英国シェイクスピア・グローブ座:『ハムレット』
固定された性別から解き放たれた配役
イギリスのシェイクスピア・グローブ座は、毎週月曜日から2週間ごとに1作、過去の舞台映像を無料配信する。現在、その1作目として、2018年上演の『ハムレット』を見ることができる。
グローブ座といえば、シェイクスピアが自作を数多く上演した劇場。17世紀に閉鎖されたが、1997年、かつての場所から230メートルほど離れた場所に同じ姿で再建されて今に至る。
映像でまず注目してほしいのは、そのユニークな空間だ。舞台上には巨大な2本の柱(大理石に見えるが実は木製)。その舞台を囲むように存在する客席のうち、平土間には天井がなく立ち見席となっている。舞台に手をついて鑑賞する観客の姿からは、舞台と客席がいかに近いかが分かるだろう。
物語の舞台はデンマーク。先王が死に、その弟クローディアスと先王の妻ガートルードが結婚している。先王の息子ハムレットは、亡き父の霊から自分を殺したのはクローディアスだと聞き、暗殺を再現した芝居を見たクローディアスの反応からそれが事実であることを確信する。狂人のふりをし、親友ホレーショの助けを借りながら復讐(ふくしゅう)をしようとするハムレットは、恋人オフィーリアを狂気の末の死へと追い込んでしまう。オフィーリアの兄レアティーズに、フェンシングの試合を申し込まれたハムレットだが、その剣には毒が仕込まれており、最後にはハムレットもレアティーズも、そしてクローディアスもガートルードも、死を迎える。
このプロダクションの大きな特徴は、ハムレット役を女性のミシェル・テリーが男装で演じていることだ。同様に、ホレーショ、レアティーズを演じるのも女性。一方、オフィーリアを演じるのは女装した男優である。
といっても、「ハムレットは実は女性だった」といった読み替えがなされているわけではない。ジェンダーフリー(gender blind)で自由な配役によって、役柄を固有のイメージから解き放っているのだ。それによって実際、父の霊とハムレットの別れといい、オフィーリアへのハムレットの罵倒といい、従来とは違う感覚がたくさん生まれている。常にセットで行動するハムレットの学友ローゼンクランツとギルデンスターンのキャラクターづけにも注目してほしい。
主演するテリーの、グローブ座の芸術監督のお披露目演目の一つとして上演された本作。舞台美術の無いシンプルな舞台で繰り広げられる、新たな時代を見据えた意欲作をお見逃しなく。パンフレットをダウンロードできるのもうれしい。
英国シェイクスピア・グローブ座:『ハムレット』
フェデレイ・ホームズ&エル・ワイル演出
2020年4月19日(日)で配信終了。
※グローブ座のアカウントは今後、『ロミオとジュリエット』『夏の夜の夢』『冬物語』『二人の貴公子』『ウィンザーの陽気な女房たち』など順次配信予定。