住宅街の中にある栄湯は開業30年目を迎える2017年に、約3ヶ月間の改装工事を経てリニューアルオープンした。設計を担当したのは銭湯デザインを多く手がける建築家の今井健太郎。昭和風だった改装前から、見違えるほどに洗練された銭湯に生まれ変わらせた。大胆なリニューアルに踏み切ったのは、地元への恩返しをしたかったからだと、オーナーの石田は力強く語る。
石田が今井にリクエストしたテーマは、「哲学」だ。地元の名所である哲学堂からインスピレーションを受け、浴室をそれぞれ「カントの湯」「ソクラテスの湯」、そして半露天風呂は「孔子の湯」と名付けた。また、サウナの天井には現代的な銭湯富士を描くことで知られるペインターのグラビティフリーによる釈迦が描かれている。 新たに設置した半露天風呂は、男女両方にあったサウナを週替わりの共有型にしたことで生まれたスペースを利用して作られた。 半露天風呂とサウナの男女入れ替えは毎週土曜日に行われる。運が良ければ、同店スタッフで日本銭湯大使のステファニーに会えるかもしれない。
今井健太郎のコメント
「近所の名勝、哲学堂公園に祀られている四聖=釈迦/孔子/カント/ソクラテスを4色の光り(黄色/オレンジ/青/紫)で表現し、浴室の照明演出としました。哲学の根本は「人がより生きるための知恵を見つける」こと。日常の中で自分を振り返ることができる浴室空間をイメージし、オフホワイトのタイルでデザインしました。」
最も多い時で2600を数えた都内の銭湯の軒数は、東京都生活文化局によると、2016年で602軒、2017年は4月末の時点で584軒と、廃業の波は止まっていない。反面、2017年は雑誌やテレビにおいて、銭湯や温泉、サウナにまつわる特集が組まれているのを頻繁に見かけた印象もある。実際に、昨年にリニューアルまたは新たにオープンした銭湯やスパには、魅力的なものが多かった。殊に銭湯などの改築は、莫大な金がかかることはもちろん、後継者の問題をクリアする必要があるなど、ハードルの高い大仕事である。しかし、そうした厳しい状況だからこそ、熱意あるオーナーたちの間では、自らの理想を形にした魅力的な施設を作ろうという機運が高まっている。本記事では、タイムアウト東京が取り上げたこともある銭湯建築家 今井健太郎が新たに手がけた銭湯や、温浴業界に新風を吹き込んだ話題の施設など、2017年に登場した個性的な店を紹介する。