ナイトタイムエコノミー、インバウンドの活性化にどう活用するか

鍵は、夜間コンテンツの充実と深夜の交通アクセス

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テキスト:庄司里紗


訪日外国人旅行者数が史上初となる3000万人を突破した2018年。日本は観光立国として大きく歩みを進めた一方、国内における多様性に対する理解や対応にはまだ課題も残る。そんな2018年12月、日本経済新聞社とタイムアウト東京の主催によるカンファレンス『世界目線で考える。』が開催された。拡大するインバウンドを日本経済の活力につなげるためには、どのような取り組みが必要なのか。観光政策の切り札として期待がかかる「ナイトタイムエコノミー」と「世界遺産」をテーマに、有識者たちが新しい視点を提起した。ここでは、第1部の様子をレポートする。

ナイトタイムエコノミーは国家主導で進めるべき

第1部のテーマは、インバウンド消費拡大の起爆剤として期待が集まる「ナイトタイムエコノミー(夜間経済)」だ。夜間(日没〜日の出まで)の経済活動を意味し、消費拡大や新たなビジネス機会の創出が見込めることから、世界各国で様々な取り組みが進められている。

日本でも近年、ナイトタイムエコノミー振興に向けた動きが活発化している。2016年の風営法改正を皮切りに、2017年4月には自民党に時間市場創出推進議員連盟(ナイトタイムエコノミー議連)が発足。同年12月には、コンテンツの多様化や営業時間の見直し、交通の24時間化などの具体策を盛り込んだ中間提言も発表された。

カンファレンスでは、まず同議連の事務局長を務める環境副大臣の秋元司が中間提言の内容を整理しながら、ナイトタイムエコノミーの現状と課題について発表した。

「これまで日本には『夜間の活動は不健全』という風潮が強く、バーやダンスクラブを含む幅広い業種に厳しい営業規制があった。しかし、2016年の風営法改正が転換点となり、昨年10月にはデジタルダーツやシミュレーションゴルフが風営法の規制対象から外れるなど、健全な夜の娯楽コンテンツが育つ土壌は整いつつある。何よりも、ナイトタイムエコノミーに対する社会的認知の高まりは、最も大きな成果といえるだろう」(秋元)

また、秋元は「自治体や関連機関が安心してナイトタイムエコノミーに取り組める指針づくりが必要」と話し、一例として注目の夜間コンテンツとされるプロジェクションマッピングを挙げた。

「プロジェクションマッピング実施の可否は、これまで各自治体に委ねられ、現場が判断に悩む場面も多かった。そのため国は2018年3月、統一の運用ルール(投影広告物条例ガイドライン)を策定し、スムーズな実施環境を整えた。ナイトタイムエコノミーを推進するには、国が明確な方針を示し、グレーな部分をクリアにしていくことが重要だ」(秋元)

鍵は「夜間コンテンツの充実」と「深夜の交通アクセス」

観光庁長官の田端浩は、オリンピック後も観光セクターが好調なロンドンを例に挙げ、「日本にも国策としての観光戦略が必要だ」と言及。旅行動態の変化に触れながら、拡大傾向にある体験型の「コト消費」について見解を述べた。

「訪日外国人観光客の消費の主体はモノ消費からコト消費へとシフトしているが、旅行消費額全体におけるコト消費(娯楽サービス費)の割合は3.3パーセントにとどまっている。アメリカ(12.2パーセント)やフランス(11.1パーセント)の水準に追いつくには、夜間コンテンツの拡充が鍵になるだろう」(田端)

観光庁では、2018年に始まった「最先端観光コンテンツインキュベーター事業」において、ナイトタイムコンテンツの開発に取り組んでいる。田端は、東京都中央区(銀座)や豊島区(大塚駅周辺)、島根県石見地方、長崎市の4エリアがモデル事業として選定されたことを報告。魅力的なナイトライフの創出には「交通事業との連携が不可欠」と強調した。

「公共交通の夜間運行には、コストや保守点検など様々な課題がある。しかし、ナイトタイムエコノミーの発展は、24時間営業の交通アクセスが大前提だ。今後は関連省庁とも連携しながら、マーケットインの発想で実現を模索していきたい」(田端)

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地方からも期待が集まるナイトタイムエコノミー

続いて意見を述べたのは、風営法改正を主導し、法の専門家の立場からナイトタイムエコノミーを推進する、弁護士の齋藤貴弘だ。齋藤は、ナイトタイムエコノミー先進地であるスペインのイビサ島に言及。世界遺産としての歴史的価値に、音楽や食、ショーイベントなどを掛け合わせ、多彩な観光資源の創出に成功している現状を紹介した。

「イビサは、世界遺産の城壁を使ったプロジェクションマッピングや、有名レストラン『エル・ブジ』と世界最高峰のサーカス集団『シルク・ドゥ・ソレイユ』のコラボレーションを展開するなど、総合体験として客単価の高いコンテンツに演出するのが非常に上手い。このような海外の先進事例は、コンテンツの作り方やPR手法として非常に参考になる」(齋藤)

一方、日本経済新聞社編集委員の田中陽は、ナイトタイムエコノミーの社会的認知の広がりを新聞記事への掲出数から分析。2016年までほぼゼロだった掲出数が2017年から増え始め、2018年時点では100件を超えていると報告した。

「注目すべきは、地方紙での掲出数が多いこと。それは都市部だけでなく、地方でもナイトタイムエコノミーに対する期待や関心が高まっている証左ではないか。一方、JR各社の売上高を調べると、地方ほど在来線からの収益に頼っている構造が見えてくる。豪華列車を走らせ、停車地でナイトライフを楽しむといった地方観光のあり方とも、ナイトタイムエコノミーは親和性が高いといえるだろう」(田中)

日本にもナイトメイヤー(夜の市長)の創設を

ディスカッションでは、タイムアウト東京代表の伏谷博之、フリーアナウンサーの柴田玲がファシリテーターとなり、公共交通の運用や法規制のあり方、夜間の労働力や安心安全の確保といった課題について議論された。

特に、夜間の労働力の確保については活発な意見交換が行われた。秋元は長期労働の是正をうたう働き方改革に配慮しつつも、「夜間における副業は多様な働き方を実現する一つの選択肢になるのではないか」と提言。深夜帯における外国人労働者の活躍にも期待を込めた。

一方、弁護士の齋藤は、夜間の外国人の就労について懸念を示した。例えば、外国人労働者のおよそ2割を占める留学生アルバイトは、風営法に該当する業種での就労や深夜の時間帯における労働が認められていないためだ。齋藤は、インバウンド対応人材としての外国人労働者の活用には「さらなる法的規制の緩和が必要」と見解を述べた。

また、夜間経済のけん引役となる「ナイトメイヤー制度」も話題に上った。ナイトメイヤー(夜の市長)とは、ナイトタイムエコノミーにおける関係各所の調整やPRを担う人物のことだ。同制度に詳しい齋藤によれば、アムステルダムで始まったこの制度は現在ロンドンやニューヨーク、シドニーなどに広がっており、「各都市のメイヤーによるグローバルなネットワークも形成されつつある」という。

ナイトメイヤーは、日本でも渋谷区が観光協会と協力して創設する動きがある。世界的には行政、民間が主導する2パターンがあるというが、田端は「地域住民との緊密な連携を考えれば、民間主導でナイトメイヤーを推進し、行政がサポートする形態がベストだろう」と述べた。

ディスカッションの最後には、秋元から2019年11月に『ナイトタイム・サミット』の開催が予告された。世界30都市からナイトメイヤーを招聘(へい)し、日本における夜間経済の取り組みを共有しながら、その可能性を模索するイベントになるという。「2019年はナイトタイムエコノミー元年となる」。そんな秋元の力強い宣言で、第1部は締めくくられた。

【登壇者プロフィール】
秋元司
衆議院議員。環境副大臣、内閣府副大臣。東京都出身。大東文化大学卒。2004年、参議院選挙に初当選。2012年、衆議院議員に当選、現在3期目となる。内閣府副大臣、復興副大臣、国土交通副大臣など要職を歴任後、2018年10月より現職。

田端浩
観光庁長官。愛知県出身。東京大学卒。1981年に運輸省(現・国土交通省)入省。観光庁観光地域振興部長、自動車局長、大臣官房長などを歴任したのち、2016年に国土交通審議官、2018年7月に観光庁長官に就任。

齋藤貴弘
弁護士。東京都出身。学習院大学法学部卒。2006年に弁護士登録後、総合法律事務所を経て2013年に独立。2016年、業務拡大に伴いニューポート法律事務所を開設。近年は、風営法改正や外国人の就労ビザ規制緩和、新規産業創出支援にも注力している。

田中陽
日本経済新聞社編集委員。慶應義塾大学卒。1985年、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部記者を経て2002年、同編集委員。日経ビジネス編集委員、日本経済新聞社消費産業部編集委員を歴任後、2014年より企業報道部編集委員を務める。

伏谷博之
ORIGINAL Inc. 代表取締役、タイムアウト東京代表。島根県出身。大学在学中にタワーレコード株式会社に入社、2005年に代表取締役社長就任。タワーレコード最高顧問を経て2007年、ORIGINAL Inc.を設立、代表取締役に就任。2009年、タイムアウト東京を開設し、代表に就任。

柴田玲
フリーアナウンサー。元TOKYO FMアナウンサー。ラジオやトークショーのナビゲーターとして活動中。

第2部レポート記事はこちら

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