海外も含めると年間100店以上の鮨屋を訪れる私が、悪い意味で人生で一番ショックを受けた握りは、10年以上前に上海で食べたものだ。それは、酢飯ではなく味がついていない米に魚がのっている「サシミご飯」だった。それ以来、私は鮨におけるシャリの重要性を強く意識するようになった。「継ぐ鮨政」において、その店名と同じくらい個性的なのは茶色に近い、赤酢のシャリだ。見た目の色に対して、決してシャリの味が濃いわけではないところがポイント。マグロだコハダだとネタの好みが話題になることは多いが、シャリでも自分の好みを探ってほしい。鮨の原点を求めて、滋賀県のなれずし専門店に住み込みで修業したこともあるという親方、周嘉谷正吾のこだわりは、もちろんシャリだけには留まらない。ハイエンド鮨屋には珍しく、一品料理のメニューが約40種類あるという充実ぶりは特筆に値するだろう。つまみには火が入っているモノも多く、生物が苦手な外国人を連れて行くのにも好適。
おまかせコース:1万2,000円〜
18時00分〜24時00分(最終入店)
休み:日曜日
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ハイエンド鮨屋の評価はなかなか難しい。それは「親方のキャラ」が、店の印象をトータル的に決めてしまうからだ。仮に、まったく同じ食材、調理法、金額の鮨屋が2軒あるとして、1軒には明石家さんまのようなトークの親方、もう1軒は高倉健のような親方がいるとしたら、あなたはどちらを選ぶだろうか?鮨屋というのは世界でも類を見ない「シェフと食材や調理法の相談をしながら食事をする店」であり、今風の表現をすれば、すべてのハイエンド鮨屋は「シェフズテーブル」なのである。客がその店を気に入るかどうか、究極には相性と言うしかない。
とはいえ、それでは「東京の鮨屋 10選」などいつまでたっても選ぶことはできないので、ここでは次の3点を意識して選んだ。
・超高額店ではないこと
飲み物別で、1人前税込み2万円以上かかる店は「超高額店」と言っていいだろう。1人あたり平均3万円の店と1万の店を並列に語るのは、客単価800円のラーメン店と2,500円の高級中華ランチを比べるようなものである。
・ミシュラン掲載店ではないこと
これはシンプルに、有名店の羅列では情報として面白みがないし、点数や星など、数値的な評価に対するささやかな違和感の表明でもある。
・親方のキャラに個性があること
鮨屋の印象を決めるのは親方のキャラクターである。伝統を重んじるのか、意外性を打ち出すのか。シャリへのこだわりは?飲み物の品揃えは?など、オーナーシェフである場合は、店の場所選びから値付け、サービスにいたるまで、ほぼすべてが親方のキャラだと言っていいだろう。私にとって、鮨屋の楽しみは「親方を楽しむ」ことでもあるのだ。