1. 外国人に先入観や偏見を持たない
普段、外国人と接する機会が少ない日本人は、見た目や言葉、文化の異なる彼らに対して「付き合いにくい」「 何となく怖い」といった先入観を持ちがちだ。そのため、無意識に日本人に対してとは違う態度で接してしまう。しかし、一口に外国人と言っても、その国籍や価値観は一人一人違う。彼らをあからさまに「特別扱い」するのではなく、フラットな視点で接する態度を身に付けよう。
タイムアウト東京 > Open Tokyo > マルチカルチュラルな社会に必要な8のこと
※日経マガジン2019年8月発行記事より
日本で暮らす外国人の増加を背景に、近年よく耳にするようになった「多文化共生」という言葉。異なる文化を持つ人々が、互いの違いを認め合い、対等な関係を築きながら生きていくことを意味している。『東京オリンピック・パラリンピック』以降も、東京が世界をリードするグローバル都市として成長し続けるためには、外国人と日本人が共に活躍できる環境を整備する必要がある。ここでは元外務省国際文化協力室長で、多文化共生政策に主導的な立場で関わってきた経験を持つORIGINAL Inc. の高橋政司の提言を紹介。人生の大半を海外で過ごし、在外交館などで外国人スタッフと仕事をしてきた彼自身の経験をもとに、マルチカルチュラルな社会の実現のために、今日から始められる8つの心構えを提案する。
ORIGINAL Inc. 高橋政司
日本はこれまで、欧米と比べると「移民の少ない国」と考えられてきた。私たち日本人自身も、そのように認識してきたはずだ。しかし、日本で暮らす在留外国人の数は、2018年末時点で約273万人。30年前(1988年)の約94万人からほぼ3倍に増えている。さらに、2019年4月の入管法改正で外国人が就ける業種が増えたことにより、今後5年間で最大34万人の外国人材が新たに来日すると予想されている。こうした状況を踏まえ、日本では今、全国的に多文化共生の推進が重要な課題だ。行政サービスの多言語化や外国人に対する 入居差別の解消、宗教に対する理解、就労支援など、多文化共生において日本にはまだまだ課題が山積している。
最も重要な視点は、外国人を含めた全ての人が能力を最大限に発揮できる社会にしていくことだ。そのためにまず実施すべきなのは、日本語教育支援の拡充だろう。職場や学校、行政サービスなど、ほとんどの場面で日本語によるコミュニケーションが求められる日本では、日本語を話せないと日常生活に支障を来す。しかし、日本語教育に関する支援体制は、留学生や一部のビジネス関係者を除くと、ボランティア頼みとなっているのが現状だ。また、来日した外国人が自国の家族を呼び寄せたり、新たに子どもが生まれたりした場合、その家族に対する支援体制も十分とはいえない。
日本で共に暮らし、日本人と外国人が互いに信頼関係を築いていくには、日本に住む全ての外国人が日常生活や仕事で困らないレベルの日本語を身に付けられる法的な枠組み作りが急務だろう。一方、移民の受け入れや多文化共生政策で日本の先を行く欧州では、「インターカルチュラル シティ」という都市政策が注目されている。欧州評議会と欧州委員会が推進するプログラムで、現在は100をこえる都市が参加している(日本でも浜松市など、この理念を取り入れようとしている自治体もある)。同プログラムの基本理念は、移住者や少数者が持つ文化的多様性を脅威ではなく好機と捉え、都市の活力や成長の源泉にしていこうというものだ。その根底には、異なるそれぞれの文化を尊重するだけでなく、共に暮らす市民として住民同士が強い信頼関係によって結束することが重要だという考えがある。日本にも、同様の「発想の転換」が必要だろう。
日本にやって来る外国人たちの強みは、彼らが持つ様々な背景に根ざした多様性だ。それらが日本の文化と混ざり合うことで新しい発想やアイデアが生まれ、やがて新しい価値となっていく。外国人たちを「サポートや手助けが必要な厄介な人々」ではなく、日本社会の大切な一員と捉えること。まずはそんな意識改革から始めることが大事ではないだろうか。
普段、外国人と接する機会が少ない日本人は、見た目や言葉、文化の異なる彼らに対して「付き合いにくい」「 何となく怖い」といった先入観を持ちがちだ。そのため、無意識に日本人に対してとは違う態度で接してしまう。しかし、一口に外国人と言っても、その国籍や価値観は一人一人違う。彼らをあからさまに「特別扱い」するのではなく、フラットな視点で接する態度を身に付けよう。
多様な背景を持つ外国人が地域社会や職場に入ってくれば、多くの場合、言葉や生活ルールなどに関する課題が生じる。実際のところ、こうした変化に抵抗を感じる日本人は少なくな い。しかし、外国人たちがもたらす多様性は、課題だけでなく、イノベーションや新しい価値の創出につながる。そのためには、一人一人が個々の違いを尊重し、地域や職場の強みと して捉え直す視点を持つことが重要だ。
言葉が通じる日本人同士でさえ、お互いの考えや思いを伝え合うことは難しい。日本語が母語ではなく、異なる文化や価値観の中で生きてきた人々とのコミュニケーションでは、なおさらだ。それは時に、混乱や誤解を生むこともある。共通の背景を持たない人々に「阿吽(あうん)の呼吸」や「空気を読むこと」を求めるのではなく、相手の立場を思いやり、言葉を尽くして理解し合おうとする姿勢が必要だ。
日本には古来より調和を重んじる文化が根づいている。それは優れた美徳である一方、外国人とのコミュニケーションにおいては不調和の原因となることもある。自己主張せず、はっ きりと意見を言わない日本人の曖昧さは、外国人には理解されにくい。多文化共生を実現するには、それぞれが意見や主張を述べ合い、ベストな解を共につくり上げていく必要がある。適切な自己主張の方法を今一度、考えてみよう。
外国人たちが日本での暮らしや職場環境にスムーズに適応するためには、共通のルールが必要になる。そのためには、異なる背景を持つ人々でも理解できるよう、できるだけ曖昧さを省く必要がある。誰が見ても明白なデータや数字を用いながら分かりやすくルール化、明文化することも有効だ。また、このような作業は、これまで曖昧だった生活ルールや業務内容を見直すいい機会にもなるだろう。
「郷に入れば郷に従え」ということわざにもある通り、新しい土地に来た者がその土地の文化や習慣を尊重する姿勢は大切だ。外国人が日本で快適に暮らしていくためにも、彼らにできるだけ日本語力や文化習慣を身に付けてもらうことは重要。しかし、日本のルールを一律に押し付けることは、外国人たちが持つ多様性の否定につながることもある。彼らの声にもしっかり耳を傾ける姿勢を忘れてはならない。
当たり前のことだが、世界中には日本人とは全く異なる価値観や文化に倣って生きている人々が大勢いる。特に宗教に関しては、多くの人々にとって心のよりどころであり、文化文明 の基礎となっている場合も多く、我々日本人が考える以上に重要な意味を持つ。全てを理解することはできなくても、さまざまな場面で彼らの信仰心に配慮することは、多文化共生の実現 に欠かせない態度といえるだろう。
言葉の壁や文化の違いに適応するため、様々な課題を抱えがちな外国人たちは、支援の対象として見られる場面も多い。しかし彼らは、地域社会を構成する仲間の一人でもある。実 際、東日本大震災の際には、被災地の日本人と外国人たちが互いに助け合い、支え合う光景も多く見られた。緊急時には、遠くに住む親戚よりも隣の外国人が支えになるときがある。彼らを敬遠せず、日々交流する姿勢を忘れないでいたい。
高橋政司(たかはし・まさし)
ORIGINAL Inc.執行役員、シニアコンサルタント。1989年、外務省入省。ドイツなどの日本大使館、総領事館勤務を歴任後、多文化共生政策やインバウンド政策を担当。2012年、(一社)自治体国際化協会の多文化共生部長、JETプログラム部長を経て2014年からはUNESCO業務を担当、多数の世界遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。
日本で暮らす外国人が増えている。法務省の統計によると、2018年末時点で在留外国人の数は約273万人となり、過去最多を記録。今年4月には入管法の改正で新たな在留資格が創設された。建設業や外食産業などでも外国人が働けるようになり、彼らの存在はますます身近になっている。多様な人々と混ざり合い、ともに生きる「マルチカルチュラル(多文化)」な社会の実現に必要なことは何だろうか。独自のアンケートや識者へのインタビューを通じて考察した。 まず、「外国人として日本で暮らす中で不便や課題を感じたことは?」という質問に、8割近くの在日外国人が「日本で暮らす上で不便や課題を感じている」と回答。特に日本語でのコミュニケーションについて課題を指摘する回答が多く、日本語を学ぶ機会の提供やサポートを求める声が目立った。ごみ出しの複雑なルールや災害時の対応について戸惑いを感じる意見も複数あった。 例えば、ドイツ出身のライターで翻訳者のタベアは、銀行に英語を話せる職員がおらず、手続きにかなり時間がかかってしまったそうで、金融機関にはせめて英語対応をしてほしいと話している。 そして、「外国人であることを理由に差別やアンフェアな扱いを受けたことは?」という問いに対しては6割以上が、外国人であることを理由に差別的扱いを経験したと回答。具体的な事例として最も多かったのは、家を借りる際に入居を断られるケースだ。また、口座の開設や行政サービスなどの手続きにおいても「外国人への配慮が不十分」との指摘が目立った。これらの点については改善が急務だろう。 「日本が多文化共生していくために改善すべき点」については多くの回答者が、日本語が得意でない外国人でもスムーズに暮らしたり働いたりできるよう、多言語対応をはじめとする社会施策や公共サービスの充実を望んでいることが分かった。一方、滞在歴の長い一部の在日外国人からは「日本で暮らす以上、外国人も日本の文化や言語に適応するべき」との声も寄せられている。 しかし、多文化共生や多様性理解には課題が残るものの、7割以上が「これからも日本に住み続けたい」と、多くの在日外国人は日本に対してボジティブなイメージを抱いている。個別回答では、治安の良く清潔な都市環境や日本人の礼儀正しさ、おもてなしの精神などを高く評価する声が目立った。 ※日本在住外国人を対象に、多言語シティガイド『タイムアウト東京』のウェブサイト上でアンケートを実施(調査期間2019年6月21日〜7月12日)。回答者は37カ国205人(18〜65歳の男女)。
東京の社会福祉施設で働くグリズデイル・バリージョシュア(ジョシュ)は、カナダ出身の37歳。四肢にまひがあるため、4歳から電動車いすで生活している。そんな彼は、障がいを持つ訪日外国人観光客向けに日本のバリアフリー情報を発信するウェブサイトの運営者としての顔も持つ。日本において「外国出身」「障がい当事者」という2つのバリアに向き合ってきたジョシュに、日本のマルチカルチュラルリズムに対する期待と課題を聞いた。 ジョシュが運営する観光情報サイト『ACCESSIBLE JAPAN(アクセシブルジャパン)』では、東京を中心に、観光施設や交通機関、宿泊施設などのバリアフリー情報を英語で紹介している。 日本のバリアフリーについて、ジョシュは「世界から見ても非常に高いレベル」と強調する。特に東京の公共交通機関のバリアフリー化は進んでおり、車移動が中心だったカナダにいた時よりも「自由に行動できる」と感じているそうだ。 「ところが、海外の人にはそのことがあまり知られていない。英語によるバリアフリー情報の発信が進んでいないからです。これは非常にもったいない。障がいを持つ外国人でも、日本のホテルや交通機関を問題なく利用できると分かれば、もっと多くの人々が日本に来られるようになる。私がウェブサイトを始めた理由は、そこにあります」 ジョシュは高校時代に日本語を学んだことで日本の文化に関心を持ち、2000年に初来日。その後、2007年に日本に移住し、2016年には日本国籍も取得した。しかし、外国出身の障がい者として日本で暮らす立場になると、さまざまな壁に直面したという。 「まず苦労したのは、仕事探しと家探しですね。言葉の問題やバリアフリーに対応できないことなどを理由に、断られてしまうんです。また運良く仕事が見つかっても、日本の法制度では、就労時間中にヘルパー派遣などの障がい福祉サービスを使うことができないという問題があります。障がい者の社会参加という意味では、まだまだ改善点が多いと感じます」 一方、日本に暮らす外国人の数は約266万7000人(2019年1月1日時点)となり、日本の総人口比で初めて2パーセントを超えた。こうした変化を背景に、生まれた国や性別、障がいの有無などを問わず、誰もが生き生きと暮らせるマルチカルチュラルな社会の実現が急がれている。 「そのためには地域や学校、職場などで、互いにコミュニケーションを取る機会をもっと増やす必要があるでしょう。触れ合う機会がないまま、いきなり外国人や障がい者と向き合っても、どうしていいか分からないですよね。特に日本の人々は礼儀正しいので、失礼な言動をしてしまうことを恐れて身構えてしまう。重要なのは、接し方を知ることです。外国人や障がい者は特別な存在ではなく、身近な存在であると多くの人が思えたら、日本社会はよりマルチカルチュラルな社会になっていくはず。私はそう思っています」
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