Photo: Keisuke Tanigawa
2020年2月11日フラワーデモの様子
2020年2月11日フラワーデモの様子

インタビュー:東京フラワーデモ

性暴力にもう黙らない、主催者の1年間を通した思い

Hisato Hayashi
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2019年4月11日。その前月に相次いだ性暴力事件の無罪判決へ抗議を示すための集会が、東京駅前の行幸通りで決起された。予定されたゲストスピーチが終わっても人々は帰ろうとせず、集まった参加者が一人、また一人とマイクを握り話し始めた。話されたのは性暴力を受けた自身の体験であり、抑えていた痛みと憤りを語る声だった。

その夜を皮切りとして毎月11日に開催されるようになったフラワーデモは、2020年3月8日(日)に一区切りを迎える。現在開催地は全47都道府県だけでなく、バルセロナまで広がる大きな勢いを見せている。フラワーデモは、参加者が勇気を持って語る体験に耳を傾け、寄り添う場所だ。被害者は被害者らしく神妙であれ、と押し付ける社会の風潮は間違いだということが、即座に理解できる場所でもある。フラワーデモ東京支部の主催を担ったメンバーに、一年間を通した活動の思いや、今後の展望を聞いた。

「花を持って集まろう」と呼びかけた声に500人の人々が集まった

フラワーデモのきっかけは、2019年の3月に立て続けに起こった性暴力事件に対する無罪判決への抗議。作家で活動家のラブピースクラブ代表の北原みのり、フェミニズム専門の出版社エトセトラブックス代表の松尾亜紀子が率先し、SNSで「花を持って集まろう」と呼びかけた声に、当日は約500人の人々が集まった。

今回インタビューに応じてくれたのは、ラブピースクラブスタッフの杉田ぱん、フェミニストコメディアンのあきお、イラストレーターの大島史子。フラワーデモ東京支部の主催メンバーとして1年間現場を支えた3人だ。

杉田「デモと聞いて今まで想像していたものとは、違う形で人々が集まろうとしていました。MeToo運動の動きは既にあったけれど、社会がそれをまずしっかり聞き、問題として受け止めていくことが日本ではまだあまり行われていなかった。MeTooのそばにあるべき『あなたは一人じゃない』というWithYouのスタンスを、明確に示すため集まったことが始まりです。

参加者はそれぞれ、当たり前だけど考え方も、生活も、社会的な立場も違う。ひとつだけ同じと言えることは、性暴力にNOと言うスタンスだけを共有していることです。違った人間たちだからこそ集まり、知っていくべきだと思いました

フラワーデモ

当初は、ゲストスピーカーが語るという形式のみを想定していた。そもそも参加者が進んでマイクを取り、自分の体験談を語り出すとは考えていなかったそう。第1回目は4月上旬の寒さが残る夜にもかかわらず、ゲストの話が終わっても人々は帰ろうとしなかった。「この場で喋りたい人いますか?」の声に手を挙げた女性たちが次々にマイクを握り、自身の体験を話し始めた。

大島「自分の体験から抱えていた憤りを、話さずにはいられない人々が集まったのだということです。またゲストスピーチの方々が、具体的な性被害の判決事例や女性の貧困を背景とした性暴力、ご自身の友人やご自身に起きた体験を話してくれたことから、私も話していいのかな?というきっかけになれたのかなと」

参加者のプライバシーを守るために

参加者のスピーチには、自身の受けた性被害体験をはじめ、センシティブかつプライバシーに関わる内容が含まれている。参加者の発言と参加者自身を守り、誰もが安心して話せるように、どのような対策を行なっているのだろうか。

まず会場は、メディアの撮影禁止エリアと可能なエリアに分けられている。顔を隠すことを強いられずに抗議や性被害を語る声を届けたいと考え、参加者ではなくメディアへ厳格な撮影ルールを求めた。参加者の発言内容を、SNSなどで発信することは一切禁止。またスピーチ希望者には事前にヒアリングを行い、対話しながら内容を一緒に検討することもあるという。あくまでも聞く姿勢を一貫するフラワーデモの特色が垣間見える。

フラワーデモ

杉田注意喚起として最初に、撮影禁止のエリアを設けていること、あらゆるジェンダー、セクシュアリティ、ロマンティック、国籍、立場の人がいるということを改めて伝えますマイクを持った人の言葉を『聞く』姿勢を何よりも大切にしているのが、今のフラワーデモ東京だと思います。皆さん本当に、ただ静かにずっと聞いているんです

あきおデモなのにシュプレヒコールはやらないんですか?という質問を時々受けるけれど、ここではやりません。『個人のセンシティブな話に耳を傾けるデモ』というところが新しいなって」

大島普通のデモのスピーチは、集まる人の士気を高める目的として行われることが多い。フラワーデモの場合は、その人の話をその人のために聞くというスタイルです」

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止められない、一過性のものでは終わらせない、全国各地に広がるフラワーデモ

フラワーデモは、2019年4月に東京駅前の行幸通りと大阪から始まり、5月には福岡、大阪、千葉、6月には札幌、仙台、名古屋、長野、神戸、下関、鹿児島と続き、現在は日本の全都道府県のみならず、バルセロナまでその動きが広がっている。

要請ではなく、各地の主催者から「私たちの住む土地でも開催したい」という声があり、活動が広まったのだという。自身が生まれ育ち、現在も暮らしている町で声をあげるのは、想像するだけでもとても勇気が要ることだ。全国での開催は、各地で日常的に起きている性被害が可視化されることでもある。

あきお顔見知りがいたり、地元のデモには行きにくい。けれど東京なら、何百人もの人々が集まっていて、良い意味で『紛れ込める』から安心。そう言って遠方から東京へ参加される方もいます。さまざまな事情のある方の受け皿として東京会場が機能できていることをうれしく思います。

一方、本来であれば一人一人が地元のフラワーデモで声を上げられる環境を、社会全体で作ることが理想です。そのためにも、全国各地にフラワーデモ支部が広がったことで、声を掛け合えるネットワークができたのは喜ばしいこと。10代の高校生も、10代からずっと性暴力の問題に向き合ってきた年配の方々も、土地だけではなくさまざまな年齢や立場を超えて全国の人たちがたった一年でつながりました。この結果を生かしたい」

フラワーデモ

この一年で、メディアが性暴力事件のニュースを扱うことが目に見えて増えてきた。中でも女性記者の立場からの取材が目立ち始めたことに、まだ道半ばながらも少なからず達成感を覚えると主催者たちは語る。

2020年2月5日には、フラワーデモの発端となった性暴力事件の無罪判決のうち、一件が取り下げられ懲役4年の実刑が下された(2017年に福岡で起きた酩酊状態の女性への性的暴行事件2019年の一審では、女性に明確な拒絶の意思が見られなかったとして無罪判決)。2017年には性犯罪に関する刑法改正が約110年ぶりに行われたが、今年2020年はその見直しの年でもある(性犯罪成立に必要な暴行・脅迫要件の撤廃、性交同意年齢の引き上げなどが論点に挙げられている)。

毎月11日に全国一斉開催するという形でのフラワーデモは、3月で一区切りとなる。性暴力はもとより、被害者を責める世間の二次加害、あらゆるセクシストに対してNOを突きつける動きは、今後も広がっていくであろうことが予想される。

大島性暴力と性差別の長い歴史を振り返る上で、フラワーデモを続けていきたいというよりは続いていくものだと思っています。止まることはない、一過性のものでは終わらせられない。今年は刑法改正の動きもあり、すぐに動ける瞬発力を蓄えています」

杉田毎月11日に集まることは一旦一区切りとなりますが、これからも私たちは黙らない。フラワーデモは、何よりも自分を大事にするためのデモでもあります。自分がおかしいと思ったことを誰かに共有し、これは個人の問題でなく、社会の問題であることを示すことができる場所です。何かあった時には必ず集まれるし行きたくなったときにはいつでも門が開いている、そんなデモです

フラワーデモ

2020年3月8日の夜、フラワーデモは全国47都道府県およびバルセロナで一斉開催される予定(コロナウイルスの影響で場所の変更や中止もあり、東京はオンラインデモを行う。その他の場所の状況はサイトに掲載)。

性暴力に抗議するフラワーデモ オンラインデモ

配信:ニコニコ生放送 チャンネルはこちら

日程:2020年 3月8日(日)

放送内容:17時30分 フラワーデモを振り返る番組(VTR)

18時00分〜19時00分 デモ生中継

当日17時30から「#オンラインフラワーデモ」でTwitterでつぶやき、またはフラワーデモ公式サイトまで声を寄せよう。番組内で紹介。

フラワーデモの詳細はこちら

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