シアター風姿花伝/Photo:Kisa Toyoshima
シアター風姿花伝/Photo:Kisa Toyoshima
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今、ソーシャルディスタンス演劇に挑戦するということ

DULL-COLORED POP主宰の谷賢一に聞く、コロナ禍の演劇

Mari Hiratsuka
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テキスト:漆まーや
写真:Kisa Toyoshima

新型コロナウイルスの影響で休止していた演劇公演が再開し始めた。劇場は感染症対策をとりながら新たな興業や表現の可能性を探っている。シアター風姿花伝で新作公演を上演しているDULL-COLORED POP主宰の谷賢一に話を聞いた。

DULL-COLORED POPは東京を拠点に活動する劇団。2020年、『福島三部作』で第23回鶴屋南北戯曲賞と第64回岸田國士戯曲賞をダブル受賞。新作『アンチフィクション』は、作、演出、出演、照明操作、音響操作を谷が担う一人芝居だ。新進気鋭の劇作家が今表現するものとは。

演劇界の厳しい現状

「演劇関係者はかつてないほどピリピリしています」と谷は切り出した。

現在劇場では、最大限に警戒を高め、全国公立文化施設協会の『劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン』を遵守し、対策を講じているという。主な対策としては、客席数50%減、会場の消毒と換気、観客やスタッフの検温、マスク着用などである。

受付は常時換気し、最低限のスタッフで運営

観劇に際して体調管理やマスク着用を呼びかけるポスター

「実際に運用すると大変なので、心理的にも経営的にも続けられるか分からない。ただ、しばらくは想定し得る一番厳しいルールを課します。演劇界も努力しているという社会的理解を得て、信頼感をいただかなくてはいけません」 と谷は力を込める。

『アンチフィクション』上演への思い

谷は、毎日目を疑うようなニュースが飛び交うなか、コロナという強烈な現実を前に「架空の物語=フィクション」を作ることができなくなったと言う。

「どんな素晴らしい恋物語も、友情の物語も、現実で生きるか死ぬかという状態ではリアリティーを感じられなかった。何を書いていいのか分からない日々が続きました。けれども、コロナ禍で右往左往しているのは私だけとは限らないでしょうし、劇作家が感じた葛藤や苦悩を観客と共有することで、何かしらの救いや発見を見出せるのではないかと思いました。そこで、物語を書けなくなった私自身を、むき出しに舞台上に乗せてみることにしました」

ノンフィクションではなく「アンチ」フィクションとしたのは「『今、フィクションなんかできるか!』という強烈な反発や怒りを表現したかったから」と谷は答えた。

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オンライン上演の可能性

『アンチフィクション』は作、演出、出演、照明操作、音響操作を谷一人で行い、舞台監督、制作の計3人のスタッフで運営し、極力接触機会を減らしている。本作は以前から一人芝居とする予定だったそうだが、幸か不幸か、コロナ禍で上演することになった。

「今どき珍しい自家発電演劇です。生臭い話をすれば、予算が限られているので常駐スタッフを減らして人件費を抑え、その分チケット代を安くしてアクセスしやすい演劇を目指しました」

さらに規模の大きな劇場ではまた違う対策が必要となるだろうが、次のステップのための予行練習の機会となって良かったと谷は考える。

劇場でなければ体験できないこと

今回の公演では、4K画質のライブ配信とアーカイブ配信が行われた。

「客席50%減という強烈な制約下、オンライン上演が打開策の一つになればと思います。家で観たり、人と一緒に観たり、好きな時間に観ることができるので、演劇に触れる機会を増やすことにつながるのではないでしょうか」

「演劇に限らず、どうしても観たいものだけ観に行くということがこの先のスタンダードとなります。演劇が好きな人は、オンラインのメリットを享受しながらも、『劇場で同じ空気を味わいたかったな』と憧れを抱き、客席に座る感動を思い出すでしょう。劇場に行くことが、より特別な体験になる。私たちはその特別さを大事にしたい」

最後に「安心して劇場に来てもらうための努力は惜しまない」と谷は語気を強めた。ただ座して収束を待つのではなく、今できる表現に挑むことが重要だ。

ライタープロフィール

漆まーや
アート、劇場、酒場を追いかける会社員ライター。趣味は街歩きとストリップ鑑賞。ブログ『盛り場放浪記』もチェック。

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