代替手段として配信、逆効果の可能性も
九龍は、100年ぶりの「講談ブーム」の立役者とも言われる講談師、神田伯山のYouTubeチャンネルの監修も務めている。コロナ禍になって活動の場をオンラインに求めたのは伝統芸能の現場も同じだった。そこでは、オンラインでも醍醐味を伝えられる仕掛けを用意できるか否かがポイントになるという。
「松之丞改め六代目神田伯山の真打昇進襲名披露興行が行われたのが2020年の2月。ギリギリ開催ができたタイミングでした。それ以降は、市川海老蔵の『十三代市川團十郎白猿 襲名披露』など、予定されていた大きな公演が延期になってしまいました。すべてが実現したら大きな盛り上がりが期待できただけに、残念でした。
私が監修として関わっている神田伯山のYouTubeチャンネル『神田伯山ティービィー』は、コロナ禍以前から計画されていたものでした。パンデミックが起こらなかったとしても、オンラインでの配信はやろうと決めていたのです。
現場に気軽に足を運べない地域に住んでいる人や、チケットが取れなかった人にも現場の盛り上がりをダイジェストにして届けたい、というのがその理由です。リアルの現場と配信は目的も使い方もそれぞれ異なるもので、すみ分けて考えています。『神田伯山ティービィー』の動画は、配信用にあらかじめ練られた内容を10分前後の長さに編集したものをアップしています。
コロナ禍以降、多くの人がリアルの公演の代替手段として配信を活用していますよね。緊急避難的にはありだと思う一方で、懸念もあります。配信コンテンツはどうしても迫力に欠けます。これまで伝統芸能に親しんできた人たちは、脳内で面白さや魅力を補完できるので楽しめると思うのですが、初めてそういったものに触れる人が見たらがっかりしてしまうかもしれない。芸能の面白さを伝える上で、逆効果になりかねないわけです。
例えば歌舞伎は一演目が1時間半から長いものでは3時間ほどあります。普段、Netflixなどの30分から1時間の尺に編集され、凝縮されたコンテンツを見ている人々に、長尺の中継をじっと見続けさせるのは現実的ではありません。おすすめの演目を見るために、友人を劇場に誘うのと配信を一緒に見るのとはワケが大きく違う。
現場での不意の出会い、例えばそれほど有名ではないが、お気に入りになるかもしれない演者を発見する機会も消失してしまっています。配信ではあらかじめセグメントがされてしまっていて、偶発的な出会いがなくなってしまう。
そういった機会を作るためには、例えば『渋谷らくご』のサンキュータツオさんみたいなキュレーターの存在は重要です。どんな人が出るのかわからないオンラインプログラムを見る人はいないわけで、回ごとの見どころがテキストで丁寧にまとまっているだとか、そういった二次情報、メタ情報が用意されていることが大切になってくる」