今回はとにかく彼の名前を知ってもらいたい
ー昨年に続いて2度目の開催となる『Peter Barakan's Live Magic!』ですが、昨年初開催してみて手応えはいかがでしたか。
ピーター・バラカン(以下、PB):手応えはすごくありました。(出演者は)日本であまり知られていないアーティストばかりだから心配だったけれど、蓋を開けてみれば土曜日は売り切れましたし、日曜日もいい感じに埋まっていました。ラジオってはたして何人聴いているかわからないから、みんな来るかな、楽しんでもらえるかなというところがあったんですけど、みんなすごくノリノリで聴いてくれた。なので気を良くして、じゃあぜひ来年もやろう!と言っていたんです。
ー出演者は、バラカンさんの番組リスナーには馴染みがあるかもしれませんが、やはりマニアックと言われてしまうメンツですよね。番組リスナー以外にも届いてほしいという思いはありますか。
PB:あります。番組を聴いていない人で会場に足を運んだ人は少ないとは思います。なかなか宣伝できる場が少ないんですね。日本のラジオはあまり洋楽をかけませんから。Inter FMもずいぶんJ-Popが増えました。僕はもう編成にはまったく関わっていないですから。なかなか難しい。
ーいわゆる洋楽離れは実感されるところですか。
PB:触れないから知らない、知らないから買わない、聴かないという、これは当然のなりゆきです。あっちこっちで耳に入っていればね、聴くようになるでしょう。朝のラジオ(2014年9月に終了した『バラカン・モーニング』)って通勤前に自然と聴いてもらえたんだけど、今は日曜日の2時間だから、なかなか聴く環境がないみたい。だからイベントの宣伝もがんばってます(笑)。『Live Magic!』のサポーターズナイトのアーカイブも公開されているので良かったらぜひ見てみてください。
ー出演アーティストをいくつかピックアップしてお話をお聞きしたいんですが、まずはオーストラリアのグルムル(GURRUMUL)。今回初めて知ったんですが素晴らしい歌声ですね。
PB:本当に、心が穏やかになるというか洗われるというか。
ー彼はオーストラリアの先住民なんですか。
PB:そう先住民。彼が話している言語は、おそらく数百人しか話していない言葉で。ほとんど誰もわからないんです。彼のバンドのベースをしているマイケル・ホーネン(Micheal Hohnen)が彼の友達であり代弁者であり通訳でもあるんですが、インタビューなんかも彼が答えている。言葉が通じないだけでなく、すごくシャイなんです。白人とほとんど関わらないような奥地で育ってますから。
彼は生まれつき盲目なんです。さらに左利きなんですが、右利きのギターを弦を張り替えずそのまま弾いているんですね。目が見えないから、多分初めてギターを手に取ったときからその姿勢で、独学で弾き方を編み出したんでしょう。アルバート・キングなんかもそうですね。
ーどんな活動をしてきた人なんでしょうか。
彼は昔にヨス・インディ(Yothu Yindi)というオーストラリアのバンドにいて、これは国際的にアルバムが出たりしていました。彼の2008年のソロアルバム(邦題『神秘なる大地』)はオーストラリアのレコード産業協会賞のインディー部門で最優秀アルバム賞を受賞して、オーストラリア国内ではかなり話題になっていて、2012年の『エリザベス女王即位60周年記念コンサート』で、女王の前で歌っているんですね。アメリカでは今年にアルバムが出て、オバマ大統領の前でも歌う機会もあったようです。ちょっと意外でしたがクインシー・ジョーンズが絶賛したりもしていて、彼の声は聴けば誰もが反応するでしょう。
私は聴いた途端に、この音楽は東北の被災地の人たちにぜひ聴かせたいと思った。彼の歌だったら、洋楽、邦楽ということを関係なく聴けると思う。メロディーもポリネシア風で少しハワイアンみたいでね。全国で流せば彼は日本でもスターになれるんじゃないかな。「癒し」というと陳腐だけど、彼の声にこそ本当の癒し効果があると思う。あの声にはα波が充満している(笑)。今回はとにかく彼の名前を知ってもらいたい。
ー昨年も思ったのですが、『Live Magic!』のラインナップは日本では無名というだけで、分かりにくいものという意味でのマニアックとは違いますよね。
PB:人が知らないっていうだけのことなんです。なぜ知らないかといったら、誰も聴かせてくれないから。今、普通の音楽好きでもCDを年に10枚買えばいいところだと思う。ほかにどういう(音楽との)出会いの場所があるかといえば、昔だったらラジオがあったし、テレビや雑誌もありますけど、今だったらインターネットでしょう。でもインターネットはなんでもあるけれど、自分から率先していかないと分からないでしょ。ストリーミングだったらプレイリストがあるから、誰か自分の気に入った人をフォローすればいいというやり方がある。そうして、なにかの推薦があって初めて(未知の音楽を)知るというのは、当然のことです。知らないからマニアックなだけ。
今年も、去年来て良かった人は今年も絶対楽しいですからぜひ来てください、ということは言いたい。ちょっと話題になっている出演者では、キューバのダイメ・アロセナ(Dayme Arocena)。彼女はジャイルズ・ピーターソン(Gilles Peterson)が発掘した人で、それから注目されています。強烈な歌手です。
ーダイメの声を初めて聴いた時はどんな印象でしたか。
PB:びっくりしましたよ。彼女まだ23歳ですが、ジャズのセンスもあるし、アフロキューバンな感覚がすごくある。クラシックの素養もあるからすごく丁寧に歌う。スキャットするときはものすごい存在感。ただ者じゃないです。