世界目線で考える。デジタルマーケティング編

口コミからヒントを見出す。デジタルマーケティング編

ソーシャル上の情報を読み解き、声を拾い上げる

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2017年5月31日、タイムアウト東京が主催するイベント『世界目線で考える』が開催された。2017年になってから3回目となる今回は、「デジタルマーケティング編」と題し、トリップアドバイザー株式会社代表取締役の牧野友衛と、ソリッドインテリジェンス株式会社代表取締役の丸野敬がゲストとして登場。インバウンドビジネスの最前線にいる2人からは、データの読み解き方や世界中から投稿される口コミの活用の仕方と可能性について、様々な事例や話題が飛び出した。

第1部では、ゲストそれぞれの取組みを紹介。まずは牧野が登壇した。トリップアドバイザーはホテルやレストラン、観光施設など旅行に関する口コミサイトとして2000年にアメリカでスタートした。日本版は2008年にリリースされ、現在は月間3億9000万人に利用されている。2016年より日本版の代表取締役を務める牧野は、トリップアドバイザーの口コミから見える、デジタルマーケティングによるインバウンド戦略のポイントについて述べた。ひとつは日本人の行く場所と外国人の行く場所は異なるということ。東京の人気スポットランキングの場合、フクロウカフェや歌舞伎町にあるサムライミュージアムのように外国語の口コミがほとんどという場所があげられる。トリップアドバイザーのサムライミュージアムのページには22ヶ国語、900件近いレビューが投稿されており、うち日本語はわずか23件のみだった(2017年6月12日時点)。人気の理由を口コミに求める際のポイントとして牧野があげたのは、国別で分析するということ。インバウンド戦略というと、欧米やアジア圏など大きなくくりをターゲットにしがちだが、英語圏でもアメリカ、イギリス、オーストラリアでそれぞれ人気のスポットは異なる。どこの国の人が何に興味があるのかを明らかにすることが、インバウンドマーケティングで成功する上で重要なポイントとなる。

牧野はトリップアドバイザーを利用した人気獲得の仕方についても触れ、同サービスの強みは、登録されているホテルや観光施設のオーナーが紹介ページを管理できることだと述べた。写真の更新や口コミへの返信など、積極的にページを活用することで、ユーザーの評価は上がるそうだ。そもそもユーザーが口コミを書く動機は「いい体験を共有したい」からであり、5ポイント制でありながら平均は4点台ということからも、ネガティブな口コミは書かれにくいことは明らかだろう。ブログのように自分の記録として利用しているユーザーがいることも、ポジティブなレビューが多い一つの要因かもしれないと牧野は分析している。

丸野が代表取締役を務めるソリッドインテリジェンスの主な事業は、ソーシャルメディアの活用と分析を中心としたインバウンド、アウトバウンド向けのコンサルティングだ。「ソーシャルリスニング」と呼ばれる、ソーシャルメディア上の書き込みの分析作業は多くの企業から注目されており、官公庁からも依頼がくるという。観光地や観光資源に関する各国の口コミ情報の調査をはじめ、ネガティブな書き込み、なりすましアカウント、役員の誹謗(ひぼう)中傷といったリスクモニタリング、SNSを利用したキャンペーンの効果測定などに利用されている。事例として日本で震災が起こった際のアジア5ヶ国における風評被害と、購買活動への影響の調査をはじめ、2016年の大晦日に開催された渋谷のカウントダウンイベントに参加したペルソナの調査などを紹介した。

同社では、SNSだけでは分からない、流行の調査も行っている。例えば近年中国人のインバウンド戦略で注目されている「深度遊(しんどゆう)」という言葉。中国の富裕層を中心に広がる旅行スタイルを指す言葉だが、はっきりとした定義がなかった。言葉のイメージをはっきりさせるために丸野が行った調査は、まずソーシャルメディア上にて「深度遊」という言葉を含む投稿を収集し、使用例を分析することだった。次にウェブアンケートを実施。最後に日本と中国の2ヶ所でグループインタビューを行い、旅行者の声を調査し、3段階のプロセスを踏んだ。結果「深度遊」とは、現地の人と同じような生活をするなど、ディープな体験をする旅行スタイルであることが分かった。今後はデータとして調べにくい画像などを調査する事業も進めていく予定だという。

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第2部では、タイムアウト東京代表の伏谷博之が司会として参加し、より白熱した議論が展開された。

第1部で牧野が指摘したターゲットの細分化に関して、インバウンド市場に参入したいと考えている人たちの想定しているターゲットが漠然としている、という伏谷の指摘からトークは始まった。丸野は、日本国内のマーケティングをやる際は年収などペルソナの詳細を具体的に提示するのに、インバウンドになったとたん「外国人」というざっくりとしたものになっていると賛同。ここ数年で徐々に細分化し始めたが、もしインバウンドで成功したいなら日本企業はコールセンターにではなく、ソーシャルリスニングに予算をかけるべきだと主張した。牧野は、日本のソーシャルリスニングの遅れに同意しつつ、トリップアドバイザーが官公庁の外国人観光客を調査する案件に参加して以降、ここ1年ほどで企業からも話が来るようになり変化を感じているという。

最後に、今後両社が求められるであろう事業や戦略は何か、伏谷が質問を投げた。牧野は、スマートフォンが普及した今日、ユーザーは旅行の前から最中、帰宅後まで情報を必要としていることに触れ、モバイルアプリの機能充実などをあげた。日本版の特徴として、施設に対する口コミ数が多くないことにも言及し、旅行者の目に止まるためにもまずは口コミを増やす必要があると述べた。一方丸野は、今後アジアをターゲットにする場合は文字の違いや、Instagramの普及による新たな調査方法の模索など様々なハードルを乗り越えていかなければならなくなると指摘。そのためにも、ソーシャルリスニングによってペルソナを作り出すことの大切さを主張した。

2020年に向けて、観光だけでなく様々な企業がインバウンド戦略に力を入れ始めている。ネットに氾濫するデータを編集し、読み取る牧野と丸野のビジネスは、まだまだ可能性があることが伝わってきた。第一線で活躍する2人の話からヒントを見出し、ビジネスチャンスに繋げたい。

牧野友衛 プロフィール
トリップアドバイザー株式会社代表取締役。AOLジャパン株式会社でサービス開発およびビジネス開発業務を担当後、2003年にグーグル株式会社に入社。ビジネス開発担当として、GoogleやYouTubeの新規プロダクトの国内展開を推し進めた。2011年に、Twitter Japan入社。国内の利用者拡大の責任者として、事業戦略の立案と実施を行った。2016年9月1日、トリップアドバイザー株式会社代表取締役に着任。総務省による、 ICT(情報通信技術)分野への挑戦者を支援するプログラム「異能(Inno)vation プログラム」のアドバイザーも務める。

丸野敬 プロフィール
ソリッドインテリジェンス株式会社代表取締役社長。2003年に日本SGI株式会社入社し、先端技術を活用したビジネス開発、某通信キャリア向けのセールスマネージャーを経験。シスコシステムズ合同会社を経て、2013年に独立。翌年から海外におけるソーシャルメディア活用、分析に取り組み、多くの官庁や企業の訪日インバウンドにおける外国人観光客の分析や、海外アウトバウンドにおける日本産品の市場調査などに携わる。2016年4月より現職。 

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