消えゆく遊郭の歴史の前で立ち止まる
店主の渡辺は、もともとIT企業でアプリ開発やデジタルコンテンツの販売、ウェブサイトの運営、ディレクションなどを担当していた。その後、カストリ出版を設立し、カストリ書房を開業。渡辺の遊郭との出合いとは何か。
「30代半ばで遊郭に興味を持ち始めました。もともと古いものが好きだったんです。漠然と古いものが好きというよりは、自分の目の前でなくなっていくものに引かれていました。
一方で、全国各地の観光地から外れたスナック街や飲み屋を旅することも好きで、のちに調べてみると、そこは遊郭跡であることが分かりました。そこから約12年間、趣味として全国の遊郭があった場所を取材し、その延長線上で始めたのがカストリ出版です」
ここ10、20年で遊郭跡地の建物は著しく壊されてきた。消えゆく遊郭の歴史を語り継げる最後の世代として、カストリ書房は存在している。
「売春防止法が施行されたのは昭和33年。65年前に20歳だった人が、今は85歳になっています。日本の平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳(*1)とされているので、かつての娼家(しょうか)の主がなくなれば、建物自体も取り壊されてしまうわけです。遊郭を知る最後の世代の人たちが亡くなると同時に、建物も消えていく状況が起きているからこそ、遊郭と接することができる最後の世代として、カストリ書房が存在しています」