アフリカの獣たちは意味を考えて飯食ってるわけじゃない
―本作『タロウのバカ』がまもなく公開するということで、おめでとうございます。なかなかインパクトのある映画でした。大森さんに質問させていただきたいのですが、なぜこういった内容の作品を制作しようと思ったのでしょうか。
大森:僕、1970年代生まれなんですけど、日本が戦争に負けた後に高度経済成長期の中で生きてきたんです。なんというか、経済的には発展して行くんだけど大事なものが失われちゃっているんじゃないか、という思いがずっとあって。今はもう2019年ですが、原発が爆発したりとか。この行き詰まってる社会の中でもう少しだけ幸せに生きる可能性を見つけられるかもしれないという思いがあって、こういう映画を撮ったんですね。
ー出演している俳優さんたちの熱量も伝わってきました。
大森:基本僕は俳優がすごく好きなんです。俳優がすごく好きというのは、映画を作るときって、脚本を書いたりカメラワークを考えたり論理的思考をしないといけないじゃないですか、日常生活でも。でも俳優は人と人と向き合ったときの体温とか熱量で演技できる。そういうものを基本的にものすごく信用しています。特にYOSHIは熱量だけで演技していました。もちろん演技の経験もなかったですしね。
YOSHI:何にも分かんなかったよ。
大森:よく、こう例えるんですけど、アフリカの獣たちは意味を考えて飯食ってるわけじゃないって。映画の中でも、意味からずれていったとき、(意味が)なくなったときに生物そのものの何かが見えてくる。そういう瞬間を撮りたいんです。そこにいつも、僕たちが生きることの大事な何かが隠されているんじゃないかって思っているんですよ。
―YOSHIさんは演技経験がなかったということですが、準備はしましたか。
YOSHI:稽古だったよね。最初なにやったっけ?やっぱり人に気を遣っちゃうんだよね。単純に気を遣うのはアレだから、とりあえず怒ってみようってなって(笑)。
大森:そうだったよね。
YOSHI:まず「怒る」ということをやってみて。(怒らせるために)稽古でバーンって押されたとき、体重が軽いんでスーって飛んじゃって、おおーってなって。そういう稽古を重ねて、ちょっとずつ台本のシーンとかもやり始めて。初日はだいぶ心配だったんですけどね(笑)。で、ワンカット目をやってみて、「これはいける」と思ったんですよ。
―なぜその瞬間に「いける」と思ったんですか。
YOSHI:自分の中でワンカット目っていうのは、とても大事だと考えていたんです。できなかったらバランスが崩れると思っていて。それで演じてみたら、ありのままの感情が出せたから良かったです。
―割と長いカットがあるんですけど、そういったシーンの撮影はどうでしたか。
YOSHI:一番長いのはどれだったかな?公園で拳銃を打つシーンかな?これが面白くて。11時に入って夕方までやる予定だったんですよ、なかなか終わらないと思って。そうしたら3カットくらいで終わっちゃった。相当早かったですよね。意外とできてしまったという。