOWがこんなことやるんだ」という状況に持っていけたら、僕的には嬉しい。このフェスにエルメート・パスアワールが出演していること自体に大きな意義を感じてます。

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