観光に新しい風は吹くか。メタ観光を考えるシンポジウムをレポート

「メタ観光」をキーワードに観光をアップデートする

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「観光をアップデートする」「新しい観光」をテーマに、2020年の東京オリンピック・パラリンピック後の観光政策を考えるシンポジウムが3月31日、日比谷公園近くの富国生命ビルで開催された。登壇者は、観光庁観光地域振興部観光地域資源課課長の蔵持京治、KADOKAWA 2021年室エグゼクティブプロデューサー担当部長の玉置泰紀、トリップアドバイザー代表取締役の牧野友衛、ニューポート法律事務所弁護士の齋藤貴弘、『Pokémon GO』や『Ingress』で知られるナイアンティック代表取締役社長の村井説人、共同通信社社会部記者の山脇絵里子、タイムアウト東京代表取締役の伏谷博之の7人。入場無料ということもあってか、当日は定員の200人を超える人が参加した。ここでは、大好評となった同シンポジウムをレポートする。また、2018年5月17日(木)には、タイムアウト東京が主催するトークイベント『世界目線で考える。メタ観光編』の開催も決定。観光の新しい潮流を様々な角度から考えていく内容となるので、インバウンドや観光資源開発、マーケティングなどに興味のある人は、ぜひ参加してみてほしい。詳細はこちら

トークを繰り広げるに当たり、今回題材となったのは、トリップアドバイザーの牧野が生み出したという言葉「メタ観光」。簡単に説明すると、目に見える観光資源に頼らない、新しい観光の姿ということだ。牧野が、この言葉を考えたきっかけは、日本人が紹介したい場所と、海外から来る人の行きたい場所が、必ずしも一致しないと思ったからだったそう。

はじめに登壇した玉置は、メタ観光の具体例として、アニメや漫画の舞台となった地域や場所への観光を挙げた。「〇〇(アニメや映画の名前) 舞台」とグーグルで検索すると、ロケ地ガイドなどが出てくるが、玉置はこれこそがメタ観光の大きな素材になるのではと話す。これまでは、あくまでもファンが趣味の範囲でまとめるものとされていたが、アニメや漫画などの聖地に足を運べば、その場で食事をしたり、その土地のものを購入したり、自然と観光につながっていく。日本食や温泉だけではなく、アニメのゆかりの地を巡りたいという理由や、ポップカルチャーを楽しみたいという理由で日本に来る外国人が多くなった今、こういった切り口からの提案も大切になってくるのではないかと語った。

KADOKAWA 2021年室エグゼクティブプロデューサー担当部長の玉置泰紀

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GPSを活用した位置情報にオンラインの情報を重ねることで、リアルの世界にポケモンが現れることを可能にしたリアルワールドゲーム『Pokémon GO』も、メタ観光を理解する上でとてもわかりやすい例と言えるだろう。ナイアンティックの村井自身も「メタ観光というキーワードはあまり聞いたことがなかったが、我々が提供している位置情報ゲームアプリと観光をくっつけたものが、まさにメタ観光になるのでは」と話す。自分が住んでいる世界がゲームの場となり、自らの足で歩かないと物語が進行しない『Pokémon GO』は、社会現象も巻き起こすほどに多くの人が熱狂したゲームだが、実は、地方の経済効果の面でも一役買っていた。

村井は、宮城県が主催したポケモンストップとジムの新規登録イベントを例に挙げた。同時期に、岩手県、宮城県、福島県の3県の沿岸部で『ラプラス』という人気のポケモンが多く出現したことで、石巻市だけでも、11日間で10万人もの人が来場したという。来場者は『Pokémon GO』をする以外にも、何かを食べたり、宿に泊まったりしたので、地域の活性化にも貢献。宮城県石巻市だけでも、約20億円の経済効果があっただろうと言われている。しかし、これはあくまでも一例で、こういったリアルワールドゲームを地域活性化に繋げたいという問い合わせは、地方自治体から多くきていたという。村井は、こんなにも地方自治体からの問い合わせが多いことは、世界でもまれなケースだと強調した。

『Pokémon GO』を使用している様子。写真は、鳥取砂丘でイベントが行われた際に撮影されたもの

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メタ観光という文脈からは少し外れるかもしれないが、共同通信社の山脇は、2020年以降の観光を考えるという視点から、深刻化していく高齢化をテーマに話を進めた。現在、東京の65歳以上の人口は300万人と言われているが、2045年には410万人まで増えるという。もちろん、それに伴い日本の観光客も高齢化していくので、観光も、2020年以降の日本がどういう姿であるのか、どういう社会であるのかということを思い描いて考えていかなくてはいけないという話だ。新たに観光スポットを作るにしても、今だけではなく、未来を見据え、高齢者も集って楽しめる場を考えていく必要があると語った。

共同通信社社会部記者の山脇絵里子

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新しい観光を考える上で、やはり目に見えない資源で人を集めるメタ観光は、大きな役割を担っていきそうだ。牧野は、そんなメタ観光には重要となるポイントが大きく分けて2つあると話す。

1つ目は、メタ観光の情報整備と活用だ。情報がまだきちんと管理されていない部分も多いため、まずは、既存のメタ情報を収集して地図にタグ付けし、レイヤー化することで情報を可視化することが大切だという。また、メタ情報は海外からの目線で収集することも重要だといい、例としてこんな話を挙げた。「トリップアドバイザーでインバウンド関連のものを見ていて思うのは、私たちが気にしていなかった文脈で、外国からやってきている人がいることです。たとえば、東北大学。東北大学は、魯迅が留学していたということもあって、中国人は仙台に来ると東北大学に行く人が多いみたいなんです。しかし、私たちからすると、どうして東北大学に行くんだろうと思いますよね。また、茨城県にあるひたち海浜公園というところには、ものすごくタイ人が来ています。なぜかというと、日本の行くべき場所として、タイのテレビ番組で紹介されているみたいなんですよ。フィクションではないですけど、日本人が知りえていない文脈で来る人たちがいるので、そういう人たちも集めていかなくてはいけないのではないかと思っています」。

2つ目は、メタ観光のさらなる促進。これには、世界遺産やCNN、ミシュランなどに載せることで、海外文脈への価値を作っていくことと、新たな文脈を作っていくとことが大切なのではないかと話した。この「新たな文脈」については、映画の舞台としての観光地にできるようにハリウッドの日本ロケを増やすことや、日本を舞台にしたアニメを世界へ発信していくことのほか、リアルな世界にポケモンを出すことで新しい価値を作った『Pokémon GO』のようなものを作っていくことも必要だと語った。

トリップアドバイザー代表取締役の牧野友衛

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パネルディスカッションでは、メタ観光を軸に、さらに深く討議が行われた。

旅行のスタイルが団体から個人に変わってきている今、彼らが目指すのは東京や大阪、京都といったゴールデンルートだけではないのではと話したのは、観光庁の蔵持。ナイトタイムエコノミーなども含め、いろいろなものを可能性として拾っていくことが大切なのではないかと語った。ニューポート法律事務所弁護士の齋藤は、蔵持の意見の延長として、「24 HOUR CITY」という形で、時間軸での観光を作っていくことも重要なのではと指摘した。早朝でも深夜でも、その土地ならではのユニークな体験を様々な時間帯で作り、時間という部分でも、もう少し多様化していかなくてはならないのではないかと、これからの課題を述べていた。

タイムアウト東京代表取締役の伏谷も、同じく「24 HOUR CITY」というキーワードを出しながら、夜が得意な人や朝が得意な人など、多様なライフスタイルの人々がうまくシフトして働けるような社会の仕組みを考えても良いのではないかと提案。また、台湾の20代前半の人たちは平均3回以上日本に来ているといい、何度来ても楽しんでもらえるような多様な観光資源を作ることが必要なのではないか、メタ観光も、多様性をキーワードにしながら考えていくと良いのではないかと力を込めた。

2020年、さらにはその先に向け「観光」に力が注がれているが、果たしてその「観光」は、本当に求められているものなのだろうか。日本側がプッシュしたいものと、訪日外国人がほしいものとの間にギャップはないだろうか。本当に有益な観光を作っていくのならば、メタ観光も視野に入れながら、新しい観光の在り方について改めて考えなければならないのかもしれない。そして今一度、「日本人が紹介したい場所と、海外から来る人の行きたい場所が、必ずしも一致しないと思った」という牧野の言葉に立ち返る必要があると感じた。

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世界目線で考える。
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