大盆踊り会
奉納盆踊り(Photo by Yoshizaki Takayuki)
奉納盆踊り(Photo by Yoshizaki Takayuki)

「祭礼都市、東京」の復活へ、コロナ禍の盆踊り事情

YouTube配信で開催した「DAIBON」、実行委員会の八幡神社禰宜に聞く

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コロナ禍で過ごす2回目の夏、東京でも多くの祭りや盆踊りが中止を余儀なくされた。そうした中、一部の主催団体は来場者数の制限や規模を縮小するなどして、辛うじて開催にこぎ着けているところもある。過去にはミュージシャンの坂本慎太郎折坂悠太も出演したことで広く話題を集めた中野区大和町八幡神社例大祭大盆踊り会(通称「DAIBON」)も例年通りの開催は断念したものの、例大祭式典と奉納盆踊りをYouTubeで配信。来年度の開催に希望をつなげた。

昨年に続き、祭りばやしや音頭のリズムが東京から消えた2021年夏。祭りや盆踊りの担い手たちはどのような思いでこの夏を過ごしているのだろうか。DAIBON実行委員会のインタビューを交えながら、コロナ禍における東京の盆踊り、祭り事情をレポートしたい。

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祭礼都市としての江戸、東京

東京という大都市は、江戸の時代から巨大な祭礼都市で在り続けてきた。「江戸三大祭」といえば、山王祭と神田祭、そして深川八幡祭り、あるいは三社祭。日枝神社の祭礼である山王祭と、神田明神の祭礼である神田祭は「天下祭」とも呼ばれ、盛大に執り行われている。

江戸時代から東京の地で行われる祭りとは、そうした神社の祭礼だけではない。東京における花火大会の源流とされているのが、江戸の中心を流れる隅田川(大川)で開催された「両国川開き花火」、現在の『隅田川花火大会』だ。花火の打ち上げは飢餓と疫病による死者の慰霊と悪病退散のため始められたという説もあるが、両国で屋台の出店が許される納涼期間の初日を知らせるものとして定着した。

戦後の一時期は中断していたものの、1978年には『隅田川花火大会』として復活。立川の昭和記念公園や足立区千住大川町の荒川河川敷など都内各地で大規模な花火大会が行われるようになった。

佃島(中央区)など一部の例外を除き、東京で盆踊りが定着したのは戦後のことだ。7月から8月にかけては都内のあらゆる場所で「東京音頭」や「炭坑節」が鳴り響き、さまざまな縁日でにぎわう。そのほかにも東京ではあらゆる場所で酉(とり)の市や七夕祭り、寺社の年間行事などが行われる。夏はそうした歳時行事のピークに当たり、いずれも多くの人でごった返す。

だが、2020年の春以降、そうした祭りや盆踊りのほぼすべてが中止になった。例年5月に開催される三社祭も、昨年は10月に延期。三社祭では多くの人が詰め掛ける神輿(みこし)の巡行が祭りの華となってきたが、昨年は神輿1基をトラックに積んで町内を回るという縮小版で執り行われた。今年はその神輿の巡行自体が中止となり、例大祭式典やびんざさら舞の奉納のみがひっそりと行われた。

「お祭りは継承していかないと徐々に潰えていくもの」

コロナ禍の東京における盆踊りの現状を知るため、「DAIBON」の愛称でも知られる大和町八幡神社例大祭大盆踊り会(中野区)の実行委員会、関龍太郎に話を聞いた。関は大和町八幡神社の禰宜(ねぎ)でもあり、地域の状況も知る人物である。

大和町八幡神社の場合、開催の中止を決断したのは2021年3月のことだった。

「境内に幼稚園もあるため、地域の子どもたちにお祭りを体験させてあげられないことが残念でしたね。お祭りをしたい気持ちは地域の方も同じなので、残念だけどしょうがないよね、と」

先述したように、今年のDAIBONは完全な中止ではなく、配信という形をとった。その理由について、関はこのように説明する。

「お祭りはそこにずっと当たり前にあるもののようで、継承していかないと徐々に潰(つい)えていくものです。今までこの場所で続けてきた人たちのことを考えましたね。お祭りの火を絶やさないためにも、この状況下でできることはしたい。実地開催は入場者のコントロールが難しいところですが、配信をやることで遠方の方を含めいろいろな方に見てもらえるわけで、配信という形もありなのかなと」

DAIBONの配信が行われたのは7月25日。奉納盆踊りのみならず、18時からは一般客は通常見ることのできない例大祭式典も配信された(式典では、コロナ終息の祈願も奏上された)。コロナ以降、普段は関係者しか入ることのできない神事が配信されたりと、配信時代ならではの祭りの在り方が各地で探られている。華々しい盆踊りはあくまでも大和町八幡神社例大祭の一部。

関も「式典は例年限られた方しか参加できませんので、お祭りの部分しか知らない方に向けて、この機会に式典の様子を知ってもらうのも有意義だと考えました」と話す。

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「祭りになればいい/そしたらまた会える」

18時45分、DAIBONの奉納盆踊りがスタートした。この盆踊りの顔ともいうべきケケノコ族が、聖火ならぬちょうちんを手に登場。ちょうちんを掲げると、境内にかけられたちょうちんに明かりがともった。なお、大和町八幡神社では7月半ばから約1カ月ほどちょうちんが掲げられ、DAIBONのない大和町をカラフルに彩った。

例年通りの開催がままならなかった2021年夏、境内にかかるちょうちんは「DAIBONをこのまま終わらせない」という関たちの思いが現れたものでもあったのだろう。

「奉納盆踊りではケケノコ族と『ボッチンと愉快で奇妙な仲間たち』の妖怪たちに『ちょうちんキス』をしてもらいました。オリンピックのトーチキスのパロディーのつもりだったんですが、彼らの登場や、さまざまな色と名前のちょうちんにより、意図せずお祭りが持つ多様性についても考えさせられました。

この演出は前日に急に思いついたものだったのですが、スタッフや参加者がそのアイデアを面白がってくれたんですよ。いきなり否定せず、まずは受け入れる風土みたいなものがDAIBONらしいなと感じました。作り上げてくれるスタッフや関係者につくづく感謝です」

奉納盆踊りはDAIBONを毎年盛り上げているDJ、珍盤亭娯楽師匠のプレイで始まった。1曲目はやはた幼稚園オリジナルの『やはた音頭』。2曲目は坂本九バージョンの『炭坑節』である。軽快なサンバのリズムによって、小さな踊りの輪が少しずつ熱気で満たされていく。踊っているのはDAIBONのスタッフや地元の踊りの会のメンバーなどごく限られた踊り手たちだ。

関と共にDAIBONを作り上げてきたスタディストの岸野雄一は、MCで中止の無念と来年への期待を口にする。SNS上でもそうした2人の言葉への共感が広がっていく。

おなじみの『東京音頭』に続いてプレイされたのは、DAIBONを代表する楽曲でもある水前寺清子の「祭りになればいい」(1972年)。作曲は2021年5月に逝去した小林亜星。「亜星さんの御霊を鎮めるためにも精一杯踊ります」という関の言葉とともに、水前寺清子の明るい歌声が鳴り響く――「祭りになればいい/人間らしくなる/祭りになればいい/そしたらまた会える」。

各地の伝承歌について研究を続ける中西レモンによる江州音頭『悪魔除け』で幕を下ろしたこの日の配信について、関はこう話す。

「DAIBONでは2年ぶりに輪になって踊りましたが、やっぱり盆踊りは楽しい!と改めて感じました。盆踊りに参加してくださった地元の方に喜んでいただけたのもうれしかったですね。式典はコロナの感染状況が悪化していたため、ほかの神社の神主や雅楽を奏でる楽人をお招きできず、簡素バージョンになってしまったことは残念です。

それにしても、今まで当たり前にできていたことにも注意を払う必要があり、今回のような小規模な催しでさえ、コロナ禍においてはいかに配慮が必要かということを実感しました」

関によると、この日の配信は約200人ほどが同時視聴し、再生回数は1500回を越えたという。コメントを見るかぎり毎年DAIBONを楽しみにしている熱心なサポーターも多かったようで、熱のこもった配信となった。

アフターコロナの盆踊り、祭りとは

東京から夏の風物詩が途絶えて2年、そろそろ盆踊り愛好家や祭りフリークの我慢も限界に達しつつある。2022年、盆踊りや祭りが通常通り開催されるかどうかは誰も分からないが、再開された暁には、各地で凄まじい盛り上がりとなるはずだ。それほどまでに人々は盆踊りと祭の再開を待ち望んでいる。

盆踊りや祭りとは、人が集まることで特別なエネルギーを生み出す。たとえコロナの感染拡大が落ち着こうとも、引き続きコロナウイルスとの共存を強いられることになるだろう。そんなアフターコロナの時代、盆踊りはどうあるべきか。多くの関係者がそのことに頭を悩ませているが、関も例外ではない。

「開催の前提となるワクチンや治療薬、医療体制の状況などを注視したいですね。今後はDAIBONらしいお祭りを目指しつつ、『密』な性質のお祭りの今後の在り方も考えなくてはいけないと思っています」

なお、DAIBONでは今後も盆踊り会を継続していくため、ネットを通じた奉賛(寄付)を募っている。また、2021年8月13日(金)から16日(月)の4日間はYouTubeでの再配信も予定されているという。盆踊りの継続に向けて、積極的にネットを活用していくDAIBONの方法は、今後さまざまな盆踊りや祭りで参考にされていくはずだ。

テキスト:大石始

ライタープロフィール

大石始

世界各地の音楽・地域文化を追い掛けるライター。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」主宰。著書に『盆踊りの戦後史』(筑摩書房)、『奥東京人に会いに行く』(晶文社)、『ニッポンのマツリズム』(アルテスパプリッシング)、『ニッポン大音頭時代』(河出書房新社)、『大韓ロック探訪記』(DU BOOKS)など。

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