塚本晋也(Photo:Yuki Nakamura)
塚本晋也(Photo:Yuki Nakamura)
塚本晋也(Photo:Yuki Nakamura)

インタビュー:塚本晋也

塚本晋也に聞く、マーティン・スコセッシの『沈黙-サイレンス-』

Mari Hiratsuka
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タイムアウト東京 > 映画 > インタビュー:塚本晋也

インタビュー:平塚真里
写真:中村悠希
 

マーティン・スコセッシ監督が1998年に原作を読んで以来、映画化を熱望してきた、新作『沈黙-サイレンス-』がついに完成した。遠藤周作のキリスト教文学を原作とする同作品は、江戸時代初期に日本を訪れたポルトガル人宣教師たちの視点から、キリスト教弾圧の内面を、文化の衝突や信仰のあり方の違いを交え、人間の弱さ、神の不在を問う作品だ。本作で、敬虔なカトリック信徒のモキチ役を演じた、映画『鉄男 TETSUO』、『東京フィスト』、『野火』などの監督としても知られる塚本晋也に本作への思いを聞いた。

スコセッシ監督のためだったら何でもやると、「スコセッシ教」を作りました

映画『沈黙』に出演された経緯をお教え下さい。

NHKのドラマで英語の先生役を演じたのがきっかけだと思うのですが、オーディションのオファーが来ました。詳しいことを聞くとマーティン・スコセッシという最も尊敬する監督の作品ということで驚きました。役自体はオーディションを受けてすぐ決まったのですが、本作に取りかかる雰囲気がなくて……。オーディションでのスコセッシ監督との演技のセッションがあまりにも素晴らしかったので、もう1度その体験したいと思い続けていました。

トモギ村に住む敬虔なクリスチャン、モキチをどのような思いで演じられたのでしょうか。

僕自身は決まった宗教がないので、どう役を作っていくか悩みました。なので、2つの強い思いを持って演じました。1つは、スコセッシ監督のためだったら何でもやると、「スコセッシ教」を自分のなかで作りました。2つ目は、この歳になると将来の子どもたちが心配になるわけで『野火』という映画を作ったんですけど、その子どもたちが大丈夫ですようにと真剣な祈りを込めました。

実際に長崎の枯松神社祭に行かれて、信仰を伝承してきた隠れキリシタンの方々にお会いになったそうですが、現在はどのようなかたちで残っているのでしょう。

今も信仰を守っている方たちがいて、たとえば「田んぼの作業をしてはいけない日」など掟があるのですが、その昔の暦を分かりやすく隠れキリシタンのボスの人が書いて、街のなか一帯で配っていたりするみたいです。「隠れキリシタン」というイメージがありますが、今は宗教が自由なわけで、隠れキリシタンというひとつの宗教を先祖代々やってきて、その先祖の教えを守り続けている人たちですね。

長崎で印象的だった場所はありましたか。

長崎には、オーディションで受かった後にすぐ行って、遠藤周作さんの文学館ですとか、小説のなかに出てくるゆかりの場所や教会をいくつか巡りました。そのどれもがそのときは印象深かったです。今までは文字だけで、初めて見るものだったので、ここがあの場所かと自分の印象のなかに焼き付けていきました。

スコセッシ監督との撮影はいかがでしたか。

自分も映画を作っているので、スコセッシ監督の撮影はどういうものだろうという興味がものすごくあったんですよ。ハリウッド映画というのがまず初めてでしたし、スコセッシ監督という尊敬する人、そしてまたハリウッド映画といっても少し特殊な映画を撮っている人ですから、いわゆるハリウッド映画とも違うんじゃないかと思って現場に行きました。正直言うと、現場自体は日本とすごく違うということはなくて、いわゆる撮影の作り方と基本的な部分は同じでした。なので、「そこ同じじゃん!」っていう、嬉しい感想を持ちました。僕の作品というわけではなく、だいたいの映画の基本的な作り方とあまり変わらなくて。これでいいんだ、このままやっていこうと勇気づけられました。

100回ぐらい撮られたシーンもあると聞きましたが。

スコセッシ監督は何回も同じシーンを撮るんですね、そこが日本の映画と違って贅沢なところですね。監督は編集にもとてもこだわるので、そのときに絶対に足りない素材がないように色んな風に撮っていくんですね。簡単なシーンだったら分かるんですけど、大規模なシーンでも100回撮ったりするんですよ。

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現在塚本さん自身が制作、企画中の作品はありますか。

『野火』という自分にとって大事な映画の後始末が大分片付いてきたところなので、それが落ち着いたらやっと次のことをという感じです。今は『野火』と『沈黙』のことをやらないといけないと思っています。

どちらも長い時間をかけて作ったものですものね。

作品の規模としては、まったく違うものですが、スコセッシ監督も僕も長い時間をかけていますし、両方とも日本の文豪が原作だったり、内容としても少し重いものだったりするので、この2作品は自分にとってとても重要なものです。

本作が与えるメッセージとは何でしょう。

原作者の遠藤周作とスコセッシ監督には、宗教に対しての葛藤や、民族の違いで、なぜ争わなければいけないのかという共通する思いがあって。そして自分は、なぜいつの世も誰かが信じていることを暴力で封じ込めるのかという不条理を感じています。『沈黙』はその不条理なことを、鋭く問うようなメッセージが込められています。

塚本晋也(つかもと・しんや)

映画『鉄男』で劇場映画デビューと同時に、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。主な作品として『東京フィスト』、『バレット・バレエ』、『KOTOKO』、『野火』などがある。製作、監督、脚本、撮影、照明、美術、編集などすべてをこなして作りあげる作品は、国内、海外問わず注目を浴びている。

http://tsukamotoshinya.net

映画『沈黙-サイレンス-』
2017年1月21日(土)より全国公開 

監督:マーティン・スコセッシ

出演:アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ 

配給:KADOKAWA 

公式サイトはこちら
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