©DREAM FACTORY, Travis Wei
©DREAM FACTORY, Travis Wei映画「シャドウプレイ」より
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権力に負けず表現を続けるロウ・イエに聞く、映画「シャドウプレイ」の制作秘話

実話をベースにした「シャドウプレイ完全版」が、2023年1月20日公開

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タイムアウト東京 > 映画 > インタビュー:ロウ・イエ

テキスト:伊藤志穂

検閲と闘いながら、変わりゆく中国の現代を描き続けてきた映画監督、ロウ・イエ。権力に負けず表現を続ける姿勢は、彼のこれまでの作品から見ても明らかだ。

2000年、「ふたりの人魚」は当局の許可なしに「ロッテルダム国際映画祭」に出品したという理由で、中国国内では上映禁止になる。中国では公に話題を取り上げることのできない天安門事件にまつわる出来事を扱った「天安門、恋人たち」(2006年)は、「カンヌ国際映画祭」で上映された後に上映禁止となり、ロウ自身も5年間の映画制作禁止の処分を受ける。それでも自身の描きたいものを貫いてきた彼は、数多くの国際映画祭で高い評価を受けている。

2013年の広州市で起きた汚職事件を巡る騒乱をベースとした映画「シャドウプレイ」では、時代に翻弄される人々の欲望や感情を描き、検閲の難しさと闘いながらも、公開を実現。広州市は、鄧小平(とう・しょうへい)が開始した改革開放(中国国内体制の改革および対外開放政策)で一番の変化をみせた地域であり、本作に登場するシエン村はその変化を象徴する特別な場所だといえる。

本インタビューは2019年の監督来日時に実施、経緯や映画の撮り方について話を聞いた。

素晴らしい演技というのは、演技をしていないということ

ー本作を、改革開放や実際に起きたシエン村での暴動をベースに撮ろうとしたのはなぜですか?

シエン村は非常に複雑な地域です。そこは、改革開放以来の中国社会の縮図ともいえるもので、一つの空間に過去と現在が一緒に存在しているような地域といえます。そこでは、この改革開放の数十年の間に、金銭にまつわるさまざまな事件が起こりました。官僚と実業家の結託などの汚職事件、民衆の戦い、立ち退きの交渉に対する反対運動などです。ですので、僕がこの映画の中で描いたようなことは、この数十年来、頻繁に中国社会で起こっていたことなんですね。

2016年当時、シエン村は映画の中で撮られたような形で残っていたわけですが、今はもうほとんど消滅しています。 まさに僕の世代が、改革開放をバックグラウンドとして青春時代を過ごし、段々と中年に差しかかってというように、人生を改革開放の中で歩んできたわけです。映画『天安門、恋人たち』以降の社会の変化というものが、人生と重なる。そうすると、登場人物が、今この映画の中で中年になったというように、この作品は「天安門、恋人たち」の続編ということもできるでしょう。

ー制作を追ったドキュメンタリーでは、「なぜここでタバコを吸うのか」や、「なぜここを歩くのか」など、「なぜ」これをするのかということにとてもこだわっていらっしゃいました。確かに、人の些細な動きを追う、目線のようなカメラワークだったと思うのですが、どのように撮影をしていたのでしょうか?

役者にその人物になりきってもらうことが重要だと思っています。細かに指示をするのではなく、この人物だったらこういう風に動いてるはずだいうところを、カメラはただ捉えている。役者は、できるだけカメラを意識しないで、人物になりきって動いてこそ自由な幅が出てきます。だからこそ撮影の現場では自由に演技してもらうことを心がけています自分がその人物になりきっていれば、動きというのは自然に作ることができるはずです。

そうはいっても、このような撮り方いうのは動きが急に変わってしまうので、撮影するカメラマンにとって非常に難しい。やっぱり、自然人間の行動を撮ろうとしたら、そういう撮影の方法にならざるを得ないのです。

スタッフによく言うんですが、一番素晴らしい演技いうのは、演技をしてないいうこと。素晴らしいカメラワークいうのは、ライティングやカメラの存在も気にしないで撮るということ。それが一番いいやり方だといっています。まあ、難しくはありますけれど。

時代の変化の中で犠牲になっているのは女性

ー本作のように、現実とフィクションをうまく融合させながら書くのは難しいと思うのですが、脚本はどのように書いているのでしょうか?

僕の作品はいつも同じようなプロセスで脚本を作ります。初稿として、いくつかの部分的な物語を考え、その段階で改革開放をバックにした物語を撮るというのがまず決まりました。そして、ある家族と、個人を描いた作品というのが決まる。

その後、美術がもう仕事を始めます。そして、シエン村に関する多くの写真から、また新たに脚本を組み立てていきました。色々なものを融合させて、最後の脚本を作っています。もちろん現場でもしょっちゅう変更をします。

ー30年間の時代の変化とともに、登場人物たちはステータスや欲へと向かって進んでいきますその中で、暴力を受けたり都合よく切り捨てられてしまったりしたのは女性で、男性や時代から翻弄されていたのは、結局女性だっというように感じました。監督はどのようにお考えですか?

おっしゃる通り、女性が犠牲者になっているという考えに賛成です。

しかし、男性の登場人物であるジャンも、それからタン主任も、実は同じように、この社会が発展していく中での犠牲者です。人間の欲望がそのように追い込んでいくう考えながら人物設定を作り込んでいきました。のことは、若い世代であるヤン刑事にさえいえます。

ヤン刑事は最初、とても純真で颯爽(さっそう)とした青年の雰囲気を持っていますが、彼はだんだんと事件に巻き込まれてい最終的には同じく被害者の一人なってしまうわけです。

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日本人の暮らしをもっと観察してみたい

ー作中でも、日常生活や町の風景を映したシーンを多く見かけました。それは、監督自身が街並みや人々の生活から何か感じ取ることが多いからなのかな、と感じたのですが、東京の町や人々の印象はどうですか。

今回は銀座周辺に泊まっているので、その辺りの日本人しか見ていないし、観察できていません。もし広州に行ってホテルに泊まっているだけですと、その少し離れたところに、シエン村みたいなところがあるいう事が全くわからないのと同じことでしょう

できればそうではなく、自分自身で、もっと本当の日本人が通常どうやって暮らしているのかを知りたいし、観察してみたいと思っています。

ロウ・イエ

中国の映画監督、脚本家。1994年「デッド・エンド 最後の恋人」でデビュー。2000年「ふたりの人魚」を監督する。天安門事件を描いた2006年の「天安門、恋人たち」は中国で上映禁止となり、当局に今後5年間の国内での映画製作禁止を命じられる。同性愛を描いた2009年の「スプリング・フィーバー」は、フランスと香港からの出資を受け、南京で撮影された。2012年「二重生活」が第65回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門のオープニング作品として上映された。

映画「シャドウプレイ 完全版

2023年1月20日(金)新宿k’sシネマ 、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督:ロウ・イエ
脚本:メイ・フォン、チウ・ユージエ、マー・インリ—
撮影:ジェイク・ポロック
音楽:ヨハン・ヨハンソン、ヨナス・コルストロプ
出演:ジン・ボーラン、ソン・ジア 、チン・ハオ 、マー・スーチュン、チャン・ソンウェン、ミシェル・チェンほか
日本語字幕:樋口裕子
配給・宣伝:アップリンク

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