脳損傷から人間力を回復させる
脳卒中やそのほかの脳障害を患うことは、その人のキャリアを絶たせたり、特に高齢の場合、残りの日々を寝たきりで過ごすことを意味したりする、人生を変える出来事になることが多い。急速に高齢化が進む日本では、脳の疾患によって体が動かなくなり、介護に頼るようになる人の数は、ほかの先進国と比べてもすでに際立って高いが、さらに増加している。
しかし、適切な治療とリハビリテーションプログラムによって、脳損傷から人間力を回復することは、人生の後半であっても可能である。日本では、この刺激的なメッセージの最も影響力のある提唱者の一人が、東京のねりま健育会病院の院長であり、脳リハビリの第一人者である酒向正春である。
酒向の「攻めのリハビリ」とは、できるだけ早い時期にリハビリ訓練を開始し、日中は臥床(がしょう)させずに心肺機能を向上させ、心肺機能に最大限の負荷をかけて運動機能とともに精神・認知機能を高めるリハビリ治療である。まず活動的な生活の鍵となる座位・立位と歩行能力を回復、次に活動能力・筋力・体力・コミュニケーション能力を向上させ、病院外での社会生活に復帰させることを目指すものである。