所作ではなく内面を深掘り
ートランスジェンダー監修とは、どういったことをされたのか教えてください。
若林:まず、脚本から参加して、トランスジェンダーに関するセリフや所作表現の監修をしました。具体的には、脚本の段階で「この描写は、観客に対してミスジェンダリング*を誘導してしまう可能性があるという指摘や、LGBTQ+インクルーシブディレクターのミヤタ廉さんとも話し合い、小説を映画化するに当たってどんな表現なら誤解を生まず当事者のリアリティーや物語を届けられるのかということを共有していました。
* 性別を誤認させるような表現、トランス男性を女性のように扱うなど
脚本ができた後は淳ちゃん(志尊)と一緒に、安吾という人物を深掘りしていきました。安吾はこういう経験をしているだろうから、このセリフの言い回しはこうなるんじゃないかなど、具体的な提案をさせていただきました。
美術やビジュアルなどにも及びました。安吾は自身がトランスジェンダーであることのコンプレックスが強い人だと感じていたので、きっと体にもコンプレックスを抱き、より男性的な体になるために日常的に筋トレをしていたのではないかと思い、「美術に筋トレグッズ入れるのがいいのではないか」と提案させていただいたり、あごひげも含めて安吾に関わることにはほぼ全て関わらせてもらいましたね。
ー志尊さんが当事者のあごひげへの逡巡(しゅんじゅん)を理解した上でつけられていたのには驚きました。
志尊:本作に限った話ではなく、役を演じるにはその役がどんな気持ちを抱えて、どんな表情をするのか、1シーンごと深掘りしないと演じることはできません。ひげも、佑真くんから言われるがままにつけたわけではなくて、ひげの長さ・幅など、佑真くんと僕で悩みながら選んでいったんですよ。
若林:ミリ単位でね。めっちゃ時間かかったよね。
志尊:何回もテストしてみて「いや、ちょっと幅が広くないですか」など相談して。
若林:ひげの感じはめっちゃ話し合いました。「議論しよう」ではなく、自然に、楽しく。淳ちゃんに似合うあごひげの形を、みんなでワイワイ盛り上がりながら考えたんですよ。
というのも、トランスジェンダー男性にとっては、ひげって他者から男性として認識してもらえる武器みたいなものでもあると思いますし、僕自身も生えてきた時はすごく嬉しくて。整えるのがめんどくさいこともありますが、そういった感情さえも”男性”を感じれる瞬間なので、そう言った意味できっと安吾も、毎日楽しみながらひげの形を整えていたのではないかなと思ったんですよね。淳ちゃんは、そういったことを伝えるためにあのInstagramストーリーズをアップしてくれたの?
志尊:僕は軽い気持ちで答えただけなんだよね。あんまり重く捉えてほしくなかったから。最初は「作品を観てもらえればいいや」って思ってたんですけど、ひげへの指摘を「たいした問題じゃない」と思われたままにしていることで、傷つく人もいるかもしれないなと思ったんです。
観てくれた人の中には「好きでやってるのなら、周りに何を言われても関係なくない?」という反応もあったんですが、「周りが言わなくてもいいことをわざわざ言うことで、傷つく人もたくさんいるんだよ」ってやっぱり伝えたかったんですよね。