Photograph: Marnie/Courtesy Richard Hubert Smith
Photograph: Marnie/Courtesy Richard Hubert Smith
Photograph: Marnie/Courtesy Richard Hubert Smith

自宅で観劇:第7回 まるで映画? 演劇? 斬新な現代的オペラ

ヒッチコックの映画化作品、プーシキンの小説原作のオペラを紹介

Hisato Hayashi
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テキスト:高橋彩子

さまざまな才能が集まって成立するオペラは、聴いて良し、観て良しの総合芸術だ。金銭のかかる芸術だけにどうしてもチケット代が高くなるので、初めの一歩が踏み出せない人もいるかもしれない。世界の歌劇場もそのことはよく分かっていて、簡単には劇場に足を運べない人たちのために、ライブビューイングに力を入れているところが多い。そして外出自粛が続く今、それらの映像を放出してくれているのはうれしい限り。まずは一流歌劇場の舞台を、映像で楽しんでみてほしい。

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自宅で楽しめるステージビューイング

メトロポリタン歌劇場『マーニー』

普段から『Metropolitan Opera Live in HD』(日本ではMETライブビューイング」の名で舞台映像を配信しているメトロポリタン歌劇場は、その潤沢なアーカイブから、『Nightly Met Opera Streams』として、毎日異なる演目を配信中。ニューヨーク現地時間で19時30分から翌日15時30分までの限定配信なので見逃しがちだが、オペラを見慣れていない人に何としても見てほしいのが、4月30日配信の『マーニー』だ。

本作は、ヒッチコック監督も1964年に映画化したウィンストン・グレアムのサスペンス小説をオペラ化したもの。2018年に初演された新しいオペラだ。作曲は、ビョークや、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ、フィリップ・グラス、ルー・リード、サム・アミドン、ルーファス・ウェインライトなど様々なアーティストともコラボレーションしている、1981年生まれのアメリカ人作曲家ニコ・ミューリー。演出は、ミュージカル『春のめざめ』でトニー賞最優秀演出家賞を受賞するなどブロードウェイで活躍し近年はオペラの世界でも評価を得ているアメリカ人演出家マイケル・メイヤーが手がけている。

実はこのオペラ化、ヒッチコックの映画を愛するメイヤーが、ミューリーに音楽を、南アフリカ出身でイギリスにて活動する劇作家ニコラス・ライトに台本を、ぜひにと持ちかけたもの。ライトは、俳優、平幹二朗の最後の出演作である『クレシダ』やクリストファー・ウィールドン振付のバレエ『ふしぎの国のアリス』の台本を手がけた人物と言えば、分かる人も多いだろう。こうした布陣だからこそ、舞台はまるで映画か演劇を見ているかのようなリアルなドラマになっている。

物語の舞台は1959年のイギリス。会計事務所のクライアント、マークは事務員として働くマーニーの美しさに引かれる。しかしマーニーはオフィスの金庫から金を盗んで行方をくらます。彼女はあるトラウマから、職を得ては泥棒を働いて母親に貢ぎ、別の町に移って同じことを繰り返すという生活をしていた。やがて、ある職場の面接を受けに行ったマーニーを出迎えたのは、あのマーク。マークは気付かぬふりをして彼女を雇う。果たして、彼女の運命は――? スリリングなストーリー展開と鮮やかな音楽で、心に傷を抱え、罪を犯すマーニーの葛藤と魂の解放が描かれる。

マーニーを演じるメゾソプラノのイザベル・レナードは、高難度の歌をこなす歌唱力に加え、見事な美貌とプロポーションの持ち主。15回の衣裳チェンジで体現する1950〜1960年代のファッションも楽しい(デザインは映画の衣裳を数多く手がけるアリアンヌ・フィリップス)。マーク役のクリストファー・モルトマンはバリトン、マークの弟テリー役のイェスティン・デイヴィーズはカウンターテナーと、声の違いも味わいたい。指揮はアメリカ人指揮者ロバート・スパーノ。

公式サイトから視聴

ニューヨーク現地時間4月30日19時30分〜5月1日15時30分(日本時間では、5月1日(金)8時30分〜5月2日(土)4時30分まで)。

※英語字幕付

新国立劇場 オペラ『エウゲニ・オネーギン』

新国立劇場も、過去の公演の記録映像を配信する『巣ごもりシアター』を期間限定で実施。オペラでは、第一弾『魔笛』、第二弾『トゥーランドット』に続いて、現在『エウゲニ・オネーギン』を公開中だ。

本作は、19世紀のロシアの文豪、アレキサンドル・プーシキンの小説を、チャイコフスキーがオペラ化したもの。新国立劇場ではモスクワ・ヘリコン・オペラの芸術監督でもあるロシア人演出家ドミトリー・ベルトマンを演出に招き、ウクライナ人指揮者アンドリー・ユルケヴィチの指揮で2019年に初演した。

対照的な性格を持つ二人の姉妹、姉タチヤーナと妹オリガがいる田舎のラーリン家に、オリガの婚約者レンスキーが、友人オネーギンを連れてくる。オネーギンに恋したタチヤーナは夜を徹して彼に恋文をしたためるが、厭世的なオネーギンはタチヤーナに手紙を返し、自分は結婚生活に向かない人間だと告げる。

ラーリン家の舞踏会。オリガとばかり踊るオネーギンにレンスキーは激高し、決闘を申し込む。結果は、オネーギンの勝利となり、レンスキーは命を落とす。

数年後、グレーミン公爵邸の舞踏会に放浪の旅を続けていたオネーギンが現れる。そこには、グレーミン公爵夫人となり、まばゆいばかりに光り輝くタチヤーナの姿があった。数年前とは立場が逆転し、タチヤーナに熱烈な求愛を送るオネーギンだったが……。

一見、スタンダードの様でいて、人物描写や群衆の動かし方などにリアリズムを超えた象徴的な趣向を施しているベルトマン演出は、不思議な味わいがいっぱい。タチヤーナはソプラノのエフゲニア・ムラーヴェワ、オネーギンはバリトンのワシリー・ラデューク、レンスキーはテノールのパーヴェル・コルガーティンとロシア勢が並ぶなか、ロシアが生んだ世界的歌手エレーナ・オブラスツォワに師事したメゾソプラノの鳥木弥生がオリガ役を演じている。

全編映像はこちら

5月1日(金)14時まで。

※日本語字幕付

高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。「エル・ジャポン」「AERA」「ぴあ」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜を連載中。

 http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

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オペラの歴史は400年以上。なじみのない人には古臭いイメージがあるかもしれない。でもオペラは、今こそ観るべき芸術だ。何故なら面白いから!というのが筆者の本音だが少々乱暴なので、以下にその理由を記しつつ、今年から来年の日本で楽しめる公演をご紹介。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で今は外出もままならないが、終息した暁には、オペラを心ゆくまま味わってほしい。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、外出を控えている人、見るはずだった公演が中止になってしまった人、さらには海外への観劇旅行をキャンセルした人もいることだろう。しかし、代わりに多くの劇場が無料で映像配信を行っており、自宅で見られる映像がざくざくだ。その中から、お勧めできる映像を独断と偏見で選んでご紹介しよう。この機会にあなたも、ダンスや演劇、伝統芸能の鑑賞デビューを。

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