メトロポリタン歌劇場『マーニー』
普段から『Metropolitan Opera Live in HD』(日本ではMETライブビューイング」の名で舞台映像を配信しているメトロポリタン歌劇場は、その潤沢なアーカイブから、『Nightly Met Opera Streams』として、毎日異なる演目を配信中。ニューヨーク現地時間で19時30分から翌日15時30分までの限定配信なので見逃しがちだが、オペラを見慣れていない人に何としても見てほしいのが、4月30日配信の『マーニー』だ。
本作は、ヒッチコック監督も1964年に映画化したウィンストン・グレアムのサスペンス小説をオペラ化したもの。2018年に初演された新しいオペラだ。作曲は、ビョークや、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ、フィリップ・グラス、ルー・リード、サム・アミドン、ルーファス・ウェインライトなど様々なアーティストともコラボレーションしている、1981年生まれのアメリカ人作曲家ニコ・ミューリー。演出は、ミュージカル『春のめざめ』
実はこのオペラ化、ヒッチコックの映画を愛するメイヤーが、ミューリーに音楽を、南アフリカ出身でイギリスにて活動する劇作家ニコラス・ライトに台本を、ぜひにと持ちかけたもの。ライトは、俳優、平幹二朗の最後の出演作である『クレシダ』やクリストファー・ウィールドン振付のバレエ『ふしぎの国のアリス』の台本を手がけた人物と言えば、分かる人も多いだろう。こうした布陣だからこそ、舞台はまるで映画か演劇を見ているかのようなリアルなドラマになっている。
物語の舞台は1959年のイギリス。会計事務所のクライアント、マークは事務員として働くマーニーの美しさに引かれる。しかしマーニーはオフィスの金庫から金を盗んで行方をくらます。彼女はあるトラウマから、職を得ては泥棒を働いて母親に貢ぎ、別の町に移って同じことを繰り返すという生活をしていた。やがて、ある職場の面接を受けに行ったマーニーを出迎えたのは、あのマーク。マークは気付かぬふりをして彼女を雇う。果たして、彼女の運命は――? スリリングなストーリー展開と鮮やかな音楽で、心に傷を抱え、罪を犯すマーニーの葛藤と魂の解放が描かれる。
マーニーを演じるメゾソプラノのイザベル・レナードは、高難度の歌をこなす歌唱力に加え、見事な美貌とプロポーションの持ち主。15回の衣裳チェンジで体現する1950〜1960年代のファッションも楽しい(デザインは映画の衣裳を数多く手がけるアリアンヌ・フィリップス)。マーク役のクリストファー・モルトマンはバリトン、マークの弟テリー役のイェスティン・デイヴィーズはカウンターテナーと、声の違いも味わいたい。指揮はアメリカ人指揮者ロバート・スパーノ。
ニューヨーク現地時間4月30日19時30分〜5月1日15時30分(日本時間では、5月1日(金)8時30分〜5月2日(土)4時30分まで)。
※英語字幕付