マテルダ・ベネデッティ・スタラーチェ(左)と澤井敏子(右)
マテルダ・ベネデッティ・スタラーチェ(左)と澤井敏子(右)
マテルダ・ベネデッティ・スタラーチェ(左)と澤井敏子(右)

大使夫人という立場での慈善活動や「子ども食堂」での取り組み

マテルダ・ベネディッティ・スタラーチェと澤井敏子にインタビュー

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テキスト:Karolina Höglind

モスクワへの移動を2週間後に控える、大使夫人のマテルダ・ベネディッティ・スタラーチェ。彼女は駐日イタリア大使ジョルジョ・スタラーチェの妻で、この4年間積極的に慈善活動を行ってきた。滞在が残りわずかになっても、マテルダは人助けに力を注ぐ。母国イタリアをはじめ、これまで暮らしてきた多くの都市で、慈善活動は常に彼女の心に寄り添ってきたのだ。

今回、恵まれない子どもたちに食事などを提供する「子ども食堂」の活動日にマテルダを訪ねた。インタビューでは、外交官夫人として慈善活動をすることや、「子ども食堂」とのつながり、さらには、東京の愛すべきところなどを聞いた。

なお、インタビューには、千代田キワニスクラブの会長で、ざまざまな支援活動を行う、澤井敏子(駐ノルウェー元日本大使澤井昭之の夫人)も特別に参加してくれた。

※取材は2021年9月10日に実施

子どもたちが必要としているものを提供するために

ー2017年に来日してから、積極的にチャリティー活動を行い、困っている人を助けていますね。

マテルダ:はい、来日してから多くの慈善活動に携わっています。募金活動は、たくさんの人を集めることができればとても簡単でした。しかし、コロナ禍になってからは全てが複雑になりましたね。

大田区の児童養護施設の支援はイタリア人の知人を通して始めました。そこではカトリックの修道女たちが、もちろん国からの援助を受けながら、子どもたちの面倒を見ています。イタリアはカトリック国ですので、このようなつながりができたのです。以前は、歯ブラシや歯磨き粉、トイレットペーパー、食品、洗剤など、子どもたちが必要としているものを提供するために、たくさんの募金活動を行いました。30人もの子どもがいるので、かなりの量になると容易に想像ができると思います。

そして、初めてお弁当を届けたのは新型コロナウイルスが広まった頃でセカンド・ハーベスト・ジャパン(*1)に寄付をしました。多くの人が仕事を失い、食べ物を買えなくなってしまいましたので、週に100食まで作って寄付することを提案し、これを6週間ほど続けました。この経験があったので、澤井さんから「子ども食堂」というお話を頂いた時には、「60個なら問題ない!」と思ったのです。

1)食品ロスを引き取り、人々へ届ける活動を行う日本初のフードバンク

ー慈善活動は常に人生において大事なことだったのでしょうか。

マテルダ:私は恵まれていると感じているので、どこの国に行っても慈善活動を続けてきました。忘れたくないのは、たとえ世界一の国であっても、多くの問題を抱えているということです。特に今はパンデミックの影響で、全てが悪化しています。私はアブダビやイタリアにいた時も、人々を助けるために多くの団体で活動していました。

ー澤井さんに質問なのですが、千代田キワニスを始めてどのくらいになりますか。

澤井:10年です。児童養護施設で暮らす子どもたちの支援を行っています。彼らは大学や専門学校へ進学しますが、18歳になったら自立しなければなりません。コンビニや小さな書店などでアルバイトをする以外にお金を稼ぐ方法がないので、食事や住居、衣服など全ての費用を自分で用意するのはとても困難です。ですから、彼らの生活を支える活動をしています。「子ども食堂」に関しては、2021年4月から始めました。

「子ども食堂」の話を聞いたとき、すぐに協力したいと思った

ーマテルダさんが千代田キワニスと活動を始めたきっかけを教えて下さい

マテルダ:私が千代田キワニスの活動を知ったのは1年前のことです。澤井さんともそのときに出会いました。彼女も海外で暮らし、日本大使夫人の経験があるという共通点があり、お互いによく理解し合っています。彼女から「子ども食堂」のお話を頂いた時、すぐに協力したいと思いました。

コロナ禍に人を集めて募金をするというのはなかなか難しいことですが、大使館がパスタメーカーのバリラ社を存じていたので、直接お話してみようと思いました。その結果、保管していた在庫の一部商品を千代田キワニスだけでなく、東京のほかの児童養護施設にも寄付することになりました。

ーお弁当はどのように作られるのですか。実際の作業にはご自身も参加されていますか。

マテルダ:はい、もちろんです。大使館でパスタを作り、澤井さんにお弁当を届けます。大使館に任せきりではなく私も監督して手伝いたいと思いました。もちろん、心が広い素晴らしいシェフがいて、私たちが求めるものなら何でも調理してくれます。「子ども食堂」に参加するのは2回目で、今日は66個のお弁当を用意しました。

ーお弁当を必要としている人たちに、どのように情報を発信しているのですか。

澤井:渋谷区の社会福祉課では「子ども食堂」をよく宣伝しているので、その小学校の近所の子どもにチラシを配ってもらいました。でも、来てくれる子どもたちのプライベートな状況や、実際にどれくらい必要としているのかは、私たちにはよく分かりませんし、聞くことも叶いません。私たちはとても小さなグループなので、お弁当を提供できる子どもの数は70人が限界で、常に渋谷区が支援して下さっています。

マテルダ:私が感心しているのは、日本の行政は、たとえ地方都市であっても、常に関与しているということです。全ての人のニーズをカバーすることはできないかもしれませんが、とても存在感があります。

ーマテルダさんとの仕事はいかがですか。

澤井:彼女にはとても感謝しています。今日、子どもたちにイタリアの紹介をできないのはとても残念です。というのも、「子ども食堂」の目的は、食事を提供するだけでなく、子どもたちの視野を広げるという目的もあるからです。子どもたちは外の世界を知る機会がほとんどなく、イタリア人女性と話す機会がありません。

マテルダ:私は2、3年前に、障がいのある子どもたちにイタリアについて紹介をしたことがあります。今回も同じことをしたいと思っていたのですが、新型コロナの関係で、1つの部屋に全員が集まることができず……。その代わり、今日は資料を印刷してきました。

澤井:マテルダさんのように多くの大使夫人が子どもたちと触れ合ってくれることを願っています。それは日本の社会にとって大きな貢献になると思います。

ー外交官夫人として生活していると、慈善活動をすることで社会とのつながりが強くなると思いますが、いかがでしょうか。

マテルダ:新しい国に移ると大使館はまるで別世界のようです。ほとんどのつながりは他の大使館とですので、全てが素晴らしく、時には知覚できる以上のものが見えないこともあります。私は好奇心旺盛なので、社会との接点を持ちたいのです。

そして、将来「日本に行ったことがあります」と同時に、日本はとても素晴らしい国で、人々はいつもとても親切ですが、彼らが取り組んでいる問題も沢山あると言えるようになるのはいいことだと思います。

慈善活動をすることで私が送っている外交官夫人としての生活を多角的に見られるようになります。ですから、私が日本を離れた後も、誰かが私の活動を続けてくれることを願っています。

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東京を離れたら駅が恋しくなる

ー話は変わりますが、東京の好きなところを教えてください。

マテルダ:私は東京で電車を利用するのが好きです。なぜなら、運転手にあちこちに連れて行ってもらうことから自由になれるからです。ですから、交通系ICカードを持ってさまざまな場所に出かけます。(東京を離れたら)「駅まで恋しくなる」と話すと、みんなに笑われます。

モスクワにも素晴らしい公共交通機関と美しい駅があると伺いましたが、今のところ交通系ICカードとコンビニのおにぎりがない生活は考えられません。

ーちなみに、お気に入りの路線はありますか。

マテルダ:3つあります。1番好きなのは山手線で、「発車メロディーで駅名が分かる」とまではいきませんが、ほとんど分かります。残りの2つは大使館の近くにある大江戸線と南北線です。

ーモスクワにはいつ引っ越しますか。

マテルダ:あと2週間(9月27日)で、日本での生活は終わってしまいます。もちろん、東京は素晴らしい場所なので離れるのはとても寂しいです。しかし、これが私の人生なので、新しい場所を発見するのも楽しみです。

澤井:モスクワは東京から8時間ほどと近いので、いつでも戻ってこられますよね。

マテルダ:ええ、そう願いたいですね。

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東京在住の駐日大使にインタビューを続けている「Tokyo meets the world」。この中では、世界各国のSDGsの取り組みを学べるほか、「世界随一の美食都市」としての側面を持つ東京が、いかに多様な国の料理を提供しているかも掲載してきた。ここではインタビューの中で、各国の大使が「東京で自国の味を楽しむなら」と、勧めてくれた店を7カ国分紹介しよう。

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