世界遺産登録の現場から学ぶ「世界目線」の重要性
第2部は、観光コンテンツとして期待が集まる世界遺産のインバウンド活用法をテーマに議論が行われた。最初のスピーカーには、2017年に『「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群』としてユネスコ世界遺産登録を果たした宗像大社(福岡県宗像市)の宮司、葦津敬之(あしづ・たかゆき)が登壇。宗像大社の歴史や日本神話との深いつながり、そして世界遺産登録までのプロセスを紹介した。
宗像大社は、天照大神(あまてらすおおみかみ)の御子神とされる三柱の女神(宗像三女神)を祀(まつ)る由緒ある神社だ。それぞれの女神が降り立ったとされる沖ノ島の沖津宮、大島の中津宮、宗像市田島の辺津宮の三社から構成されている。
「玄界灘に浮かぶ絶海の孤島、沖ノ島では、4〜9世紀頃にかけて国家祭祀(さいし)が行われてきた。島全体が神域とされ、男性神職者以外の入場は厳しく制限。島からは当時の奉納品が約8万点も出土しており、海の正倉院とも呼ばれている」(葦津)
そのため福岡県や宗像市、福津市が中心となり、沖ノ島を含む3つの宮、そして信仰を支えた地元豪族、宗像氏の墳墓群など、8つの構成資産で世界遺産の登録を目指したという。しかし、登録前の現地調査を行なったイコモス(国際記念物遺跡会議)からは「沖ノ島と3つの岩礁のみしか価値が認められなかった」と葦津。
「日本古来の自然信仰や神道、神話に基づく信仰の全体像が、外国のメンバーで構成されるイコモスにうまく伝わらなかったためだ。そこで英国の友人からのアドバイスをもとに、神道をreligion(宗教)ではなくspirituality(霊性)と言い換えて紹介するなど、戦略の再考を試みた」(葦津)